第33話 強く、私をイメージして……
――現実世界〈太平洋〉――
【MISSING】
手の届く距離に『
「クロム、覚悟はいいでーすか?」
とヴィオ。ここまで連れてきておいて、覚悟も
いや、彼女に確認しなかった俺も悪いのかもしれない。
本来なら、俺がヴィオにもっと、お願いすべきだったのだ。
俺の両親と茜たちの母親を助けるのに、協力して欲しい。
そういったお願いを俺は口にしなかった気がする。
逆にそれが、ヴィオを不安にさせたのかもしれない。
「いいのか? ヴィオ」
地球人である俺が、お前を頼っても――その問いに、彼女は首を横に振った。
「私は地球に来たのは、ある目的があったから……」
それは
人が触れて大丈夫なモノかは分からない。
少なくとも、安全なモノではないだろう。
しかし、彼女が言うのであれば、大丈夫だと判断できる。
続きは、中で話しましょう――そんなところだろうか? つまり、俺が触れることで『この情報体の中に入ることができる』ということのようだ。
信じられないが、試してみる価値はある。
俺は
瞬間、目の前が真っ暗になる。
気が付くと、青い海の中のような場所を
不思議なことに、格好は
いや、そんなことより、ヴィオはどこにいるのだろう。
彼女も同じように『アメジスト』の姿をしている可能性が高い。
すると、目の前に人型の影が現れる。
それは不安定な存在で、はっきりと見ることはできなかったが『ヴィオだ』ということは分かった。
「大丈夫、なのか?」
俺の言葉に対し、
『強く、私をイメージして……』
と言葉が返ってきた。
聞こえる――というよりは、直接、頭に流れてくる感覚に近い。
俺はアメジストの姿をイメージする。
それが功を奏したのか、目の前にアメジストの姿をした女性が現れた。
「ヴィオ……なのか?」
間抜けな俺の問いに、
「そうだよ☆」
ふーっ、上手くいった♪――と『魔女っ娘』姿のヴィオは
俺同様に
「この世界ではね、誰かに認識してもらうことによって……」
姿が保てるんだよ☆――と教えてくれる。
つまり『二人以上で入る必要があった』ということだろうか?
通常はただのデータの
それを誰かに、人間だと認識してもらう必要があるようだ。
(そういうことなら『VRMMORPG』は確かに最適なツールだな……)
「
とヴィオ。頬を染め、
「えっと……俺たちの、身体は、どうなっている?」
文章を考えた後、瞬間的に送信されるような感覚だ。
口から言葉を発しようとすると、一言ずつ区切られてしまう。
まるでキーボードで操作しているのに近い。
「心配しなくていいよ、外とは時間の流れが違う……」
うんん、
つまり『それもゲームと一緒』ということのようだ。
自分が行きたいと思う時間軸に転移できるらしい。
ただ、
そう考えると、この世界での身体の使い方も理解できた。
言葉についても『日本語という
「ヴィオは大丈夫なのか?」
普通に会話できるようになった俺の問いに、彼女はきょとんと首を
上手く伝わらなかったのだろうか?
「いや、ヴィオが無理をしていないのなら……」
それでいい――そんな俺の言葉に、ヴィオはクスクスと肩を震わせると、
「クロムはいつもそうだね。だから、君を選んだんだけれど……」
そんなことを言った。そして、彼女は語る。
誰でも良かったワケじゃないんだ――と。
「クロムが考えている通り、ハイペリオンは……」
外宇宙へ行くことのできる存在だよ☆――意味もなく、ヴィオは回転する。
「でもね、それだけじゃあ……ダメなの♪」
次に彼女はそう言って、俺の
「人の想いは、他の誰かを強くするためのモノなんだよ☆」
額と額をくっつけた。体温とは違う、別の
データの身体から伝わるそれは、0と1の集合体にしか過ぎない。
しかし、不思議と心が温かくなるのを感じた。
「これが、想いの力……」
思わず、
「そうだよ☆ 『私がクロムを好きだ』っていう気持ち……」
そして――今度はヴィオが俺の手を取り、自分の頬へと当てる。
「これが『クロムが私を好きだ』っていう気持ち♡」
温かいね――と言って
ただ、今のヴィオの言葉に、それほど悪い感じはしなかった。
情報体だけれど、情報体だからこそ、はっきりと見えるモノがある。
普段は感じることのできない、想いや感情のようなエネルギーが見えてしまうようだ。
(正直、
「そろそろ、両親を探しに行かないか?」
いつまでも、手を取り合って、うっとりしている場合ではない。
時間を意識すること自体、無意味なことかもしれないが、俺はヴィオを
おっと、そうだったわね――とヴィオ。両手をパンッと合わせる。
「まあ、見付けたからと言って、助けられる保証はないんだろうけど……」
俺は肩を
「まずは見付けてから、考えましょう!」
そう言って、ヴィオはキョロキョロと周囲を見回すと、
「多分、こっちね!」
泳ぐように先へと進み始めた。俺も
やはり、彼女は最初から、俺に近づくことが目的だったようだ。
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