貨物船さんふらわぁ

 大洗=苫小牧間を航行する、商船三井のカーフェリー「さんふらわぁ」は、夕方便と深夜便の1日2便を運航している。


 さんふらわぁ夕方便は、同社のWEBサイトを見てわかるように、旅客メインのフェリーだ。


 近年新型船に更新して、設備も新しく洗練されている。


 1日近く海上で過ごすフェリーだから、レストランもあるし、部屋もキレイで船上のお楽しみプログラムもいっぱいあるだろう。


 だろう?……


 実はこの昼便。乗ってみたいけど、乗ったことがない。一度ぐらい乗ってみたい。


 対して深夜便は、貨物やトラックドライバーの利用が多い。


 私が利用するのはもっぱらこちらの便。昼間の仕事を片付けてから乗船できるのがその理由。


 大抵のカーフェリーはドライバーと一緒に車両甲板に入れるのだが、この便の同乗者は徒歩乗船だ。(昼便はどうだか知らない。帰りは地獄の八戸ルートシルバーフェリーが多い……)


 毎回、暇つぶしアイテムを詰め込んだ自分の重たい荷物と、買い込んだ食料、飲み物を詰めたクーラーバックを抱えてヨタヨタ乗り込む。


 部屋に荷物を突っ込んだら、ドライバーの乗船を待っている間は暇なので、デッキから桟橋を眺めている。


 数台の乗用車が並んでいるなか、コンテナを引いたトレーラーが船内に吸い込まれ、反対側からはトレーラーヘッドが出てくる光景を眺めているのは楽しくて、ドライバーが乗船してくるまでの良い時間潰しになる。


 客席はデラックスルームという個室があるが、基本的に窓側の4ベッドのカジュアルルームと言われる大部屋。ちなみに夕方便のコンフォート――互い違いのコンパートメントが並ぶ大部屋――と同じ値段で乗れる。


 一般乗客とトラックドライバーは居住区画が違うので、通常期のほとんど乗客がいない深夜便では、この4人部屋は仲間内で貸し切りか、一人で使う事ができる贅沢な空間だ。


 人に会わず静かな時間を過ごしたい層には、深夜便はうってつけだと思う。


 解放感のあるベッドに座って、海水で白くくすんだ窓を見ながら、様々な事に思いを馳せたり、読書を楽しむのは最高に贅沢な時間だろう。(執筆だって捗るかもしれない)


 ちょっとエンジン音が気になるかもしれないが、耳栓を用意すれば問題ないし、気にしなければなんてことない。そのうちに慣れてしまう。奮発してデラックスルーム(確か1室しかなかったような?)にすれば、それらとも無縁でさらに快適な旅が過ごせるだろう。


 深夜便は船も古くて、おまけに船内にはレストラン等の食事提供施設はない。そのため、食料は事前にコンビニ飯を持ち込みか、船内自動販売機の冷凍食品を温めて食べるのどちらか。


 さらに。大浴場を独り占めできるぐらい人がいない。(泳げる)


 デッキに人がいない。


 食事スペースに空になった焼酎のボトルを見かけることがあっても、人がいない。


 大騒ぎする人の声もなければ、誰かのテレビの音や大イビキに悩まされることもない。


 同行者以外、誰とも接触しない広い船内。


 そんな船内をウロウロしていると、SFだったら「仲間はみんな冬眠中コールドスリープ。自分だけが起きて活動している宇宙船」とか「不測の事態が起きて、自分しかこの船にいない!?」的なシチュエーションを想像してしまう不思議な時間。


 それぐらい、深夜便のさんふらわぁは人がいない。


 きっと、人より貨物の方が多い。


 いつだったか、パーサーのおじさんと雑談したときに、今日の乗客は7人と聞いたことがある。


 こんな大きな船に、客は7人。(あとはトラックやコンテナやクルー)

 特別感がハンパない。


 この深夜便を、静けさと特別感を求めて好んで乗る知人が数名いる。


 私と彼らはこの深夜便を愛と親しみをこめて「貨物船さんふらわぁ」と呼んでいる。

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