第11話 帰路での襲撃

 サカリナ姫が何を考えシャベリン・ジャベリンを欲したのかはわからない。結局のところシャベリンを食べても満足はしてないようにオレガの目には映っていた。


「では、帰るとするかの」


 姫様の声に近衛隊の面々が各自準備をする。その傍らで一つの木の下でオレガは石を積み上げていた。


「それはなんですかオレガ君」

「……隊長、これは」


 石を積み上げただけ、とオレガは答えたかったけどあのような無様を見せておいてすぐ嘘だと分かってしまうだろう。


「……なるほど。では少ししたら戻ってきてくださいね」

「はい」


 一瞬だけ考えた後、何かを察してくれた隊長に感謝しつつオレガは名も無き石に目線を移す。


「……もっと、話したかったな」


 吹っ切る事はできないし、いつまでもウジウジ悩んでしまうだろう。過去と決別すると息巻いて騎士学校を卒業したのに、結局は過去の出来事を引きずったまま、シャベリンと対峙してしまった。


 それでも自分はシャベリンの事も――過去に別れたヘル様の事も忘れないだろう。


「それじゃあまた――」


 こうしてオレガの初任務は苦い記憶のまま終わろうとしていた。




 ――――――



「接敵っ! 数、二十! 三時方向からくるぞっ!」

「くそっ。ここに住んでる人はどこに行ったんだ!」


 シャベリン討伐の余韻もそこそこに真夜中の町に声が木霊する。



 少し時間は遡り


 帰路は順路を辿って帰ることにした。

 オレガが来た道はあくまで最短ルート。

 その道はおおよそ人が通るものではなかった場所が多く帰りは正規ルートを通る事にした。


 いきはよいよい、と聞くけれど行きも帰りもままならない現状が目の前に広がっていた。


「姫様、警護車両から出ないでください」

「む、しかし」


 正規ルートを行きで見ていればこんな異様な光景を目の当たりにしなくても良かったかもしれないとオレガは後悔したが、この様子だとどの道遅かったかもしれない。


 シャベリンの生息地サバンナからクルマで二時間ほどの所にあるオアシス。ヨッキュー国の外れに位置するここに補給と休憩で寄ったのはいいが、その異様さにすぐに警戒態勢に入った。


「人が……いない?」

「それになんか荒れてないか?」


 マエムキニとミギノヤツがクルマを降りて調査を始める。いつもは声が大きいミギノヤツも空気を読む事ができる人間。


 そして異常事態と認識したメノシータがオアシスの調査の号令を掛けた。そして調査を開始してすぐに動物の群れが闇に紛れて襲ってきた。



「ベアードにウルフコング、サベルスネークまでいるネ」


 夜目が効くウシロガが動物の情報を教えてくれた。どの動物も生息域から離れているし上なんだか様子もおかしい。


「各自、防御陣形を構築、姫様の安全を優先せよ!」


 夜陰に紛れて襲ってくる動物を近衛隊の面々は確実に抑えている。オレガは警護車両の傍で姫様の一番近くを任された。


「……少年、もしもの時は姫様を連れて逃げるネ」

「え?」


 ウシロガの言葉にオレガは一瞬困惑した。もしかしたら自分が役ただずだから戦闘には参加させずそう言っているかと思ったが、彼女の鋭い目を見て考えを改めた。


「この現象、少し心当たりがあるネ」

「心当たり」


「あの動物達の目、おかしいネ」

「目……確かになんか赤く光っているような」


 思えばベアードもウルフコングもサベルスネークも集団で襲ってくる事はないハズ。しかし戦闘を見ていると連携しているようにも感じる。


 サベルスネークが陽動をしてベアードが盾役、そしてウルフコングが面制圧しているような。


 という事はこれは意図的な襲撃?

 でも一体誰が?

 なんの為に?


 オレガ達がサバンナ行きを決めたのは昨日の早朝。そしてその工程を数段階早く終えてここに居る。


 じゃあこれは偶然?


「敵の数増大! なに!? トレントイーターの姿確認っ!」


 ヒダリニの声に近衛隊の面々に緊張が走る。樹木を模したトレントイーターはその蔦や根っこで相手を絡め取り捕食するもの。このオアシスが森に位置しているのを考えると大挙として押し寄せてくるだろう。


 付け加えてこちらには理性のない獰猛な動物達、味方は近衛隊だけ。なぜかオアシスの住人の姿は無く孤立無援状態になっていた。



「くっ……調査を中止して撤退しましょう。殿しんがりは私が――」



 いくら騎士時代に活躍したメノシータでもこの状況は芳しくない。いくら明かりがあると言っても暗闇という条件や相手が集団戦を仕掛けてきているのは良くない。

 姫様を守りながら相手を無力化するのは骨が折れるしこのオアシスの調査を後にして後日騎士団と共に――そんな考えを巡らせているとウシロガが前に出てきた。


「隊長、ワタシが殿をするネ」

「……アキヨ」


「この状況、ワタシの故郷、滅んだ時と似てるネ」

「それはっ」


 ウシロガ・ガラ・アキヨの故郷、かげの国の事は知っている。

 裏稼業を生業に有用性を示していたかの国を邪魔に思った敵国が攻めたのだ。その敵国の首謀者共は連合国が排除したと思っていた。


 目の端ではクルマの整備を急ピッチで進めているミギノヤツ。事態は急を要すると判断したメノシータはウシロガに任せようと言葉を発しかけて、


「……隊長、ウシロガさん」


 後ろから発せられた声に遮られた。


「少年、何しに来たネ!」

「オレガ君」


 今がどういう状況か分かっているのか?

 少年に姫様を守れと言ったハズ。


 隊長とウシロガはオレガにキツくあたるけど、彼の目は揺らいでいなかった。

 眼前に迫る大量の動物やその後方から来るトレントイーターという状況を理解した上で彼はこう切り出した。


炎舞えんぶを使います」


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