第9話 レイラ視点

 私はレイラ。正確にはレインラーナ・アイスンというのだが、このホクホク王国の騎士だ。

 ゴローには情けない姿を何度も見せてしまっているが、これでも私は王国十騎士の一人氷剣鬼のレインラーナとして名を馳せている。


「ちっ、ここもハズレだったか」


 我ら王国十騎士は魔力滓を頼りにある人物を追っている。正確には人の形をした黒い影。我が国ではシャオウと名付けた。

 正直あれが人なのか魔物なのかも分かっていないが、あれは見過ごしていいモノではない。


 というのもヤツは影を奪い襲わせる。私も自分の影に襲われた。


 そう、あの日は突如現れた魔力の反応に、王国の兵士が当たったわけだが、すぐにその王国兵から救援要請の魔法が上がった。


 たまたま滞在していた私と、炎剣姫のアンナこと、アンリアナ・フレイムンに、土剣漢のドンモこと、ドングルモア・ロックエンが現地に向かったのだが、そこで見たものは壊滅している王国兵団と黒い影の集団。


 しかも、黒い影の集団は王国兵とまったく同じ流派の剣技使うではないか。どういうことだ。


 ただ我ら王国十騎士3人の相手ではなくあっさりと切り捨てていくが、不思議なことに魔物の様に死骸が残らならなかった。


 それでも残すは、こちらを静観していた他の影よりもひとまわり大きな影シャオウのみ、そう思った瞬間だった。


 そのシャオウの真っ黒な顔のあたりに赤く光る2つの瞳が現れたかと思えば、私の影が突然立ち上がり襲ってくる。


 しかも、私の影が立ち上がると同時に私の影は無くなり、力が抜けていく感覚に襲われる。

 不覚にも、その影が繰り出してきた剣を身体で受けてしまう。避けれなかったのはその剣技が私が使う氷剣そのもので気づいた時には間に合わなかったのだ。


 それは私だけではなくアンナやドンモにも同じような事が起こっており、私は左目や左片腕、アンナは頭部に大火傷、ドンモは右足を失ったがどうにか撃退。撃退すると共に私の影が戻り力も戻ってきた。


 ただし、シャオウには逃げられてしまう失態をおかす。


 その後は、遅れて駆けつけて来た王国騎士団に状況を告げ、息のある王国兵と連れて撤退。


 私たちは治療院に入院することになったが、我が国には欠損を回復させるパーフェクトヒールを使える回復士が少ない上に、パーフェクトヒールで欠損を回復させても一度では回復しきれず何度も使う必要があるため回復士の魔力は無駄にできない。


 そのため私たちには通常のヒールだけに留め、今にも命を落としそうな王国兵を優先させた。


 それから数日経ったが、王国兵の治療が難航していて、大きなキズや左目、左腕の治療はできずにいる。この分では年内の治療は無理だろう。下手をすればさらに伸びることも。


 分かっている。分かっているが、いつも通りの鍛錬ができないせいもあり、私はかなり落ち込んでいた。


 そんな時、宰相補佐からある人物の話を聞く。それがゴローだった。


 はじめはゴローという人物を尋ねて飲んでこいとしか言われてなくて、そこが男娼館だとは知らずに足を運んだのだが、入る前に中でのシステムのことを聞き、意を決して入館した。


 はじめこそ慣れずに緊張していたが、うまいツマミとエールを飲んだり食べたりしているうちに緊張はほぐれて、いい気晴らしにはなった。


 店内の雰囲気も良いし。


 どちらかといえば恐れられている私を彼はちゃんと女性として扱ってくれるのも良かったのかも。


 そんな時、それは突然起った。信じられるか、名前しか名乗ってないのに彼は私のキズや欠損を全て治したのだ。しかも一瞬で。何をしたのかさっぱりだが、ここではお互いに詮索は禁止。

 普段なら気にもしないことを考えてしまった理由は、


「え!? え、ひ左目が、見える……それに、腕が……」


 私は思った以上に堪えていたのだ。左目や左腕のない生活に。ゴローはイタズラが成功した様な笑みを浮かべていたかと思えば、人差し指を自分の口元にあてた。


「内緒です」


 私はそんな彼を一瞬で好きになっていた。


「あり……がとう……。ありがとうゴロー」


 涙を流したのはいつ振りだろう。ゴローには私を安心さセる何かある。


「はい、おかわりのエールです」


 しかも、ゴローは何事もなかったようにエールのおかわりを出してくれるが、照れた様子を隠せていない彼がとてもかわいく思えた。


 注文で忙しそうなゴロー。そんなゴローを眺めているのも悪くないが、私はエールを続けて2杯注文する。そうでもしないと勇気がでなかったのだ。


 部下が見ていれば笑われたかもしれないが、何せ私は初めてなのだから。

 でもその後にいたして爆発させた彼がしょんぼりとしている様子がとてもかわいく思えてもう一度いたした私と彼との身体の相性はかなりいいと思う。


 次の日には宰相補佐に報告すれば、目を見開いて驚き笑ってしまった。あの様子では宰相補佐自身も半信半疑だったのだろう。


 それからはシャオウを追いつつゴローのお店に通う毎日。最近のゴローは私の懐具合をかなり心配してくる。

 でも大丈夫。私の給金は毎日通ったとしても減るどころか増える一方なのだ。


 それなのにゴローときたら、掠りキズや日に焼けて少し荒れていた私の肌を綺麗にしたり、傷んでいた武具なんかも修繕してくれてたりする。

 さらには行為の後なのに逆に身体が軽く感じるほどリフレッシュしてくれてたり、私が気づいていないと思ってやってくれているゴローがとてもかわいい。

 それでいて、ゴローからとても大切にされている感もあるからクセになりそう。


——ゴロー……


 いけない。思い出したらゴローに会いたくなった。


「今日はもう遅い、お前たち帰るぞ」


「はっ」


 仕事を終えた私は今日もゴローの店に足を運ぶのであった。


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クラス転移に巻き込まれ用務員は魔力が0だった。 ぐっちょん @kouu

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