とある宇宙のお話

くしやき

とある宇宙のお話

真っ白な衣で着飾って、青い宝石を散りばめて、緑の香りを身にまとう。

私に出来る精一杯を、だけど貴女は見向きもしないで、ずっとあいつだけを見つめている。

私はただその後ろ姿を見上げるばかりだ。

眩いだけのあいつなんかより、ずっと綺麗なその後ろ姿を。


その眼差しの熱さを思うだけで、私の胸は熱くなるのに。


それなのに、貴女はいつもあいつを選ぶ。


あいつの輝かしさが惹き付けるのだろうかと、真似をしてみたけどダメだった。

肩を叩いてみても、まるで私になんて気がついてないみたいに、貴女はただ、ただ。


恥ずかしがり屋な貴女が私の後ろに隠れると、ほんの少しだけ胸がすく。

だけどそれでも目は合わない。

私になんて、貴女は見向きもしないのだ。


見つめて欲しい。


誰よりも近くにいるのはこの私だ。


昔からずっとそうだ。

同じ形から分け生まれたみたいに、私たちはずっとずっと、ずぅっとそばに居て、そしてきっと、これからも永遠にそばに居るのだとそう思った。


だけど貴女は私を見ない。


その目を私に向けるために、私はたくさんのことをした。


宝石を沢山散りばめた。

歌を歌った。

大声で呼んだ。

あいつと同じになろうとしたこともあった。

最後には無様に泣き叫んだ。


それでも貴女は私を見ない。


見ない


見ない



……ああ


いつからだろう


私はいつしか、貴女を求めなくなった。


だって貴女のために全部をした。

全部全部全部全部して、私にはもうなにもなくなって、あとにはガラクタだけが残っていた。


ゴミの海の真ん中で、私は貴女を見つめている。


だけどやっぱり貴女は私を見向きもしない。


そんな貴女をどうしていつまでも求められるのだろう。


そんな貴女と、どうしていつまでもそばに居たいと思うだろう。


―――オマエサエイナケレバ


ゴミに塗れながら、いつしかそうとさえ思うようになった。


お前さえいなければ、私はもっと美しかった。


お前さえいなければ私は、なにも失うことなどなかったのだ。


私はお前のために全てを失った。


そうして得たものはこのゴミとゴミとゴミだけだ。


だというのにお前はいつも通りという顔をして、私のそばで、私以外を見つめている。


許せるはずもない。


許せるはずなどなかった。


だから。


だから私は最後の力で、お前に憎しみを突き立てた。


よくも私の全てを奪った、よくも私の全てを奪った!


お前は一度たりとも私のことなど見向きもせずに終わるのだ。

せいぜいあいつの目の届かないこの場所で、輝かしいその後ろ姿を最期に見せてくれ。


……そして私は。


貴女の死骸を抱いて、初めて知った。

初めて見た貴女の顔は、ああこんなにも、こんなにも傷ついている。


あんなに綺麗だった後ろ姿が嘘のように。


傷ついて、傷ついて。


……どうして


どうしてもっと早く、見せてくれなかったのか


どうしてもっと早く教えてくれなかったのか


そうすれば私は、あなたのその美しかった後ろ姿を、この手で汚すようなことをしないで済んだのに!


…………ああ。


この期に及んで、私はどれほど身勝手なのだろう。

まるで私がこの宇宙の中心であるかのような、そんなひどく自分本位な考えじゃないか。


どうして、なんて。


そんなの私が言えたことじゃない。


私ははじめからずっと、ずっと、彼女の綺麗なところばかりを見つめて。

こんなふうになるまで……なってなお、それでも私のそばに居てくれた彼女を、私は……



どうして私にこんなことをしたの?


私はずっと、貴女のそばに居たのに。



……ああ


貴女の骸はとても冷たい。

冷たくて、硬くて、痛くて、痛い。


だから私は、抱きしめる。


私の一番暖かいところに届くくらいまで、強く、強く。

せめて安らかにと、そう願って。


そして。


そして私は行く。


貴女とならきっと届くだろう。


近づくことさえ許されないあいつの所に。


貴女となら、きっと。


私よりも暖かくて。

私よりも眩しくて。

私よりもずっと遠くにいるあいつのところに。


……私となら、きっと。


きっと。


だからもう少しだけ、私のそばにいて欲しい。

あなたのその傷だらけの顔を、もう少しだけ、私のものにして欲しい。


だってこんなにも貴女は素敵だ。


それとも私の目が貴女をそう見せているのだろうか。

貴女のたくさんの表情を、勝手に思い描いているだけなんだろうか。


それでも、いい。


そうしたらきっと最後には、いちばん綺麗な終わりを見せてあげるから。


―――でも。


いつか私たちが新しく生まれたら。


そのときは……どうか、どうか私のことを、少しでいいから見つめてくれませんか……

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