第4話

 たぶん気に入っている男娼が接客中なのだろう。とりあえず腰掛けにとこの席に座ったのだろうと。そう思えば納得もする。でもやはり傷痕が痛そう。


「いや、そう言う訳じゃなくてな……そうだな、とりあえずエール1つと何かツマミをくれないか」


「エール? あ、あの、その俺でいいんですか?」 


「ああ」


 女性がこくりと頷く。俺、初注文いただきました。


「あ、ありがとうございます」


 予想外の出来事。なぜか知らないが俺の売り上げに貢献してくれるようなので精一杯おもてなしをしよう。

 

 俺は笑顔を振り撒きつつ素早くアイススキルでキンキンに冷やしたエールを1つ作り、揚げてあった唐揚げにトーチスキルとウインドスキルを同時に使い再び熱々に温める。これ、俺の必殺技。


 冷めた唐揚げも美味しいけど、熱々だともっと美味しいもんね。

 だから、どうにかできないかと冷めた唐揚げを睨みつつスキルを意識していたら、こうやればできるっていう不思議な感覚が流れてきて、気づけばスキルを二つ同時に使っていて唐揚げが熱々になっていた訳だ。スキル様々だね。


「はい。エール1つに、おつまみは……唐揚げでもよかったですか?」


 女性の顔色を窺いつつエール1つと熱々になった唐揚げの皿をその女性の前に並べてみる。


 女性はえっ、えっ、と驚いていたが、問題ないとすぐに唐揚げを口に頬張りはふはふしたあとにエールを流し込んで「うまい!」と一言。

 だがやはり食べ方が不自然ですごく痛そうに見える。


 そこで俺はうずうずし出す。俺のケアスキルが女性の顔の傷から左目の失明、左腕の欠損、背中の傷、が治せるよと訴えてくるのだ。


 これも、あの奴隷商でケアスキルを使いまくっていたせいだと思う。


 スキルが俺の力として馴染んできたようで最近は相手を見るだけで症状が分かり治せるかどうかもすぐに理解できるようになった。


 今のところ治せない怪我や病気はないように感じる。だから目の前の女性の傷や欠損も問題なく治せると。


 俺がスキルを使いたい衝動に襲われていると。


「ゴローうまいぞ。もう一杯エールをくれないか」


 その女性がニコニコうれしそうに空になったコップを右手に持って突き出してきた。


 初めて俺の売り上げに貢献してくれたお客様。その女性がうれしそうな笑顔でもう一杯と言ってくれている。


 俺はうれしくなる。優しくされるとその人のことを男性でも女性でもすぐに好きになる(性的な意味ではない)チョロ男の俺。自覚はあるのだ。でもそんな性格なので仕方ない。


「はい、喜んで、とその前に……ちょっと失礼、これはサービスです」


 そう俺はうれしくなると相手に喜ばれる何かをしてやりたくなるのだ。

 だから、俺はコップを受け取るついでに、その女性の右手も両手で包みこみ、すぐにケアスキルを使う。


カタン


 すぐにその女性の左腕に嵌っていた義手が床に落ちる音が聞こえたかと思えば、女性の顔の傷、左目、左腕、背中の傷は見えないが、見える範囲の傷が綺麗に治っていく。


「え!? え、ひ左目が、見える……それに、腕が……」


 目を見開き驚く女性に俺は人差し指を自分の口元にあてる。


「内緒です」


 ちょっとカッコつけた感があるけど……よかった。


「あり……がとう……。ありがとうゴロー」


 女性の辛そうな泣き顔は嫌いだが、うれし泣き顔は好きだ。

 その女性のうれし泣き顔は見ていて綺麗だと思った。


「はい、おかわりのエールです」


 少し照れくさくなったので何事もなかったようにエールのおかわりを出す俺。


 その女性は何やら感傷に浸っているようなのでちらちらとその様子を窺いつつ俺はまたおつまみを作ったりイケメン男娼からの注文に応えたりと忙しくする。


 そのあとは、これと言った会話をした訳ではないが、その女性はそれからエールを2杯ほどお代わりをしてから顔を真っ赤にしたかと思えば、なんだか急に落ち着きがなくなる。


 あ〜そろそろお帰りかな? 会計の準備でもしとくか。


 そんな様子からそう判断していると、その女性の次の言葉に耳を疑った。


「き、君と奥に行きたい」


 突然のことだ。俺はびっくりする。かなり戸惑い動揺もした。

 でも顔は常に笑顔を心がける。内心はドキドキしていてプチパニック状態だけど。


「ぁ、ありがとうございます」


 どうにか平静? を装いながらもすぐにお礼を伝えた俺。そう言わないと女性が不安になるらしいのだ。他の男娼から聞いた受け売りだけど。


「う、うむ」


 俺の返事を聞いた女性がすっくと立ち上がり俺の手を取る。

 その女性で積極的になったので少し驚いたが、すぐに俺の方が奥の部屋へとエスコート。この日初めて男娼らしい仕事をしたよ。


 でもこの女性、レイラさんと言うんだけど、それ以上は本人から話さない限りこちらからは詮索しない決まり。だから名前以外知らない。

 なんとえちえちが初めてだったのだ。


「す、すみません」


 行為が終わって俺はすぐに土下座したね。なんならケアスキルで元に戻すとも。

 でもそんな俺の謝罪に対して首を張り「お礼だから」と笑顔で答えてケアスキルを拒否してくる。

 かなり溜まっていたから恥ずかしいくらいぶちまけてしまっているのにね。レイラさんは「気にするな」となんとも男らしい。綺麗な人なのに。


 でもなんだか申し訳ない気持ちはあるので、痛みだけそっと消してあげた。


 だけど、そしたら予想外にも、時間に余裕があったのでもう一回戦しようとレイラさんに言われ、それに応えたんだけど、一度スッキリしている俺は今度こそレイラさんをいい感じにしようと注力。


 俺はホッしたね。レイラさんサラシ巻いてて分からなかったけど、かなり大きなお胸様をお持ちだったのだ。

 俺だけ満足して、レイラさんはそうでもなかったという事態は避けたかったのだ。たぶん少しは満足してもらえたと思う。


 お風呂はないけど最後は部屋からベッドから何からナニまで俺がクリーンをかけて全て綺麗さっぱりに。


 クリーンってやっぱり便利。中にナニしてもクリーンさえしてしまえば妊娠する心配がないのだ。

 この世界の男娼館や娼館が成り立っているのもこの生活魔法のおかげ。俺の場合はスキルだけど。


「ゴローまた来る」


 そんなうれしい言葉を残してくれたレイラさんに手を振りお見送り。

 社交辞令かもしれないけど、俺はレイラの背中に向かって頭を下げた。


 この後は……まあ、いつも通りに、ご指名なんて入らず再び居酒屋のマスターの如くエールを作りまくりイケメン男娼たちのサポートに徹する俺だった。

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