第31話 フフフッ、一狩り行こうね♡


 ――ビストニア大陸〈ドレイク火山マウンテン〉――

 【山道】


 ビストニア大陸は主に八つの勢力により、支配されていた。

 勿論もちろん、人間などではなく、魔獣だ。


 そして、その一角をになうのが、火竜ファイアドレイクたちだった。

 『一〇〇年代』のプレイヤーでは、この山の攻略は不可能とされている。


 それはレベルの上限と装備の関係によるモノだ。

 少なくとも、レベル一〇〇の仲間を何人かそろえておく必要がある。


(でなければ、一撃で総崩れしてしまう……)


 ここのボス『火竜ファイアドレイクおさ』は、レイドボス(多人数で戦うボス)だ。

 高レベルのプレイヤーでも、一人であれば途中で力尽きるだろう。


(例外があるとすれば……)


 俺のようなランカーだけである。

 そもそも、倒す準備に対し、コスパが良くない。


 『ドラゴンスレイヤー』の称号やレアドロップ品は手に入るのだが、戦いをいどむ連中は珍しかった。


 今回の攻略の場合、炎の攻撃に耐えうる装備と、連携の取れる仲間が必要だ。最初に極大魔法で一気にHPを削り、その後、弓などの遠距離で戦うのが基本だろう。


(確か、集団に対して攻撃をしてくるはずだ……)


 ブレス攻撃や翼による突風、尻尾による打撃など、完全に災害レベルだ。

 一応、対竜用の装備もある。


 だが、それは山を登る際にドラゴン系のモンスターと戦うための装備だ。

 相手は飛行能力とブレス攻撃を持っている。


 巨大なレイドボス相手では、白兵戦は分が悪い。

 戦士系は防御にてっし、仲間が守るのが基本だろう。


 ブレスに備え、炎の耐性を持つ連中が、交代で壁役を引き受ける。

 ダメージを受けては交代し回復。


 ドラゴンが壁役を攻撃している間に『弓矢や魔法を当てる』というのがセオリーだろう。


 白兵戦を仕掛けるのは最後だ。

 ボスのHPが残りわずかになった際、総攻撃を行う。


 止めを刺したプレイヤーには『ドラゴンスレイヤー』の称号が手に入るためだ。

 恨みっこなしの早い者勝ち――という奴である。


 また通常、レアドロップ品はクラン(プレイヤー同士で作るチーム)の共有財産になる。そのため、早々に武器や防具に加工し、貸し出す形で使用した。


(正直、一度戦えば十分な相手だ……)


 ここに来たのは、アメジストのレベルを上げることも目的だったが、彼女が『俺の実力を見たい』と言ったのも理由の一つだった。


 それがアメジスト――いや、ヴィオが俺に真実を教えてくれる条件でもある。

 俺が『高みを行く者ハイペリオン』かどうかを見極みきわめたいらしい。


(なぜ、ゲームで?)


 そう思わなくもない。

 先日の海賊相手の戦いでは、実力の半分も出してはいなかった。


 彼女も俺の戦闘を見ていないので、仕方がないと言える。

 しかし、俺の戦闘スタイルは拠点を防衛することに向いていた。


 設置した拠点に対し、召喚したアンデッドを使って『物量で押し切る』タイプのモノだ。完全に防衛特化のキャラクターだった。


 勇者や冒険者というより、完全に『魔王』と言える。


(レイドボスの気持ちが分かる……)


 ヴィオいわく――この大陸で最強と言われるモンスター『火竜ファイアドレイクの長』を俺が一人で倒せば、その証明になる――らしい。


 はっきり言って、無茶振りである。

 彼女の理屈によると、現実世界リアルで俺の能力を発揮するには、リスクが高いそうだ。


 そのため――ゲームで――ということらしい。

 しかし、『それは逆だろう』と俺は考えている。


 宇宙人の目的は外宇宙へと旅立つことだ。

 それには、肉体を捨て、情報体になる必要がある。


 つまりは――ゲームが強い奴ほど、外宇宙での活動に適している――そんな推論にいたってしまった。


 あの後、調べてみたが『高みを行く者ハイペリオン』自体も太陽神らしい、

 天体の運行と季節の変化の関係を人々に教えたようだ。


 外宇宙に行き、その情報を持って帰ることができるとすれば、筋が通るのではないだろうか?


 宇宙人がもたらした情報は地球を救うためのモノではなく、人類を次の舞台ステージみちびくためのモノかもしれない。


 現実世界リアル仮想現実ゲームの能力を使えるのは、ただの副産物といえる。

 ――人類に外宇宙へ旅立つための資格があるのか?


 それを確かめるための試金石しきんせきなのだろう。

 宇宙人かれらに認められるための、わば人類救済を賭けたゲームだ。


 そんな俺の心情など、知る由もなくサファイアは、


「レイドボス、バーサス、レイドボス♪」


 などと喜んでいた。

 クラン対抗戦では、仲間から『絶対に来い!』と念を押される。


 恐らく、皆も同じ認識なのだろう。

 期待されているのは嬉しいが、ボスキャラ扱いは複雑な気分だ。


「フフフッ、一狩り行こうね♡」


 とアメジスト。気楽なモノである。俺が勝利すると確信しているらしい。

 しかし、俺は死霊術師ネクロマンサーだ。


 アンデッドに〈火〉属性のモンスターと戦えというのは『完全に罰ゲーム』な気がする。撤退てったいも考えて、ヒスイに来てもらえたのは助かった。


 しかし、そんな彼女も、


「師匠の戦い振り、参考にさせて頂きますね♪」


 とお気楽モードだ。なんなのだろう、この過度な信頼感。

 めて欲しいところである。


 救いなのは、俺の戦い方で『戦ってもいい』という条件を得たことだ。流石さすがに――ドラゴンを殴って倒せ!――などという無理ゲーはしなくていいらしい。


(まあ、無茶振りには変わりないが……)


 いつもの物量作戦も『火竜の長』相手ではブレス攻撃で終わりにされてしまう。

 遠距離攻撃をしようにも、壁役となるユニットが必要だ。


 『石人形ストーンゴーレム』を召喚するのも手だが、本来は『錬金術師アルケミスト』の得意分野だ。

 高性能の人形ゴーレムの作成には、工房アトリエが必要となる。


 必然的に取る手段は限られてしまう。

 俺は山道の途中で出現する小型の『火竜ファイアドレイク』を狩る。


 そして、手に入れた骨で『骸骨スケルトンドレイク』を召喚し、使役することにした。

 ドラゴン部隊の完成だが、今回は量より質だ。


 融合と強化を使い『真紅眼レッドアイズ骸骨スケルトン黒竜ブラックドレイク』にしてみた。

 漆黒の骨でできた巨大な骸骨スケルトンドレイクである。


(これでなんとかなるだろうか?)


 次回『クロム死す』――デュエルスタンバイ!(※ウソです)

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