第52話 果たされる復讐2

 そして、部屋から恐るべき怒気が放たれる。

 ブラウズは雄叫びを上げながら、ゼノへ疾走する。


「シェルを返せ!!」


 アリアからの髪の攻撃をを斬り裂いて、間合いを詰める。

 人間の速さを超越したような速度で、ゼノへと一瞬で間合いを詰めた。


 ブラウズの剣がゼノを切り裂いた……ように見えたが、ガキンと引っかかるような音を立てて素手で止められてしまっていた。


「どうした。素手で剣が止められてしまっているぞ?」

「それが、どうした!!」


 止められても更に一歩ブラウズが踏み込むと、剣を握っているゼノが押されて少しずつ後退している。


「ぐっ、馬鹿な。この私自身にドラゴンの因子を取り込んでいるんだぞっ! たかが人間ごときにっ!」


 確かにゼノの腕はドラゴンの鱗のようなもので覆われていた。


「残念だったな、忘れたのか? 俺が竜殺しドラゴンスレイヤーだという事を!」


 ブラウズの剣の一閃でゼノの腕が斬り落とされた。



 ◇◇◇◇



 君はアリアからくる髪の攻撃を全て叩き落すと、迷うことなく距離を詰める。

 それは一瞬の事で、爆発したような速度でアリアの元へと辿りついた。

 目の前の君をアリアは見ると、かすれた声で『たすけて』という言葉が聞こえる。


 アリアもまたゼノによって命を弄ばれた犠牲者だったのだ。

 君は頷くと、大声でゼノに向かってアリアを元の姿へと還すと伝えた。

 ゼノの悲痛な声が聞こえた。


「やめろっ! 私のアリアを、アリアを消さないでくれ!!」


 君はアリアへと手を伸ばす。

 手が額に触れると、ボロボロだった皮膚が更に崩れていった。

 アリアは既に限界だったのだ。

 少しずつ崩れていくアリアを見ながら、君はさようならと呟いた。


 ゼノが一番大切にしたアリアを還したことで、君は君なりの復讐をゼノに果たした。

 そして、シードの声が聞こえた。


『契約は遂行された。感謝する。そして我等も復讐の時が来た。さらばだアッシュよ』


 声が終わると同時に、恐ろしい程の質量を持った大量の影がゼノに向かって伸びて行った。ゼノは残った片方の手で辛うじてブラウズの剣を抑えていたが、影に纏わりつかれてその力が段々と弱まっていった。


「ぐあああ、どういう事だ! 抜け殻ガラクタ共が何故集まっている! やめろ、離せ、離せええ!」


 陰に纏わりつかれたゼノを見て、ブラウズは声を上げた。

 

「これがシェルを殺し、命を弄んだ報いだ!」


 ブラウズの一撃が閃くと、ゼノの腕が飛び身体が真っ二つに斬り裂かれた。

 そして黒い影がゼノを包み込んで、渦を作ると悲鳴のような音を上げながら消えて行った。


 最初から何もなかったかのように静まり返った部屋に、ブラウズの嗚咽が響いた。


「許してくれシェル……」


 そう呟きながらシェルの元へ歩いていくブラウズ。

 ゆっくりと歩いて行くと、カランと何かが音を立てて落ちる。

 動かなくなったシェルをブラウズは抱えた。

 頭から流れ出す血は押さえても止める事はできなかった。

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