第8話 青春の幕開け、オタクに優しいギャル

 青井あおいはるかちゃん。


 家の近くの公園でヤンチャな奴らに絡まれていたところを、俺が助けてあげた女の子だ。


「いえいえ、あの時は本当にたまたま通りかかっただけで」


「それでも! 助けてくれたことには変わりないです!」


「そ、そう?」


 遥ちゃんは真っ直ぐな目で俺を見た。


 ……改めて見るとやっぱり可愛い。


 黒髪ショートをちょっとふんわりさせた髪に、ぱっちりとした二重の瞳。

 全体的に清楚な印象を受けるが、スカートは短めで、結構出している綺麗な足が俺を少しドキドキさせる。


「あの……?」


「ああ、ごめん! なんでもないんだ! 本当に」


 ちょっとじろじろ見すぎたか?

 これじゃ変態扱いだぞ。


≪……はあ。そうなると思って青井遥の意識を逸らしておきました。相手からはイヤらしい目で見ていたことはバレておりません≫


 さっすがー!


 童貞かつ長らく女の子と話すらしてなかった俺には、制服女子高生は刺激が強すぎるからね。


「そういえば、遥ちゃんは新入生なの?」


「は、はい! そうです! それで、あ、えーと……お名前、聞いてなかったような……」


「あ、そうだね。俺は石川龍虎。遥ちゃんと同じ新入生だよ」


「石川……龍虎さん。って、え、新入生なんですか!?」


「え、うん。それがどうかした?」


「いえ……」


 どうしたんだろう。


≪大人っぽいなー、だそうです≫


 ……乙女の心を勝手に読むなよ。


 けど、そうか。

 身長はかなり高いし、この顔じゃそう思われるかも。


「だから敬語はいらないよ。よろしくね、遥ちゃん!」


「は、……あ、うん! よろしく!」


 学校前で遥ちゃんと再会(?)を果たし、新入生同士一緒に校門に入っていくことにした。


「なによあの女!」

「龍虎くんと仲良くしやがって!」

「許せないわ!」


「……」


 後ろの方から声がする。

 ノーズの身体能力補正で丸聞こえなんだよなあ。


「どうかしたの?」


「ううん! なんでもないよ!」


 遥ちゃんにはちょっと悪いことしちゃったかな。





 俺のクラスは1年2組だった。

 

 そしてなんと、


「すごいね! クラスだけじゃなくて席も前後なんて」


「俺もちょっと驚きかも」


 俺の前に座るのは、なんと遥ちゃん。


 「青井」と「石川」なので、出席番号順にすると、遥ちゃんは一番窓側一番前の席。

 俺がその後ろとなった。


 ここまできたらもはや運命じゃないか?


≪早とちりですねー≫


 なんだと。

 まあ、言いたいことも分かるが……。


 俺は案の定というか、教室内でも注目を浴びていた。


 遥ちゃんも相当に可愛いので、俺たち揃ってだ。


「ちょ、ちょっと落ち着かないね」


「はは……そうだね」


 さすがに遥ちゃんも気づいた様子。


 と、そんな時、


「遥ー!」


 さっき俺たちが入って来た教室の扉をガラっと開けて、勢いよく入ってくるのは一人の女の子。


 あれ、そういえばこの子って、


「あや!」


「遥~! 一年から一緒のクラスで嬉しいよ~」


 間違いない。

 遥ちゃんを助けた時、待ち合わせをしていた友達の子だ。


「あれ、あんたどっかで見た事ある」


 友達の子は遥ちゃんと席で抱き合った後、こちらに視線を向けた。


「どうも。この前、公園で一瞬見かけましたね」


「あ~。遥を助けてくれたっていう、王子様」


 ん、王子様?


「ちょ、ちょっと、あや! 声が大きいって!」


「あ、ごめんごめ~ん」


 “あや”と呼ばれる女の子は「てへっ」と舌をペロ出しして、遥ちゃんに謝った。


 「王子様」が気になり過ぎるのだが、スルーしておくべきか?


「あたし、遥の友達の『鈴木彩奈』で~す。よろしくっ」


 女の子は、ウインクと、親指・人差し指・中指を大きく広げたピースのようなポーズで、軽いノリの挨拶をしてきた。


 遥ちゃんとは似ても似つかぬというか、言動からも分かる通りギャルっぽい。


 胸元まで伸びた派手な金髪に、左耳には小さめの輪っかピアス。

 多分カラコン? を付けて明るい瞳をした、とにかく明るい女の子だ。


 前世では苦手なタイプだろうが、今の俺は違う。


「俺は石川……石川るぅとっ!」


 はっ!


「「……」」


 三人の間に一瞬の静寂が流れる。


 か、噛んだ~~っ!


 完璧に決めるはずが……。

 俺の青春 is 終わり……。


 くそう、全然ギャル苦手乗り越えてないじゃないか。

 何が「今の俺は違う」だよ、恥ずかしい~~!


 と一瞬の間に出来る限りの後悔をしたが、


「ぶっ、あはははっ! なーんだ、見た目から完璧主義者? とか思ったけど、可愛いとこあんじゃ~ん。うりうり〜」


「ふふっ、龍虎くんでもそんなとこあるんだね」


 あれ?

 案外悪くない……というか、明らかに嘲笑ちょうしょうではない賑やかな笑いが起こった。


≪人間、捨てたもんじゃないということですよ≫


 そ、そうなのか。


 可愛い女の子とギャルと対面して、俺は見事に噛んだ。

 前世の俺なら、うつむいたまますでにどこかに走り出している案件だろう。


 オタクに優しいギャルは存在しました。


「龍虎くんね。改めてよろしく。はー、笑った」


「よ、よろしく」


 龍虎くん!? と急な呼び捨てに心臓をバクバクさせて、とんでもない顔になっていそうだが、ノーズの脳波いじいじでイケメンを保っているはず。


≪やっておきましたよ≫

 

 良かった。

 いつも大変お世話になっております。


「んじゃ、もうそろチャイムだから~」


「うん、後でね」


「龍虎くんもっ」


「お、おう」


 若干恥ずかしがりながらも、遥ちゃんに合わせて控え目に手を振る。


 あやちゃんは「鈴木」なので、窓側から二列目の一番後ろに座った。


「騒がしいでしょ」


「へ?」


「あやのこと」


 確かにそうだ。

 人と交流することを避けてきた前世では、絶対に鬱陶うっとうしいと思う部類だろう。


 でも今は、


「楽しい人だね」


「それならよかった」


 ニコっと笑った遥ちゃんは、そのまま前を向いた。

 予鈴が鳴ったからだ。


 さてと、落ち着いたところで“あれ”、やっておきますか。

 ……人の心を読むようで少し気が引けるが。


≪あれですね≫


 お願いします。


 ノーズにお願いして、後ろをちらり。


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鈴木彩奈 好感度:46

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 ほう。

 

 ノーズによると、30以上が友達、50以上が親友に当たる好感度らしい。


 続いて前方をちらり。


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青井遥 好感度:79.2

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「……ふっ」


 俺の時代だな。


 こうして俺の青春(予定)の高校生活が幕を開けた。


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