第42話 なるほどでーす☆


「なるほどでーす☆」


 と声を上げるヴィオ。


「人間の負の感情を取り込み、その在り方を変えたようでーす!」


 そう言って、一人で納得しているようだが、俺にも分かるように説明して欲しい。


「つまり、今までは『日本を攻撃する』という意思で実体化していたが……」


 俺の推測に対し、


「はーい、生き残るため、より強い感情に切り替えシフトしたようでーす!」


 ヴィオが返答する。

 どうやら先程、自切じせつした尻尾が破壊の力エネルギーそのモノだったようだ。


 水島の奮闘により『その力では勝てない』とさとったのだろう。

 別の活動目的エネルギーを探していたらしい。


 最初から不思議に思っていた。

 やはり『アポカリプス』は自分を一つの生命だと考えているようだ。


(生き延びるために変態パワーアップしたのか……)


 ただの兵器であった存在が、自我を確立しつつある。


「Oh! クロムの能力が裏目に出てしまいまーした……」


 とヴィオ。余計なことを言う。


(いや、もう隠している段階ではないのか……)


「どういうことだ?」


 と大岩。多くの生徒たちも同様の疑問をいだく。

 ヴィオは――やれやれ、仕方がありませーん!――と肩をすくめ、首を横に振ると、


「クロムには戦う力は残されていーませーん」


 と断言する。そんな彼女の言葉に――なんだと!――と大岩や他の生徒たちがおどろく。学園最強と思われていた俺が戦えないのでは、戦力は大幅ダウンだ。


 モチベーションは下がってしまうだろう。

 ヴィオは、そんな皆の様子を気にも留めず、


「四天王の皆さんが、それぞれ属性の能力こせいを使用できるように……」


 クロムは既に能力を発現していまーす!――と続けた。

 できれば隠しておきたかったが、仕方がない。俺が説明しようとすると、


「ここから先は、わたしたちが説明しよう……」


 『隠していた』という意味では同罪だからな――と翠。


「兄さんの能力ちからは他人に能力ちからを与える力なの!」


 茜も声を上げる。

 通常、情報複製体データクローンを搭載しただけでは、ここまでの能力は発揮できない。


 魔法のような、この能力ちからを使うには鍵となる『杖』が必要だった。

 今回はその『杖』の役目を俺が担当した。


 しかし、当然『杖』も万能というワケではない。


「そのためには『認識』が必要……」


 だから、校庭グラウンドに集まってもらった――とは葵だ。

 データ化した俺だからこそ、見ることのできる人の想い。


 その場に残った『皆の想いを使わせてもらった』というワケだ。


「つまり、わたしたちが戦えるのは後輩くんのお陰で……」


「敵が変態パワーアップしているのも、玄夢の仕業か……」


 不知火と大岩がつぶやき、残りの生徒たちも沈黙する。

 俺が『認識』した所為せいで、あるはずのない力が具現化してしまった。


 同じ次元に存在する『アポカリプス』に、それを利用されたことになる。そんな会話をしている間にも、元凶である『アポカリプス』は巨大化を続けていた。


 いや、この場合は『肥大化』といった方が正解かもしれない。

 周囲の負の感情エネルギーを喰らい尽くしたようだ。


 その巨体で突撃してくる。しかし、大岩は静かに受け止めた。

 猫耳ハゲ巨人は微動びどうだにしない。


「面白いじゃないか!」


 最初に声を上げたのは風間だ。続いて、


「学園最大のピンチに最大戦力が使えない総力戦……」


 フフフッ!――と不知火も笑う。

 震えているのは『怖いから』ではないようだ。


「なら、なおのこと、オレたちに任せておけ!」


 沈黙していた大岩が声を上げる。

 怒っているワケでも、絶望しているワケでもないらしい。


むしろ、楽しそうだ……)


 彼らを見縊みくびっていたのは俺のようだ。

 逆境において強くなるのが、ウチの生徒たちの特長らしい。


「『絶望』など、生まれた時からしているからな!」


 そう言ったのはハゲの田中だ。


「我々若者に対し、この国は『希望』を用意して来なかった」


 アフロの山田も語る。


「この程度、『絶望』でもなんでもありませんよ!」


 ぽっちゃり女子の鈴木。

 その言葉と同時に――どっせーい!――大岩が『アポカリプス』を投げ飛ばす。


 あの巨体をいとも簡単に投げてしまうとは、流石さすがは柔道部だ。その一方で、


「それでーす! 気を付けてくださーい!」


 とヴィオ。なにかに気付いたようだ。


「恐らく、この日本にただよう『絶望感』……」


 それを活動目的エネルギーに選んだようでーす!――ヴィオは声を上げる。

 確かに、この日本で『未来に希望を持っている人間』は少ない。


 特に日本のアニメーターは、ずっと過酷な環境で仕事を強いられている。

 人材を育てる環境も資金も見出せないまま中堅が消え、空洞化が起きていた。


 しかし、若年層を中心にアニメーターを志望する人間は多い。そのため、人材不足におちいることはなく、ゲームなどでアニメーターの需要は増えていた。


 日本がアニメーターへの待遇の改善策を見いだせない中、地球は消滅の危機を迎えようとしている。


 ただ破壊のためだけに創造された『アポカリプス』。

 破壊の申し子のような存在だったが、より適した活動目的エネルギーを見付けたようだ。


 それが――日本人が持つ――この国に対する『絶望』。

 怒りに任せた爆発的な力よりも、この国を覆い尽くす漫然まんぜんとした不安。


 正体が分からない不気味な力に、人は対処のしようがない。

 過去の人間たちが、未来へと残した負の遺産だ。


「日本人が移民船ギガフロートへ移っていたのが、さいわいしたか……」


 納得した俺はつぶやく。

 生憎あいにくと、この地上に負の感情エネルギーの発生源となる人間の数は少ない。


 これ以上『強くなることはない』と思いたい。


「ニャア!」


 猫耳ハゲ巨人が叫ぶ中、巨大な蜥蜴とかげは赤く光り、バチバチと放電のような現象を発生させる。まだ、変態しようとしているようだ。


 人口が減ったとはいえ、この国に蔓延はびこ絶望の力エネルギーは、相当なモノだったらしい。


「させるかっ!」


 と大岩。早速、その巨体を使い押し潰そうとする。

 だが、肥大化したその巨躯からだね返されたしまった。


「風船かっ⁉ コイツは……」


 大岩が次の手段を講じようと考えている間に、巨大な蜥蜴は変態を完了してしまう。赤い球体となり、バチバチと電撃のような音を立てていた現象は収まっている。


 風船のようにふくらんだかと思うと――バリンッ!――と音を立て、割れてしまった。まるで卵の殻を破るかのようだ。


(柔らかかったり、硬かったり、いそがしい奴め……)

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