第7話 意外と普通なんだ。

「なに、転校生といきなり伝説のテ―ブル席に陣取ったわけ?」


血縁関係がない姉とばりはおかしそうに、ニマニマした。

自分の膝に肘をついて、意味ありげな視線を投げる。

姉としてけしからんくらいイイ女感が漂う。


八十年代のポップでキュ―トなイラストのようだ。

場所は部室前のちょっとした日陰。

サブリナさんとお昼を共にした後、教室に送り届け(迷子になりそうなので)六実むつみに引き渡した。


五限目は体育だ。


女子がどこで着替えるかは知らないが、何にしてもオレの仕事ではない。

「そこしか空いてなかったのと、サブリナさんが知らずにそこを選んだ」

オレは少し苦い顔した。

それは以前入学したてで、何も知らないオレを姉とばりはだまし討ちのように、その伝説のテ―ブル席で隣にオレを座らせた。

とばりは行き交う顔見知り女子に「弟なの、手出さないで」と釘を刺していた。


一通り釘を刺して、この席が伝説のテ―ブル席だと教えられたが、あとの祭りである。オレは同級生女子から完全にシスコン認定をされた。

とばりとばりで、ガチブラコンを披露したわけだ。

まぁ、別に間違ってないから特には否定していない。


がんばって否定して回ったところで、こういう話は面白おかしく語られる。

時間が過ぎるか、それ以上のネタを提供し情報の上塗りをすれば済むことだ。


そして残念ながら、オレは今回のサブリナさんとのことで転校早々のシャイニングブロンド女子に夢中なヤリ〇ン男子として情報を更新した。


目眩めまいがするほど名誉なことだ、まったく。


「怒んないのか?」

先ほども軽く触れたが、姉とばりがブラコン認定を自ら買って出るほど、どうかした姉だ。

それはオレも変わらない。

しかも、とばりは「私の弟にちょっかい出すな」効果を発動するためにオレと伝説のテ―ブル席に座った過去がある。


そう、それなりにヤキモチ焼きな一面を持っていた。

それは、昔馴染みの六実むつみも例外ではない。

それがサブリナさんに対してその「やきもちセンサ―」が緩い。

ここに来て、まさかの弟離れなのか?

何故かオレは軽く不安になる、まさか彼氏が出来たり……


そんなオレの僅かな不安を感じたとばりは、とんとんと自分の座るベンチの隣を叩いて「おいで」という。

なんか、はぐらかされそうな予感。

警戒するも、その言葉には逆らえない。

怖いワケではない。

あまり他では見せない柔和な表情――逆らう勇気が削がれる。

たぶん戸籍上は弟だし?


そりゃ、姉とばりに彼氏が出来ても仕方ないかなぁ、みたいなあきらめの脳内トレ―ニングは欠かさずしている。

それくらいに、弟の目からしてもかわいいし魅力的だ。

でも、まだ先でいいんじゃね?

五十年ほど先でも……人生100年時代だし。


「怒んない。人に親切にするように昇平しょうへいを育てたのは誰?」

「それは……姉さん…とばりだけど」

とばりはオレにふたりの時は「とばり」と呼ぶように言った。

主に家で、しかも両親がいない時に。外では滅多に呼ばない。


「あんた、ヤキモチ焼いて欲しいの?」

あぁ……そうかも知れない。

オレはとばりの反応が無関心に感じたんだ。

「ん……今回は特別。転校生だし、席となりだし、外国からでしょ? 文化というか習慣の違いとか、不安かなって。姉さん的には、そういうの放っとけないあんたが?」


学校で『好きなんですけど』頂きました!

そして軽く手の甲にそっと手を重ねられた日には――「わかった、姉さん!」みたいにいい返事をした。

チョロインならぬチョロ男です、はい。

そんな姉弟きょうだい水入らずに浸りたい午後のひと時。しかし、無常にもLINEがきた。


「だれ?」


六実むつみ

「はぁ⁉ ムツ? あんたさっさとムツ、ブロックしなさいよ!」

ん…サブリナさんに対してと、六実むつみに対しての反応が違い過ぎないか?


「――で、なに? ノ―部活デイだからね? 断って!」

六実むつみからの自主練強要だと思ってるようだ。しかし――

「姉さん。今日体育ないよな?」

「ないけど、なに?」

「ん……それがオレら五限目体育で、例の転校生サブリナさんがまだ体操服ないらしい」


「ないのって言われても、私のじゃあったとしてもジャ―ジ色違うでしょ? 学年カラ―」

それもそうか、そんな煮え切らない反応にとばりはオレのスマホを覗き込む。姉とばりの髪が頬にあたる。くすぐったいが、いい匂いがする。

「ちょっと見せて――」


伊吹いぶきの体操服(長袖、長ズボン)サブリナちゃんに貸してあげて。まだ、ないみたい。私のじゃ小さいし(笑)』

とばりは「貸したげたら?」みたいな目で見る。

「ヤダよ、半そで短パンなんてまだ、微妙に早いだろ。張り切ってるみたいだし……」


「なに言ってんの、ユニ半そで短パンじゃない」

「いや、それとこれとは……あっ」

言う前にとばりは『オッケ―!』のスタンプを送りやがった。

それを期に、とばりは「こつん」とおでこをオレのおでこにぶつけ教室に帰って行った。


小さく手を振って、思い出したように駆けて来た。

「放課後デ―ト。一回、家帰ってから行こ。学食で軍資金減ったでしょ?」

「減ったって言っても、オレもう――」

これしか無いしと言い掛けた口を人差し指で塞いだ。


? 机の二段目の引き出し。ノ―トの下のへそくり。あと、三段目の奥の秘蔵本。あのモデルさん、おかしいなぁ…姉さんとでしたが?」

かわいくニンマリした作り笑顔。オレにプライバシ―はない模様。


とばりと別れ、教室に帰る途中六実むつみにLINEをした。

『カバンにあるから取って渡してくれ』(ポスっ)

少しして返事が来た。

『いいけど、えっちなDVDとかないよね?(笑)』(ポスっ)

『あっ【サッカ―部女子マネ凌辱シリ―ズ】パ―ト2があるかも……』(ポスっ)


『あわわわわっ⁉』(ポスっ)

どこまで本気だか。部活の時も、こうだといいんだけど……オレは足取りも軽く教室に。

自販機の前でその足が止まる。

(そういや、今朝買収したなぁ…)

オレは女子が好きそうな、フル―ツ系のパックのジュ―スを小脇に抱え教室に戻った。


「ひゃん!」

思いのほか女子な反応に、オレは自分の行動を反省した。

今朝(冗談で)とばりにチクるとかの件で、ジュ―スで買収した女子の頬に、さっき自販機で買ったパックジュ―スを押し当てたのだ。


「悪い、そんなに……」


「責任。取ってくれるんでしょ? こんな声出さして」

頬を押さえ恥じらいながら返す。

なかなかノリがいい女子だった。

名前は…正直知らない。

入学してかれこれ三週間過ぎようとしてるが、クラスの女子の名前で知ってるのはサブリナさんと、六実むつみだけかも。


「いいけど、今からか?」

「うん……って。伊吹いぶき、意外にノリいいね?」

「そっちも、コレ」

「くれるの? 本気だったんだ。いいのに、ってか、これ選ぶ人いるんだ」

オレは手渡したジュ―ス「バナナショコラ」を見た。

うん、自分じゃ飲まない。


「おまえ、甘いのすきだろ?」


もちろん適当だ、なにせ名前も知らない。

「そうだけど、好きなのはだからね?」

チッちっち! わかってないなぁみたいに腰に手を当て人差し指を振る。

「そう? じゃあ六実むつみに――」

「いやいやいや、普通に貰うからね? ありがと、言葉だけかと」


「言葉責め好きなのか?」

「ん……たぶん。嫌いじゃないよ、そんな…アンド・YOU?」

「ミ―ツ―」

すると彼女は手馴れた手つきでストロ―をさし、チュ―と一口飲んだ。


伊吹いぶきって、意外に

「明らかに褒めてないよな…」

「褒めるとかじゃなくて、ほら。君この辺のじゃ、パないでしょ? 弟もしてるの部活で。信じてくれないよ? 伊吹いぶきが同じクラスなんて。伊吹いぶきって顔出しNGな感じ?」


「顔出しNG? こんな感じ?」

オレは片手で目元を隠した。

芸能人がスキャンダルの時よくするアレだ。

「あれあれ…伊吹いぶきめっさノリいい……スカしたヤロ―かと」

オレは最初、目隠しではなくダブルピ―スをしようかと考えたが、しなくてよかった。


危うくヤリ過ぎるとこだった。

伊吹いぶき。自撮り。ツ―ショットいい? 中一の弟に姉の偉大さを知らしめたいの!」

姉弟きょうだいと聞いて協力しないワケにはいかない。

オレはどうも、姉という立場の女子に甘いかも。

それもこれも姉とばりのせいなんだけど。


「その自撮りツ―ショット、ちょっと待った‼」

ここで、自撮りツ―ショットに「ちょっと待ったコ―ル」が掛かった。

腕組して眉間にしわ寄せる六実むつみと、申し訳なさそうな顔したサブリナさんだった。






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