第23話 クロム、お帰り☆


 海賊船が十分に近づいてきたところで、俺は召喚したモンスターを連れ、飛行魔法で空を飛ぶ。そして、上空から海賊船を襲撃した。


 相手も俺のことは認識していただろうが、上空に向かって砲撃はできない。

 黒い霧があるため――発見が遅れた――というのもあるだろう。


 まずは帆柱ほばしらの見張り台にいる敵を倒す。

 俺は人間相手に有効な即死攻撃を持っている。


 相手は即死攻撃への対策をしていないのだろう。

 上手い具合に一撃で終わった。


 パッシブスキルの効果で、俺の殺された人間はアンデッドになる。

 俺は死体を甲板へと突き落とした。


 また、俺が連れて来たモンスターの内、一匹の身体がふくれ上がる。

 海賊たちは仲間がやられたことよりも、そちらが気になるようだ。


 当然と言えば当然だろう。俺が召喚したのは、時間が経つと大爆発を起こす『バルーンボム』という種類モンスターだ。


 『バルーンボム』はフィールド上にフワフワとただよう風船のようなモンスターで、ダメージを与えることで爆発する。


 その威力は膨れ上がることに増大した。

 今回、俺が召喚したのは上位種である『レッドバルーンボム』だった。


 火属性を持ち、爆発した際の威力は『バルーンボム』の比ではない。

 徐々じょじょに膨らみ続け、大火災を起こす危険なモンスターだ。


 早めに倒さないと、船が火の海になるだろう。

 当然『レッドバルーンボム』に対し、弓矢が放たれるが、それは届かない。


 護衛に『スライム』を用意していたからだ。

 こちらは『ポイズンスライム』で当然、毒を持っていた。


 物理攻撃に耐性があり、魔法で倒すのが有効だが――


(船の上で即座に魔法は使わないよな……)


 俺は〈ブラックミスト〉と魔法を反射する〈マジックリフレクト〉の合成魔法を使用する。合成魔法はMPを多く消費するが、二つの魔法の効果を得ることができた。


 黒い霧により、俺の姿が隠れたことで、パッシブスキルが発動する。

 俺の攻撃力と命中率が上昇するのだ。


 発動条件は――目視されないこと――俺は闇に隠れつつ、弓を放った。

 もう一つの帆柱ほばしらにいた見張りを即死させる。


 相手はそのまま、甲板へと落ちた。

 二体目のアンデッドの出来上がりである。


 先程のアンデッドと一緒に不用意に近づいた海賊たちをおそう。

 相手は二人とも、プレイヤーだったようだ。


 眠っている時と同じで、薄っすらと半透明の魂のようなモノも見える。

 しかし、彼らは自由に動くことはできない。


 操作している俺を倒すか、アンデッド化を解いて、復活させてもらう必要があった。ゲームのため、アンデッド化さえ解除すれば、時間の経過と共に復活できる。


 ただ、その場合、ペナルティが付く。一回や二回のペナルティなら我慢できるだろうが、それ以降は失うモノが多い。


 そのため、復活をあきらめて、教会などに魂として戻るのが定石とされていた。

 相手は海賊なので、この場合はアジトに転移するのだろう。


(それにしても、この海賊――ハゲしかいないな……)


 このまま、ハゲ海賊に魔法をち込んでもいいが、折角のアンデッドまで倒してしまう。俺は海賊たちが混乱している場所に〈ブラックミスト〉を使用した。


 視界をさえぎるだけの低級魔法なので、好んで使用するプレイヤーはいない。

 しかし、実際に集団戦で使われると効果は絶大だった。


 俺は黒い霧の中に飛び込むと、三人目を始末し、アンデットにする。

 ここでようやく、俺が『ネクロマンサー』だということに気が付いたようだ。


 しかし、それだけでは五十点しか上げることはできない。

 なぜなら、俺のサブクラスは『アサシン』だからだ。


 『ダンサー』には【舞踏】、『バード』には【呪歌】があるようにアサシンには【仕手】という特殊能力がある。相手を殺すことに特化していた。


 とは言っても、有効なのは初見に対してのみだ。

 即死攻撃を使えるのが分かっていれば、対処されてしまう。


 また対人戦以外では、あまり役には立たない。

 そのため、ネクロマンサー同様、趣味で選択するクラスだった。


 通常は人を殺した場合、ペナルティを追ってしまう。今回のように、ペナルティの付かない、防衛のための対人戦でなければ活躍できなかった。


 俺の場合は運営側から、こういった不人気なクラスの使用を試験的に頼まれている。試行錯誤の末、どうにか辿たどり着いたのが、この戦い方スタイルだった。


 規則ルール罰則ペナルティとらわれず、漆黒の闇にまぎれる時、つかの間、俺は暗殺者になり、アンデッド職人になる。


 運営に邪魔されず、気を使わず、他者を圧倒するという孤高の行為。この行為こそが、プレイヤーへ平等に与えられた『最高の癒やし』と言えるのである。


 ついた二つ名が『黒き死神のクロム』。俺は再び〈ブラックミスト〉を使用すると、気付かれないように四人目をアンデットにした。


(精々、仲間同士で殺し合ってくれ……)


 通常のプレイヤーは敵を殺せても、仲間を攻撃するのには抵抗がある。

 俺はその隙を突き、次々にアンデットを量産して行く。


 この分なら、船の防衛は問題なさそうだ。


すげつえぇー骸骨スケルトンがいるぞ!」


 と声が聞こえたが、それは多分、ルビーだろう。ウチの妹です。

 骸骨スケルトンは倒しても復活するので、俺がこのまま戦力を削り続ければ終わるだろう。


 俺は〈マジックドレイン〉で相手からMPを奪い、〈ブラックミスト〉を使用する。海賊たちは俺がどこにいるのか、位置がつかめないようだ。


 これがいつもの、俺の必勝パターンである。

 更に俺は弓を得意としていた。


 即死効果スキルを使用し、弓を黒い霧の中から撃つ――

 それだけで、海賊たちは次々にアンデットになって行く。


 獲物であるはずの船からも、骸骨スケルトンたちが無限に湧いて出てくる。

 更には、レッドバルーンボムの巨大化を止められない。


 俺が〈火〉の魔法を撃つことで、炎を吸収して更に大きくなる。

 また、海賊たちは気付いていないようだが、ポイズンスライムも分裂していた。


 増殖したスライムたちに飲み込まれ、海賊たちは毒に侵される。相手が即死攻撃を無効にするアイテムを準備した頃には、すっかり毒まみれというワケだ。


 〈ヒール〉でダメージを受けるからだろうか?

 アンデットはなぜか、毒で回復した。


 思ったよりも早く――不死身の軍団が出来上がった――と言うワケだ。

 頃合いを見計らい脱出する。最後は大爆発だ。


 とんだB級映画である。魔法で飛行しながら俺は――


(『ビストニア大陸』はハズレかと思っていたが……)


 アメジストに強いモンスターと契約させ、使役させるのも、いいかもしれない。

 と考え方を切り替えていた。彼女は『吸血鬼ヴァンパイア』を目指している。


 サブクラスに悪魔召喚士である『デビルサモナー』もありだろう。

 そんなことを考えながら、甲板に戻ると、


「クロム、お帰り☆」

流石さすがだね、兄さん!」

「諸行無常、盛者必衰の理」


 そう言って、アメジストたちが出迎えてくれた。

 ただいま――と言った後、俺はあることを思い出す。


(おっと、お土産を忘れていたな……)


 ハゲ海賊団は、これ以上の戦闘をあきらめたのか、海賊船ごと転移してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る