第5話 定期的に✕✕を

「ここまでなかなか目が覚めないし……一番聞きたくないことを聞くことにする」

「うんうん、どうぞ」

「さっき、あんたと定期的に……キ、キスをしなきゃいけないって聞いた気がするんだけど……」

「あれ? もしかして夢じゃないかもしれないと思って恥じらい始めてる? 貧乳って言うのは躊躇ないのにキ……」

「死ね」


 頭から手刀を勢いよく入れた。


「ちょ……っ! 本当に死んだらどうするんだよ! 言葉って結構力を持つんだよ!? まぁ、今の君には全く魔法は使えないだろうけど」


 チート級なんじゃないの……。

 というか質問に答えてよ。


「あんたは質問に答えていればいいの」

「えー、もう分かってないなー。いや、分かっていないに決まっているけど」

「今度はグーで殴ろうかな」

「そ、そんなに怒らないでよ。魔法の才能とか先天的なものは再構成されて勝手に付くけど、後天的なものは難しくてね。召喚者との定期的な何かしらの触れ合いが必要で……月一くらいでキスしていれば、七年後くらいには問題なく……」

「七年!? もう大人じゃん!」

「ま、まぁ結婚するし……問題ないよね」

「問題ありありだよ! なんで好きでもない男と七年も――!」


 ん? 待って、何かしらの触れ合い?

 ……そこだけ、ふわっとしすぎていない?


「三百年前の魔王を倒した人とやらも召喚されたわけ?」

「ああ。そうだけど……それが何?」

「そいつも召喚者と七年もしていたわけ? それ、同性同士だったらどうするの」

「あー……。ま、まぁ、聖女召喚だし……お、男だったんだろうね……?」


 なぜか、しどろもどろになっている。


「なんか曖昧じゃない?」

「えーと、んー……と。ああ、ほらアレだよ、アレ。一度のそれでなんとかしたり……?」

「どーゆーこと」

「✕✕✕とか、強い濃厚接触的な……」

「死ね」

「痛い! 痛いよ、頭かち割れるよ!」

「かち割れろ」


 なんっか怪しいなー。

 視線がさ迷っているというか……。


「いきなり召喚者としろって聖女に言うわけ? もしかして相手は召喚者じゃなくてもいいとか? 最初に好みの男を選ばせるの? それもおかしくない?」

「え。あー……えっとね、んー……。い、いや、とりあえず俺としなきゃいけないことにしておこう。ね? そうしようよ。うん、それで問題ないよ」


 上手く嘘をつけない可哀想な子に見えてきた……。

 まぁでも……確かに最初にキスをして言葉が聞き取れるようにはなったからなぁ。


 万が一夢ではなかったとしたら、衣食住を提供してくれる人は必要だ。私はまだ十四歳……しかも体だけなら十三歳か……。学園に行くと言っていたし、それが将来のために必要なら学費も必要だ。


 仕方ない。

 今は諦めておいて世界の知識を身につけて……コイツが言おうとしない事実を突き止めるか。


「あんたさえ本当のことを言ってくれれば……」

「ほ、本当のことだよ……たぶん」


 噓がバレた弟もこんな顔をしていたような……。


 キスかぁ……私がしたことのない女の子ならもっと嫌だったかもしれないけど、四歳の弟の光樹に今まで結構されてきてんだよね……。

 八割くらいの確率でよけたけど、三歳頃から隙をついて「ねぇね、ちゅー」って……。

 可愛いけど。可愛いんだけど、ね……。


 最初のアレ……舌は絡んでこなかった。

 アレくらいなら……光樹にちゅーされたものだと割り切れなくはないか……かろうじて顔だけはいいし……生理的に受け付けなくはない。

 事実を突き止めるまでは、衣食住とお金のためなら安いものだと思って我慢をしておこうか。


 正確な事実判明のために必要なのは、ここと魔法についての知識かな……。面倒くさいなぁー。夢だといいなぁー。

 今までの受験勉強が無意味になるのだとしたら……軽く絶望するよね。


「あーあ……それはもうそれでいいことにする。次に魔法について教えて。どうしたら使えるの」

「え! それでいいの!? 俺とキスするってことでオッケーなの!? やった! 俺のこと好きになって――」

「なってない! なる要素なかったでしょ。しばらくは必要な作業だと割り切ったの。単なる作業ね」


 抱きついてこようとするコイツを腕で阻止しながら慌てて言う。


「そんなぁぁぁ」


 だんだんと小学生の大樹と同じような存在に見えてきた……。顔がいいって得だよね。涙目でうるうるされると多少は可愛く見えてくる。

 ……好きにはならないけど。


「もういいから早く。あんたの頭をかち割れるような魔法の使い方を教えて」

「わ、割らないでよ!?」


 ――これが長い長いつき合いになる彼、レイモンドと私の、最初の出会いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る