第3話 何も間違ってなかった
ドゥゲィザァ
それは謝罪の最上級。
ドゥゲィザァ
それは誠心誠意の現れ
ドゥゲィザァ・ナゼ・オレガ
それは紛うことなき主人公の姿
「もうよいナゼよ。もうよいのじゃ」
「しかし姫様。姫様に不快な思いをさせてしまった代償は払わなくては」
ドゥゲィザァでも足りぬと思ったオレガは国に伝わる古のやり方を口にする。
「我が故郷にはハラキリ・ギリギリという謝罪方法があります」
姫様は地に伏すオレガに続きを促す。
「己の腹に蜂蜜を塗り木にぶら下がるのです。すると蜜の香りに集まった昆虫が……」
「待てっ! 想像しただけで背筋が凍るでな。そなたの謝罪を受け入れよう。妾もちょっと大人気なかったのじゃ。許してたも」
姫様はなんて心が広いんだろうと彼は思う。
「ありがたきお言葉ですサカリ姫っ!」
嬉しさの為の再びの失態をしてしまう。
「うん……まぁそこを改めてくれると助かるのじゃ」
謁見の間に居る人達がもう一度吹き出した。
「さて、ナゼよ」
「ハッ! 姫様」
「お主を性職係に任じたのには理由がある」
「理由でございますか?」
彼の予想では支援職を行使できるからその力を持ってサポートするという事。
「うむ。妾も良い年でな。そろそろ子供と戯れたいと思っとるのじゃ」
「子供……でございますか?」
疑問顔のオレガに対してサカリナは「うむ」と続ける。
「一応王族は世襲制なのじゃ。妾もいつまでもプラプラしては臣下に示しがつかんでな。なぁ爺よ」
そう言ったサカリナは近くに控えていた白髪の穏やかな人物に目を向ける。
「ですな。ワタクシも早く姫様の子を見たいと思いますぞ。ワタクシの孫娘と遊んでくれる未来を楽しみにしておるのです」
老紳士は「ふぉっふぉっふぉ」と口髭を触る。
「姫様。挨拶は後でと思っておりましたがよろしいですかな?」
「うむ」
老紳士は姫様に許可を取るとオレガに向けて一礼する。
「ワタクシはサカリ姫……ゴホン」
仕切り直して。
「サカリナ・ヨル・ヤルヨ姫の執事長を勤めております。マゴノ・テヲ・コッコーニと申します。何卒よろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いしますマゴノ様!」
オレガの心は温もりが占めていた。ここの人達は新卒で失敗をした自分に対して親切にしてくれるから。
「分からない事はいつでも聞いてください」
「ハッ!」
「今日から同僚となるのです。まずはお互いを知る事から始めましょうぞ」
「はい。ありがとうございます」
やはりいい職場だ、と感じるオレガ。
「うむ。テヲとも仲良くしてたもれ」
「ハッ! かしこまりました」
それで話は戻るけどと姫様は続ける。
「今の話でナゼを性職係に任じた事はもう予想がついておるだろう?」
オレガはまた考える。
これはまた試されているのかと。
姫様は子を成したい。そしてマゴノ様の孫を含めて小さい子供が安心して暮らせる場所を目指している。自分は支援職向きだからそのサポートをやって欲しい。
全てのピースが嵌ったオレガは口元に笑みを浮かべて。
「つまり将来姫様のお子さんを――」
「うむ、正解じゃ!」
(姫様のお子さんをお守りする役目ですよね? 話の途中で正解しちゃった?)
とオレガの顔が物語る。
「おぉ! 流石オレガ君。騎士学校時代から君を見ていた甲斐がありました!」
「ふぉっふぉっふぉ。メノシータ殿はさりげなく姫様に推薦しておられましたからなぁ」
メノシータは黒く染まった目元を大きく開き手をパチパチと打ち鳴らす。
「先を見通す目、欲しい時に欲しい言葉、お主の事を益々気に入ったぞナゼよ!」
「勿体なきお言葉です姫様」
「良い良い。しかしヨルと名前を呼んでくれてもよいのだぞ?」
「いえ、先程の失態がありますので……当分は姫様と呼ばせて頂ければと」
「そうかの。少し寂しい気もするがまぁよい」
安堵から肩の力が少し抜ける。
「さてナゼよ。この先の展開をお主は予想しとるだろうな?」
「ハッ! 姫様に褒めて頂いたので準備は整っております」
自分の実力を示すという事ならば、
「うむ、話が早くて助かるぞ」
彼は謁見の間に居る人達を軽く見渡して問題が無いか目配せする。各人とも彼の言葉を気に入っているらしく無言で頷く。それを了承とした彼は着ていた制服のボタンを外していく。
炎の国に伝わる『
一説には舞を踊っている時の体温上昇で身体能力向上や炎陣の中に居る仲間への鼓舞になるとの事だが詳しくは分からない。
「では早速――」
「うむ、早速寝室へ行こうではないか!」
ボタンを外す手を止めるオレガ。
「オレガ君。ファイトです!」
「オレガ殿。頼みましたぞ」
何か重大な事を失念していると感じるオレガは言葉が出てこない。
「どうしたナゼよ。はよう行こうぞ? 準備は出来ておるのだろう?」
準備は服を脱ぐだけですと言いたいが、言ってしまったらダメな気がして唾を飲む。
「……姫様、一つよろしいでしょうか?」
「なんじゃ?」
ウズウズするサカリナと冷や汗のオレガ。
「自分は今から王城の皆様に炎舞を披露する。という事でよろしいですか」
「炎舞? ふむ……それは後でもよいぞ」
と、言いますと。
「今から妾の寝室へゆくのじゃ!」
ゆくのじゃ!
と姫様は手を上げるのに対して、彼は冷や汗が大量に出る。
「な、なぜなのでしょうか?」
冷や汗が止まらない。
「ナゼがなぜって……くふふふっ。おぬし笑いのセンスもあるのぉ」
姫様は足を広げて腰に手を当てオレガの目を見て高らかに告げる。
「妾と子作りするのじゃっ!」
――のじゃっ!
――じゃっ!
――っ!
「やっぱりサカリ姫じゃないですかぁぁ!」
『性職係』
それは姫様に見初められ、姫様に認められ、姫様の寵愛を受ける為に存在するただ一つの性なる職業。
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