第14話 フフフッ、地球の文化は研究済みでーす!


 ――現実世界〈朝比奈あさひな宅〉――

 【居間リビング


 時間圧縮の技術により、現実世界リアルの一日――二十四時間――の体感時間を仮想世界バーチャルでは十日間にすることに成功した。


 勿論もちろん、高性能の機械マシンを使った場合は、その限りではない。

 しかし、日本では死刑囚などを使った人体実験は行われていない。


 そのため、データが少ないようだ。実のところを言えば、皆が言うように『本当に危険なのか』も定かではなかった。当然、個人差はあるだろう。


 しかし、安全性を優先しているため、情報複製体データクローンを使用する際は定期的にログアウトする決まりになっていた。同時に情報複製体データクローンは削除されてしまう。


 よって、どうしても一日置きにデータを吸い上げる必要があった。

 未知数ではあるが、脳や精神への悪影響も考えられる。


 データのインストール後に『廃人になった』という例もないワケではない。

 けれど、人々はVRMMOの利用をめられなかった。


 圧倒的に利点の方が大きいからである。

 海外では情報複製体データクローンに仕事をさせて、現実世界リアルの本体は長期休暇バカンスを楽しんでいた。


 一度は失敗に思われた商業空間メタバースだったが、今や必要不可欠な場所となっている。

 ただ、日本人だけは、現実世界リアルでも延々と仕事をし続けていた。


 確かに現実世界リアルでしかできない仕事もある。その点を除いても、異常といえる割合だった。海外からは笑われているようだ。


 また、現実世界リアルで有名になることよりも、仮想世界バーチャルで有名になること。

 それが若者たちのステータスとなっていた。


 政府は『人生千年時代』と発表している。

 どれだけ、国民を酷使こくししたいのだろうか?


 だが、消費税だけはなにがあっても下げるつもりはないらしい。

 上がり続ける消費税に対し、人々は働き続けるしかないのだ。


 しかし、悪いことばかりではない。

 俺の友達にもラノベを書いて、一山当てた人間がいる。


 本来は宇宙人と対話するための翻訳機能を搭載したAIだったが、現代の仮想世界バーチャルでは翻訳のアプリとして使われていた。


 これにより、日本語という言葉の壁がなくなったため、アニメや漫画だけではなく、ラノベやゲームも爆発的にヒットすることとなる。


(やはり、読者やプレイヤーの数が増えると違うらしい……)


 また、誰でも気軽に作品を販売できるため、出版社や編集は必要なくなった。

 知名度が上がれば、クラウドファンディングでお金を集めることも可能だ。


(果たして、出版不況とはなんだったのだろうか?)


 販売の相手は海外だけではなく、宇宙人もいる。

 そのため、成功すれば一兆ダウンロードなど、あっという間だった。


(一冊、百円で売っても百兆円か……)


 うらやましい――というか、個人で持っていて大丈夫な額なのだろうか?

 その友人は姿を消してしまった。


 経済的にも超円高が続き、市場は未だに混乱を続けている。

 やはり、宇宙人との交流は早かったのだろう――


(いや、そうじゃない!)


 別に現実逃避をしていたワケではない。

 俺は『ヴィオとの結婚の約束』を覚えてはいなかった。


(もしかすると、俺の記憶にも障害が起きてしまったのかもしれない……)


 勿論もちろん、記憶のインストールを忘れている可能性もあるが、現状では考えにくい。

 自分の理解が追い付いていないようだ。


(本当にゲームのやりすぎで、頭がおかしくなったのかもしれないな……)


 正直、勿体もったいない気もするが、


「二人とも、離れてもらっていいかな?」


 改めて、ヴィオと葵の二人にお願いすると、


「やれやれ、でーす☆」「兄者、我儘わがまま……」


 なぜか俺が悪いみたいな空気が作られる。

 茜に――これでいいかな?――と視線を向けると、


「兄さんのバカっ……」


 と非難される。流石さすがの俺も傷付くのでめて欲しい。


「えっと……『結婚の約束』なんて、していたのかな?」


 もし――していた場合――大変なことになりそうだ。

 ヴィオは一瞬、きょとんとした表情を浮かべた後、


「してないでーすよ?」


 と答える。


(良かった……)


 俺の頭がおかしなことになっているワケではないようだ。

 茜と葵も、安堵あんどの溜息をく。


「でも、相性ピッタリなのでーす☆」


 社長さんも喜んでくれまーした♪――とヴィオはご満悦の様子だ。

 どうやら、裏でおじさんが糸を引いているらしい。


 後でキチンと確認しなくてはいけないようだ。

 茜もこぶしにぎっている。


 詳しい確認が必要だが、一度、話をらした方がいいかもしれない。


「えっと、なんでヴィオはロボットで来たの?」


 取りえず、核心を突くのは止め、最初の疑問から確認することにした。すると、


「フフフッ、地球の文化は研究済みでーす!」


 とヴィオ。長椅子ソファーの上に立つと、


「見ての通り、私は宇宙そらから来た『謎の美少女』でーす☆」


 そう言って天井を指差す。


「そう、宇宙そらから来た『謎の美少女』と言えば……」


 そこまで言って、なぜか、したり顔をするヴィオ。


「なるほど、それでロボット……」


 完璧な理論に言い返せない――とは葵だ。

 なにか二人の間で共通の認識があるらしい。


 互いの健闘けんとうたたえるかのように握手を交わす。


なんで仲良くなっているんだ?)


 俺としては訳が分からないので、誰かに言い返して欲しいところだ。


「いいから……」


 と茜。静かな口調だが、完全にキレてしまっている。


「家の前にあんな大きいモノ、置かれると迷惑だから……」


 早く退けて!――と怒鳴どなった。流石さすがだ。

 ヴィオは耳をふさぎつつ、口をとがらせながら、


「はーい」


 と答えると、


「やれやれ、でーす☆」


 そう言って、肩をすくめた。


「姉者は短気……」


 と葵がつぶやくモノだから、余計に怒らせてしまうワケだ。

 こうして、居候先の家のガレージにロボットが置かれることになる。


 俺たちと宇宙人との同居生活が始まったのだった。

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