第25話 お兄さんのために、頑張って作っていたの
「では、ここらへんで」
助手席に座っている
すると、先生は乗用車を、浩紀の家の近くで止めたのである。
「ここでいいの?」
「はい、大丈夫ですので。美玖先生、今日はここまで送っていただきありがとうございました」
「こちらこそ、相談に乗ってもらったり。でも、このことは真司君には言わないようにできる?」
「はい。そういう約束なら。俺からは真司には言わないですから」
「お願いね」
運転席に座っている先生はホッと胸を撫でおろしていた。
まだ、真司に対しての思いが定まっていないのだろう。
その間に、浩紀はシートベルトを外し、扉を開け、車の外に出る。
「本当にありがとうございました」
浩紀は外に出た後、車内を覗くように、運転席にいる先生へと視線を向けた。
「いいえ。こちらこそ。では、また来週ね」
「はい」
また、月曜日なれば、顔を合わせることになるだろう。
美玖先生も色々と悩んでることもあり、少しだけ先生のことを知れたような気がした。
「では……」
浩紀は扉を閉める。
数秒後、エンジンが再度かかると、目の前にあった乗用車は、そのまま遠くの方へと向かって行った。
浩紀はさっさと、駆け足で自宅へと向かう。
到着するなり、扉を開け、玄関に入った。
「お兄さん、お帰り」
刹那、妹の
ハッとし、浩紀は咄嗟に顔を上げ、妹の方を見やる。
友奈はエプロン姿ではあったが、前回のように裸エプロンではなかった。
「……普通だな」
「普通? 普通だったらよくなかったの?」
「あ、いや、そうじゃなくて。なんでもないよ」
浩紀は慌てて、否定的な意見を口にした。
「今日はまた、お父さんとお母さんが帰ってくるのが遅いって」
「そうか。うん、わかった」
友奈は普通の方がいい。
今日は裸エプロンじゃなくて本当に、色々な意味で安心した。
「もしかして。あっち系の衣装の方がよかったのかな?」
正面に佇んでいる友奈は、首を傾げながら言う。
「違うから」
浩紀はそう返答し、玄関席で靴を脱ぎ、家に上がった。
「お兄さん……私のこと、もっと意識してほしいだけなの……」
「え?」
「んん、なんでもないよ。聞こえていなかったら、なんでもないの」
「……そ、そうか」
友奈の声が小さくてハッキリと聞こえはしなかったが、サラリと、とんでもない事を口にしていたような気がする。
本当に、気のせいなら、それでいいが……。
浩紀は変に胸の鼓動を高めながら、ひとまずリビングへと移動する事にした。
友奈と一緒にリビングに入った。
が、妹はすぐにキッチンの方へと向かっていったのだ。
友奈は先ほどまで何をしていたのだろうか?
キッチンの方からは、お菓子の匂いが部屋の空気を伝って、やってくる。
「……」
浩紀は先ほどまでの疲れをとるように、ソファに座る。
今日一日で多くの出来事があった。
こればかりはどうすることもできず、できる限り受け入れるしかないだろう。
こういう日だってある。
「……そうだ」
浩紀はソファから咄嗟に立ち上がり、キッチンの方へ向かう。
「友奈。アイス買ってきたんだけど、一緒に食べる?」
浩紀はそう問いかける。
「ん?」
友奈からの反応が薄く、妹の姿を見てみる。友奈は、ケーキを作っているようだった。
今ちょうど、ケーキの土台となるスポンジにクリームをつけている途中だったのだ。
「お兄さん何?」
友奈は手を止めた。
そして、頭を上げ、浩紀をまじまじと見つめてきたのだ。
「ごめん、作業中だったんだな」
「そうだよ。お兄さんが、前向きになってくれたし。そのお祝い的な感じに作ってたの」
「そこまでしなくても」
「いいの。お兄さん、今まで何事にも消極的だったもの。少しでも、元気になってくれたら私も嬉しいし。それと、お兄さん。今日、帰ってきてから、ちょっと表情が明るくなったよね」
「そんなに変わったか?」
「うん」
友奈は笑顔を見せてくれた。
「それと、お兄さん、何か言いかけていた気がしますけど?」
「それは、アイス買ってきたってこと。一緒に食べないか?」
「はい、食べます。なので、ちょっと、リビングの方で待っててください。ケーキが大体出来上がったら、リビングの方へ行きますから」
友奈は真面目な顔を見せ、クリームの袋を持ち、再び、作業に取り掛かっていた。
妹からはなんでも世話になってばかりである。
あとで、友奈のために何かをしてあげたいと思う。
そう考えつつ、浩紀は、袋に入っているアイスを、キッチンにある冷蔵庫へと入れた。
友奈がやるべきことを終えたら、一緒に食べることにしたのだ。
それまでの間、浩紀はリビングで待っていることにした。
過去にトラウマのある真面目な俺が、水着が似合う爆乳な夏芽雫先輩とイチャイチャすることになったら、実妹と幼馴染が積極的になったんだけど⁉ 譲羽唯月 @UitukiSiranui
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