第7話 イケメン=青春確定!

 あのスレッドを立ててから、一時間後に俺の個人宛でDMダイレクトメッセージが届いた。


「んんん~?」


『はじめまして。山下と申します。……』


 なんだこれ、新手の荒らしか?

 こんなもんは無視だ、無視。


 この“山下”という名前をはじめ、複数の個人情報を載せてくるあたり精工に見せているが……甘い。


 俺がこんなのに引っかかると思ったか、バカめ。

 そうだろ? ノーズ。


≪……≫


「ノーズ?」


 てっきり「こんなのは無視しましょう。くれぐれも引っかからぬように」なーんて言ってくるかと思ったが、反応が悪いぞ。


≪……本当の可能性があります≫


「はあ!?」


 何言ってんだこいつ。

 もしかして、ネットリテラシーをご存じでない!?


≪誤字が三つ、内容が突飛でそれほどまとまり切っていません。これが精工な手段だとすれば大したものですね≫


「な、何が言いたいんだよ……?」


≪人が焦り、何かにすがるように打ち込んだ形跡が垣間見えます≫


「本気か?」


≪はい。スパムのような意味不明さもなければ、迷惑メールのような宣伝広告もありません。単純に日本語力が足りていない、そんな風にも読み取れます≫


「そ、そう……」


 どうするべきか。


 ノーズはこう見えても、俺の意志に反して体を乗っ取るようなことはしない……え、しないよね?


≪しません≫


 そうか、よし。

 では改めて。


 体を乗っ取るようなことはしないので、決めるのは俺だ。


「……」


『良いお返事を、何卒、何卒お待ちしております!!』 


 そう締められた文章を見て、確かに人間っぽいなとは思う。


 けどなあ。


 毎日6ちゃんねるではレスバトルレスバをし、SNSではVTuberの親衛隊として毎日アンチを論破してきた俺だ。

 今更こんなネットのものを信じられるわけがない。


「でも……」


 俺の中のトップの信頼度を誇るノーズが、確定ではないが本物だと言っている。

 ノーズと俺の勘、どっちを信頼するかと言われると……


「もしもの時はまた守ってくれよ」


≪はい、もちろんです≫


 俺は、山下と名乗る人物とのDMダイレクトメッセージを開き、返信を打ち込み始めた。







「ふあ~あ」


 くそう、昨日のやり取りのせいで寝不足だ。

 早く起きたのは相当に偉いけどな。


「それにしても……」


 昨日の夜、返事を返した後、そっこーでDMが返ってきた。

 「ぜひ会いたい」と。


 ブラック企業に勤めてるのかなんなのか、山下さんは来週の日曜まで仕事が入っているらしく、続きはその時に、というところでやり取りは終了した。


「まさか本当のお願いだったとは」


≪言ったでしょう≫


 正直まだ会ってみるまでは分からない。


 それでも、やり取りをする中で人間らしさというか、ちょっとおっちょこちょいな部分が見えたのはたしかだ。 


「ていうか、来週て……」


 学校が始まってるよ……。

 

 今回の件はまあまた考えるとして、今は一旦学校のことだなあ。


 でもダルい。

 大学ですっかりサボリ体質となってしまった俺は、「学校」と聞くだけでアレルギーが発症しそうだ。


「一日目はサボるか。二日目から本気を出そう」


≪体、乗っ取りますよ?≫


「昨日乗っ取らないって言ったよね!?」


 はいはい、行けってことね。

 せっかくやり直した高校生活、せいぜい頑張りますよ。







「ふう……」


 朝、隣で妹と共に朝食を食べる。

 うん、そこまではいい。


 だが問題はその服装。


 制服ッ!


「なにじろじろ見てんの。キモいんですけど。てか早く食べれば?」


 いかにも「うざ」って顔で見てくるが、俺には見えているぞ。


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石川ひな 好感度:104.1

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 前より伸びているじゃないか。

 ふっ、可愛い奴め。


「ごちそうさま。おにいも早く食べなよ」


「あ、ああ」


 話を戻そう。

 ひなが制服、それはつまり……今日から学校なのだ!


 嘘だろ、時間経つの早くない!?

 これ俺だけ時間奪われてない?

 

 なんか★とかで時間飛ばされてないよな!?


≪時間は十分ありましたよ≫


「うぐっ」


 分かってるよ、分かってるけどさあ。


 ……いや、この一週間出来ることはやった。

 気合いを入れ過ぎな気もするが、俺は青春を送る!


「やるぞ!」


「急に大きい声出さないで。ほら、ひなみたいに準備しなさい」


「は、はい……」


 あまりの気合いに急に声を出してしまった。


「バカお兄」


 そんな言葉を残して部屋を出ていくひなは、ちょっと笑っていた。





「うわあ……」


 まじかよ、懐かしいなっつ

 

 陰キャ時代を過ごした俺に特に思いではないけど、一応三年間通った学校だ。


「ん?」


「あの人、新入生?」

「ちょっと話しかけてみてよ!」

「無理無理! かっこよすぎて」


 周りで若干話し声が聞こえる。

 内容は聞こえないが、なんだか俺を向いて話しているような……。


≪かっこいい、と言われてます≫


 おい! 知ってるよ!


「はあ……」


 相変わらず分かってないなあ。


 こういう時は自分のことだと分かりながら、「何を話しているんだ?」と鈍感系ラノベ主人公を演じて淡々と歩いて行くもんなんだよ!


≪そうでしたか≫


 いいよ、てかノーズお前の身体能力補正でほとんど聞こえていたし。

 興覚めではあるけど、やっぱり……


「あんなイケメン、雑誌でもありえないって!」

「どうしよう同じクラスだったら!」

「いい匂いするんだろうなあ……」


 気持ち良いかも。


≪そうでしょう≫


 おう、悪かったな。

 全部ノーズのおかげだ。

 これで俺の青春は確定だ!


 そんな時、


「すみません!」


「ん?」


 後方から声を掛けてきた女の子。


「あなたは……」


「やっぱり! この前は、助けていただきありがとうございました!」


 遥ちゃんだった。

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