第37話

「あの、お姉さま?」

「あによ、わ―ってるわよ、謝ったんだからよくない?」

「でも『頑張る』って言って何時間頑張った?」

「もういい‼ あんた帰れ! 一応言うけど死ぬ気で頑張ったんだかんね? 涙ぽろぽろ流しながらさ。もうあんたなんか親でもなければ子でもない! いや、ないけどね‼」

今何してるかと言えば、昨日の再現だ。

結局この時間になれば家族恋しさで呼ばれる羽目に。

こんなことなら昼間実家にいればよかったのだ。どうもこの姉とばりは自分の心の強度を過信している。

しかも昨日と違うのは明日学校なので登校する準備をしてこないといけなかった。

果てしなくめんどくさい。しかも、昨日と同じでとばりになったサブリナは小学生並みの時間に消灯していた。

だから、オレがトバリナのとこに来てるのは知らない。LINEはしたものの、寝てるので当然既読は付かない。

父さんに任せてはきたものの、父さん自身明日から仕事だ。しかも日勤というやつなので朝が早い。サバリと意志疎通がどれくらいできるか。

それに、変に朝から父さんがサバリを構うのも母さん的には不自然だし……仕方ない出たとこ勝負だ。


「やっぱさ、広過ぎんのよ」

トバリナはマンションのリビングを見渡し、溜息と共に吐き出した。

「言ってる意味はわかる」

オレは無機質なリビングを見渡し少し呆れた。A式のメンバ―くらいならリビングで合宿出来そうだ。それくらい広い。

「明日どうすんの? 行けるの、学校」

「行くよ。ふたりのこと気になるし。部活と体育を休めば何とかなる」

オレは学校指定のカバンを床に置きながら答える。

「明日からクラスメイトだね」

「そういうことになるなぁ」

「楽しみ?」

「ん……変な感じ。緊張するっていうか。姉さ……サブリナは?」

「なんかドキドキしてる。あと、さっきのごめん。完全無欠の八つ当たりだぁ。さみしいとさ、ごめん」

「いい。慣れてるし、知ってる。ご飯は?」

「食べた、この娘マジで燃費悪いわぁ。へこんでてもお腹すくのよ、どう思う?」

「どう思うも、何も――」

オレはキッチンのテ―ブルにあった牛丼の容器、明らかに大盛とシ―フ―ドヌ―ドルの殻に呆れた。

「姉さん、食えるからって調子乗ると『デブリナ』になるぞ?」

「そう思うんだけど、体重変化ないのよねぇ…それよりあの娘、監視しといてよ。いつもくらい食べてたら私の体じゃ太るからね!」

そんなことを話しながら当たり前に同じベットに入った。


昇平しょうへい…さん。お母さん怒ってない? 二日も外泊なんて」

「それが意外にも。それより――」

「うん」

「怖いならウチに泊まればって。聞いといてって」

「そうなんだ。どうしよ、なんか泣きそう……」

こういう時はだいたいもう泣いてる。そして二人して寝落ちした。小学低学年くらいまで一緒に寝てたからか、近くにいると落ち着くみたいだ。


その夜は目が覚めることなく朝を迎えた。トバリナの髪をブロ―するドライヤの音で目が覚めた。

「おはよ、起きた?」

トバリナは当たり前のように、ベットの端に座るオレのトコにきて頬にキスした。

姿は例の大きめのワイシャツで下は履いてない、薄いブル―の紐パン……ん? 紐パンじゃない。普通のパンツだ。

「紐パンやめたの、さすがに学校にはねぇ。きのうコンビニで普通の買った」

そう言って前をはたけさせて見せる。

「姉さん、お言葉だけど日本じゃ姉弟きょうだいで頬っぺたとはいえ、キスしませんが? あと、パンツも当たり前に見せない。サブリナの体でドキドキしたら嫌だろ?」

トバリナは少し「ん――」と考えてニコリと笑った。


「やめたの、わたし。あんたの姉さん。だって戻れるかわかんないし、いまを楽しまないと。だから、そうね……付き合ってください!」

「え?」

「『え?』じゃない! 告ってんの! 今日からあんた、この娘の彼氏ね? つまりふたりは恋人‼ もう学校裏サイトには書き込んだからね?」


なんか、怒涛の攻めでオレは姉さん、いやトバリナと真剣交際をスタ―トしたようだ。しかし、事件はびっくりするほどすぐ起きた。


「どうすんの、あの娘寝坊じゃない?」

いつもの電車。いつもの2両目にサバリこと中身サブリナのとばりは現れない。のぞみ六実むつみも何も聞いてないようだ。

オレと中身とばりとはいえ、見た目サブリナと突然ふたり電車で現れたら混乱させるだろうと前日にLINEしておいた。

その甲斐あって六実むつみは心配そうにトバリナに話しかけていた。

ふたりを横目に電車に揺られながら父さんにLINEをしてみた。

方向音痴のことがあったので、通勤前に駅まで送ってもらう約束をしてたのだけど。

父さんからの返事は「駅まで送った」だった。

駅前のコンビニにでも寄ったのだろうか?

サバリにLINEしてみるとすぐに既読がついて「先に行ってください!」だった。

オレはその内容をトバリナに見せると肩をすくめて「仕方ないわね」と少し溜息をもらす。心配なのは変わらない。

連絡が付かないワケじゃないので、気になりながらもオレたちは学校へ向かった。


しかし、4時限目が終わってもサバリは県立江井ヶ島えいがしま高校に姿を現さなかった。


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