第5話 目撃者

 一昨日、友人宅でドラッグパーティをやった帰りの事だった。


「おい、待てこら」


 ジェームズは思わず止めに入る。


「なんで止めるのよ。これから話すところじゃない」


 エイプリルは男に話すように促すが、ジェームズは譲れない。


「いやいや、俺も警察としてドラッグなんて聞いちゃ見過ごせねーよ!」


「サツ!? い、いや、違った違った。今のは間違いだ」


 男は改めて話し始めた。


 一昨日、友人宅で普通のパーティをやった帰りの事だった。

 深夜、一人で通りを歩いていると、路地裏からヒッと言う小さな声とカタンと言う物音がした。

 何とは無しに覗くと、そこには黒いマントの何者かが、女に覆い被さっているようである。


「よく女ってわかったな」


 ジェームズが問うと、若い男は「ああ」と言って答えた。


「マントの下から綺麗な足が見えてたんだ。カップルがイチャついてんのかと思ってさ。ちょっと見てたんだ」


 だけど、様子がおかしい。

 最初はビクビク動いていた女の足はもうピクリともしないのだ。

 不思議に思いマントの人物を見つめていると、不意にぐるりと振り向いた。


 見えた口元は、血で真っ赤に染まっていた。


「俺は、見られたんだ! だから、昨日から家に帰らずに町を彷徨っている。見つかったら、きっと殺される!」


 若い男は恐怖を思い出したのか、再び震え出した。


「あれは、吸血鬼だった……!」


「顔は見たのか?」


 ジェームズが聞くと、若い男は首を横に振る。


「い、いいや。帽子を被ってたし、なんか、不気味な仮面を被っててよ……! だけど身長は、そこのあんたと同じくらいデカかったと思う」


 そう言って、若い男がジェームズを指さすものだから、一瞬ジェームズはビクリとする。


 エイプリルは若い男を落ち着かせるように優しく言った。


「よく話してくれたわ。だけど、大丈夫。今夜は家に戻りなさい。親御さんもきっと心配しているわ。帰り道、怖かったら、エクソシストのこの私と、こっちの強面の刑事さんが送って行くから」


 エイプリルが、(というか、ヴィシーが)昨日の昼間に町全体の声を傍受していると(恐ろしい事に、この使い魔にはそういう能力があるという)、彼がが友人に話す声を拾ったのという。


 彼女は今日、この彼を探して歩いていたらしい。




「へんなものでも吸って、幻覚を見たんじゃないのか? 後から事件を知って、結びつけたんだろう」


 名をヘンリーというらしいその若者を家まで送った後で、ジェームズは言った。


「ま、その可能性は捨てきれないわ」


 エイプリルはちらっとジェームズを見ると、珍しく同意した。


「だけど、状況はかなり一致している。今は彼が犯人に辿り着く唯一の手がかりよ」


 ジェームズは黙り込む。


 その様子をまたいつの間にか側にいたヴィシーが面白そうに見つめていたのだった。

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