第3話 君に付けられた名前

 男は名をブラウズと君に伝える。

 君は名を伝えようとするが、何も思い出せなかった。


「名も思い出せないのか。呼び名がないと不便だから、そうだな。『アッシュ』というのはどうだ?」


 君は頷き、アッシュという名を反芻する。

 アッシュ……それが君の心に刻み込まれる。


 君は名はアッシュ。

 さっきまで何も無かった君を、希望の光で満たしてくれるようだった。

 何度も自分の中でアッシュと名を呼び続ける。

 全身の血流が自分を証明するように熱くなっていた。


 今、君はアッシュとして目覚めたのだ。


 助けてくれたブラウズに必ず恩返しをしようと君は心に誓う。


「気に入ったようだな。行く当てがないのなら、しばらくここにいるといい」


 君は礼を言うと、ブラウズは頭を撫でてくれた。

 力強くもあり優しい手が君を安心させてくれる。


「仕事で少し空ける事になるが、後は娘に任せておく。静かな子なんだが、仲良くしてやってくれ」


 君は呼び止めようと声を出そうとするが、ブラウズは既に出ていってしまった。

 どうやら忙しい様子だった。

 お腹が満たされた君は眠気に瞼が重くなる。


 起きていても動けないから眠る事にする。


 ノックする音が聞こえたような気がした。

 君は眠りについているが、浅い眠りだったのかもしれない。

 遠くから誰かの声が聞こえてたような感じがした。


「お母様……でも違う。この子は一体……」


 君は呼ばれている気がした。

 だから起ないといけない。

 そうして君の意識は眠りの中から覚めた。

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