頭部のヘッド

村奥へとやってくるオールドたち。


「案内をしますが…それよりもここに来て、一体何をするおつもりですか?」


オールドが先行して村の中を歩いていた。

その後ろをついてくる騎士達に向けてオールドはそういった。

彼らの役割は見回りなのだろうか。

村を滅ぼした悪魔が再び出てくるかもしれないと、そういう懸念を込めての探索か?


それにしては、その姿は見回りとは不釣り合いな姿だった。

なにせ甲冑は脱ぎ捨てられており二人の騎士はラフな格好をしていたのだ。


それに加えて騎士たちの手には武器が握られている。

それは人間を殺すために使うような棍棒…クラブだった。


基本的に騎士が人を殺すときがあるとすればそれは他国の兵士達との戦争だろう。

彼ら騎士…もとい兵士たちはその体に鎧を装着しているために攻撃をしても中々効かない。


矢を射っても多少甲冑が歪むだけでたいした攻撃にはならないし剣を使っても鎖帷子を中に着込んでいるんで刃が通らない。


だから貫通による殺傷でも斬撃による殺傷でもない基本的にぶん殴って物理的攻撃をもって相手を叩き殺すのだ。

そうしたわけで大抵の騎士たちが外へ連れ出す時は剣と一緒にクラブも持って来るのだった。


しかし悪魔に対してはやはりクラブよりも剣を使った方がいいだろう。

この村は悪魔によって滅ぼされた。

だからこの周辺に悪魔がいる可能性もある。

なのになぜ剣ではなくクラブを持ってきたのかとオールドは不振がっていた。


「…あの?私の話を聞いているのでしょうか…」


後ろを振り向き、騎士に聞いてみた瞬間、大きくクラブを振り上げてオールドに向けて攻撃を仕掛けてきた。


その攻撃に対してオールドは避けることもできずに頭からそのクラブをまともに当たってしまう。

鈍い音が響くとともにオールドは地面に叩きつけられた。


「全くこんな面倒な仕事をよこしてくるなんてな」


「だが運がいい、生存者がこの二人だけだったら後始末は簡単だ」


そのように騎士たちがしゃべっている。

オールドは頭を押さえながらその話を聞いていた。


「生存者がいなければ村の処理や報告なんていくらでもでっち上げることができる」


「そうだなさっさとこのガキを殺して俺たちも楽しもうじゃないか」


そのような声が聞こえてきた。

なんと騎士達はオールドたちの村をなかったことにするつもりだ。

いや一応は報告はするのだろう。


「おまっ…お前たちは、一体何を言っているんだッ」


オールドは頭を押さえながら騎士たちに聞く。

まだ意識があるのかと騎士たちは驚いたがオールドの方に顔を向けて嘲るように笑った。


「この土地は騎士団長の管轄だ、もしも村が悪魔に襲われて壊滅されたとするならばその責任は騎士団長及び俺達にも被害が被る、ならばいっそのこと『我々が気づかなかった内に村が壊滅されていた』という事実ではなく、『我々がこの村へと到達し悪魔と応戦したが残念なことに村は壊滅してしまったが悪魔を討伐することができた』という設定の方がいくらか我々の戦歴に箔がつくというものだ」

「そのためには生き残りがいては困るんだ」


騎士はそう言ってオールドの方へと歩いていく。

それが彼ら騎士団たちの総意であるらしい。

保身の為にオールドたちを殺そうとしているのだ。


「そんなこと、許されるはずがない…ッ」


「村人風情が知った風な口を利くな、どうせお前はここで死ぬ、そうすれば誰が俺たちの行為に対して上層部の方へと報告すると言うんだ?…もっともお前ら村人ごときが王都の本部へと足を踏み入れること自体無理な話だが」


「さっさと終わらせてやろう俺たちも早く混ざりたいからな」


「村人の娘にしては成熟した体だからな、楽しみで仕方がない」


そのような会話をしている二人に対してオールドは顔を上げる。

彼らは何を言っているのかだんだんとオールドは青ざめていくと同時に心の内から煮えたぎるような感情が渦巻いていく。


「お前らは一体何の話をしている」


そう聞くと憎たらしい顔をしながら騎士達がオールドに律儀に教えてくれた。


「商工処分する前に少し楽しもうというだけの話だ」


「お前の妹はとてもいい体をしているような」


そのような言葉を聞いた以上オールドは黙っているわけにはいかなかった。

自分の大切な肉親をこのような性根が腐った人間たちに貪られてしまう。

そんなことは絶対に許せないとオールドはそう思い感情を湧き上がらせた。

その燃えたぎるような感情は怒りと変わり騎士たちを敵とみなして拳を握りしめる。


「俺の妹に手を出すな…」


そう言って立ち上がるとともに騎士の一人がオールドに向けてクラブを思い切り振り上げて今一度頭を叩きつけた。

頭部が割れるオールドの血が噴き出していく。


「別にいいだろうが、どうせお前は死ぬのだから」


ここで騎士たちが殺すそして再びキャンプ地へと戻りオールドの妹と認識しているノスフェラトゥを強姦しようとしている。

本来ならば人間であればそのクラブの一撃によって意識不明最悪脳に衝撃が加わりそのまま死亡してしまう。


だがそうはならない。

オールドの頭部から流れ出る血液がその攻撃を緩和させたのだ。

オールドの血液はノスフェラトゥの血が混ざっている。

それはオールドの意思によって動くことができた。

家がクラブにまとわりついて余裕の笑みを浮かべていた騎士はだんだんと狼狽していく。

武器が思うように動かすことができないのだ。


「なんだこれは貴様一体何をしたッ!」


「答える義理がどこにある」


そう叫ぶとともにオールドが前進するとともに拳を記すの顔面に叩きつけた。

オールドの拳からは戦禍のウォーから手に入れた武器の血が流れている。

拳からスパイクのような複数のトゲを出現させた状態で殴りつけて騎士の顔面は一気に穴だらけとなった。


それと同時にどこか大切な器官を傷つけたのだろう騎士はその一撃に言って倒れてしまい二度と起き上がることはなかった。

友人であるのか、それとも上司か、部下であるのかもしれない。

少なくともその騎士の死によってもう一人の片割れがオールドに対して牙を剥いた。

怒りを滾らせながらオールドに対してクラブを向ける。


「貴様よくも仲間を!」


そのように叫ぶ騎士に対してオールドは跳ね返すように声を荒げた。


「黙れ」


オールドは手を振る。

拳から流れ出した血液が凝縮して行き彼の一振りは大鎌と化したのだ。

その腕の振りによる軌跡によってその攻撃範囲内にいた騎士の首が跳ねられた。


「っ…ルインっ!」


そのままオールドは走り出す。

地面に転がる石など目にもくれず、ノスフェラトゥのいるテントへと向かいだした。

走り出してオールドはキャンプ地へと向かう。


テントの中心には焚き火が配られていて人影がよく見えた。

声が荒げている。

複数の男性の声が楽しそうに笑っていた。

オールドは地面を蹴ると共にその騎士達の間に割って入っていく。


それと同時に流れ出した腕の血を変形させて一振りの刃へと変えながら騎士を切りつけ、テントへと入っていく。


「ほら、おとなしくしろっ!!」


テントは無理やり壊されていた。

そこにはノスフェラトゥの上に跨る騎士と彼女の手を拘束する騎士の姿があった。

衣服は破られていたがその身体は未だ貫かれてはいない。


「ああああっ!!」


ノスフェラトゥの方に気を取られていた騎士の一人がオールドの登場によって後ろを振り向くと共にオールドは拳を騎士の顔面に叩きつけた。

それによって騎士は吹き飛ばされていき、さらにノスフェラトゥの手首を拘束していたきしに向けて膝蹴りを繰り出す。


体が自由になったノスフェラトゥはすぐさまオールドに向かっていき体を強く抱きしめた。

恐怖に怯えている様子であるオールドはノスフェラトゥを強く抱きしめるとともに騎士たちを睨みつける。


「これが民を守る騎士のやり方か、騎士道の精神はどこへ行った!」


そのように叫ぶと騎士の半分は笑っていて、もう半分の騎士は怒りに限っていた。

そしてその騎士達の間に割って入ってくるのは、この村へとやって来ることに決めた騎士団長の姿だった。

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