第25話 球技大会 Side - A
球技大会が始まった。
僕らの学校では、毎年この六月の時期に球技大会が行われている。
僕らの学年は、今年男女ともにバスケをすることになっていた。
体育館のコートをフルで使い、男女交互に総当たりで試合が行われる。
約半日をかけて、二年の全クラスと試合をし、最も勝利数の多いクラスが優勝だ。
そして今。
僕の前で、女子の試合が行われている。
「パス!」
小鳥遊さんの声が体育館に響く。
その声につられて、小鳥遊さんにボールが渡った。
パスを受け取った彼女は、素早い動作でボールをドリブルし、他の女子の間をかいくぐってリングにレイアップシュートを決めた。
絵に描いたような理想的なフォームだった。
今日これで十数点は獲得している。
現役バスケ部もいる中でこの活躍は、正直かなりすごいと思う。
ボールをドリブルしながら走る小鳥遊さんは、キラキラと輝いて見えた。
その動きに、注目している人も多い。
女子の試合なのに、男子も試合を熱心に見に来ている。
「やっぱ小鳥遊良いよなぁ」
「俺は黒咲だな。オタクに優しいギャルは実在したんだ」
「二人とも胸揺れてんぞあれ」
「最高じゃん」
……一部違う目的で見ている人もいるらしい。
そんな目で小鳥遊さんを見ないでほしい。
以前からそういう目で彼女たちが見られていたのは察していたが、どうしてだろう。何だかモヤつく。
「やったぁ! ミナミ、ナイスシュート」
得点した小鳥遊さんに、黒咲さんが声をかけている。
その様子を眺めていたら、黒咲さんと目が合い、小鳥遊さんに何かをささやいた。
小鳥遊さんの顔が真っ赤になり、バシンと肩を叩く。
何やってるんだろう。
気にしていると、小鳥遊さんがそっと手を振ってきた。
他に手を振られそうな人は見当たらないから、恐らくあれは僕に対して行っているのだろう。
なるべく目立たないよう、そっと手を振り返す。
それを見た小鳥遊さんは、何だか嬉しそうだった。
「今、小鳥遊俺に手ぇ振ってなかった?」
「バカ言え、俺にだよ」
「いーや、あれは俺にだね」
見学していた男子たちが言い争っている。
どうでも良いのだが……やっぱりモヤつく。
前まで似たような状況は無くなかった。
でも、その時はこんな風にモヤつくことはなかったはずだ。
それが、どうして今になってモヤつくようになったんだろう。
正直自分でもわからない。
ただ、小鳥遊さんがやましい目で見られているのが不愉快なのだ。
それにしても……。
「小鳥遊さん、楽しそうだな」
バスケをする小鳥遊さんは、額から汗をかきながらも懸命に動いている。
普段は少し気だるげな印象なのに。
ああも熱中している姿を見るのは、何だか新鮮だ。
バスケが好きなんだな。
部活動はもう諦めたと言っていたけど。
本当にもう良いのかな、と気になってしまう。
そこまで考えて、頭を振って妙な考えを弾き飛ばした。
こういう思考は、正直ただのおせっかいだ。
僕はもう、小鳥遊さんが自分でやりたいことを選べる人だと知っている。
だから僕が出来ることは、話を聞いたり、彼女の選択を見守ることなんだ。
それに、モデルをしているなら、バスケをしている暇は無いだろう。
今はサトコさんのモデル業が、バスケに替わる存在なのかもしれない。
そんなことを考える。
その時、ポンと肩を叩かれた。
クラスの吉沢くんだった。
バスケ部で、今回の球技大会ではキャプテンをしてくれている。
「おい鈴原、そろそろ試合。外でアップしとけ」
「あ、うん。ごめん。今行く」
小鳥遊さんの試合に背を向け、出口へと向かう。
体育館を出る直前、一瞬だけ振り返って、小鳥遊さんを見た。
「……僕も頑張ろう」
あの輝きに負けたくないと、そう思った。
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