第43話 怪獣に柔道が通じるのでーすか?


 変態を終え、新たに出現したその姿は怪獣だろうか?

 尻尾はあるが、二足歩行で歩くようだ。


 ギャースッ!――と咆哮ほうこうを上げる。

 大きさや体格は、こちらとほぼ同じになってしまった。


 目付きは鋭く、全身を覆う赤いうろこはより硬く、背中には鋭利な突起物が目立つ。

 凶悪さが増し、誰もが絶望しそうな中、


「面白い!」


 と大岩。柔道の構えを取る。

 そうだった。ウチの学園の生徒は、簡単に絶望などしないのだ。


「恐らく、もう爆発はしない!」


 俺は声を上げる。爆発する怒りの感情とは違い、その力は『侵食する力』だ。

 身体と心をむしばみ、気付いた時には『手遅れ』となっている。


 人の思考を停滞させ、戦う意思を奪う『精神を侵す猛毒ブラックカンパニー』だ。


「俺たちがやられたら、それは『この国の本当の終わりスーパーエイジングソサエティ』を意味する」


 これ以上、変態パワーアップする前に倒す必要がある。

 でなければ、格差は広がり続け、増税は止まらなくなるだろう。


 日本人はグローバル経済の中、世界から搾取されるだけの未来が待っていた。

 政治家は官僚の言いなりのまま、汚職が当たり前となる。


「作曲家がで逮捕され、曲が使えなくなるってことだな!」


 とハゲの田中。続いて、


「発売から2年も経っているのに、ゲーム機が売ってないってことか!」


 とはアフロの山田だ。最後に、


「人気声優が次々に不祥事を起こし、病気や怪我で引退してしまうってことよ!」


 とぽっちゃり女子の鈴木が言う。

 すでに『絶望の力』は、様々な形で日本人を苦しめていた。


「頼みます! 大岩先輩……」「柔道部の意地を見せてやれ!」


 そんな声援を受け、


「任せておけ!」


 森の賢者ゴリラに比べれば、どうということはない!――と大岩。

 いったいウチの部活連中はなにと戦っているのだろう?


「白熊とも戦ったが、奴らは温暖化で弱っていたな!」


 そんなことを言って、怪獣と組み合う。


「怪獣に柔道が通じるのでーすか?」


 とヴィオ。確かに空手や西洋相撲プロレスの方が有効かもしれない。だが――


「通常なら、投げ技が主体になるだろう……」


 だが、今の状況なら――と俺はヴィオに告げる。


め落としだ!」


 同時に――その通り!――と大岩は猫耳ハゲ巨人に飛翔ジャンプさせると、怪獣の背面を取った。


 柔道における寝技は、一対一でルールが決められている状況でなければ、有効とはいえない。相手が複数で、武器を持っているのであれば、逆に危険だ。


 しかし、今は一対一で相手は怪獣。そして、大岩の能力は硬質化だ。

 それはただかたくなるのではない。


 海の上を転がったように、意識したモノをはじくことができる。

 鋭利な怪獣の鱗はバキバキと音を立て、がれ落ちてゆく。


 大岩はそのまま、首をめ落とす作戦のようだ。

 投げた場合、周囲への影響が大きいため、彼が選んだ戦い方だ。


 地面へと押し倒したいところだろうが、尻尾があるためか思うようにいかない。

 重心は安定しているようだ。


森の賢者ゴリラパワー!」


 ウホッ!――大岩が叫ぶ。どうやら、ゴリラしのようだ。

 叫ぶだけのことはあり、パワーは本物らしい。


 ゴリッ!――と音を立て『アポカリプス』……。


(いや、最早『ビースト』と呼ぶべきだろうか?)


 人類は『天啓』ではなく、自分たちの引き起こした負の連鎖により、滅ぼされようとしている。


 第一形態の『スネーク』、第二形態の『リザード』を経て、第三形態の『ビースト』となった。その怪物の首が今、引き千切られる。


「ウホッ! ウホッ! ウホッ!」


 と大岩が声を上げる度、


「ニャウ! ニャウ! ニャウ!」


 と猫耳ハゲ巨人。その手には『ビースト』の頭が存在する。

 シュールな光景だが、誰一人として油断はしていない。


 予想した通り、引き千切った首は煙のように消えて行く。

 やはり、コアを破壊しなければならないようだ。


 一方で『ビースト』は更に変態しようとする。

 身体が赤く光り、バチバチと放電のような現象が発生した。


 第四形態に変態するまで、待つ理由はない。

 だが、翼のようなモノを生やすと、空へと飛翔してしまった。


(逃げる気だろうか?)


 いや、人の住む街へ向かおうとしているのだろう。

 そこには奴の原動力エネルギーとなる『絶望した日本人ヒキコモリ』がいる。


「オレに代われ!」


 と風間がさけんだ。しかし、彼の身体はすでに消えかけていた。

 とても戦えるようには見えない。


 だが、大岩の能力では、追いつくことができないのは確かだ。


「すまん、任せた!」


 と大岩。確実に風間は消えるだろう。

 だが、大岩も柔道部だ。団体戦は何度なんども経験していた。


 選手である五人には、各々おのおのに順番と呼称が与えられる。

 そして、大切な役割があった。


 チームの戦力や特徴などを総合的に分析し、勝利を目指すのだ。

 時には強い相手に、弱い部員をぶつけることもあるだろう。


 確実な勝利のために、犠牲を強いることも必要なことだ。

 そして、俺たちは学園最強の布陣を整え、この戦いにのぞんでいた。


 悩むまでもなく、それぞれの役割は決まっている。

 再び猫耳ハゲ巨人の周囲に風が舞った。


 空を駆け上がるが、走るワケではない。

 そこまでの能力ちからは、もう残されてはいなかった。


 ある程度の高さまで駆け上がると、その手で空をつかみ、足を折り畳む。

 必殺技の体勢だ。その身体は弓矢となる。


「クロム、力を貸してあげてくーださーい!」


 とヴィオ。思えば、ゲームと同じだった。

 多くの仲間アンデッド使役しえきし、弓矢を武器に戦う。


 すべて、俺のために整えられたような状況だ。

 彼女が意図して、みちびいてくれたのだろうか?


 俺の経験ゲームと風間の想像力イマジネーションが重なり、一筋の光が放たれる。

 光の矢となった猫耳ハゲ巨人は『ビースト』の翼を貫いた。


 射出された速度のまま、先に地上へと着地した猫耳ハゲ巨人。

 振り返ると翼を失った『ビースト』は真っ直ぐに、こちらへと落下していた。


「やったな、風間っ!」


 大岩は声を上げたが、すでに風間の姿はない。

 他にも多くの生徒たちの声が聞こえなくなっていた。


「くっ……」


 くやしそうに固くくちびるみしめる大岩。

 操縦の権限が移った彼は両手を大きく広げた。


 どうやら、落下してくる『ビースト』を受け止めるようだ。

 俺たちの背後には街がある。被害を最小限にするため、軌道を変える気らしい。

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