第一話 金の生みどころ6ー本音の裏側
存は疾風と二人で、バー魔窟という繁華街にある店に入る。
バー魔窟はニューハーフバーに近しいもので、中ではダンスショーを行う直前だった。バー魔窟は軽快で辛辣な喋りが売りのママが取り仕切る、ダンスショーが売りの店だ。
ダンスショーになる前に店に入れば、店は暗い中でも何処かネオンを使いブラックライトなどで部屋で、視線に困ることもなく。雰囲気がありながら、会話や酒を楽しめる店が充分に判る。
店内のぎらぎらとした灯りは何処か痛々しさもなく、不思議と眼に馴染む派手さ。
ちょうどダンスショーの直前になり、慌てて席へ案内されダンスでは丁度五人がメインになり、ブラジルのサンバのような尾羽を沢山つけどぎついインパクトの露出が多い衣装。ダンスをそれでも格好良くこなす様は誰もが魅了される。そのうちの一人のダンサーに花のあざが大きく目立つ人がいた。
花のあざを持つダンサーは黒髪を揺らし、偽のおっぱいを揺らして大笑いし大きく動きを見せつける。
ダンスが終われば、思わず疾風と存は拍手しきる。
熱心に拍手をするのが二人だけでなく、店は一体の熱気となっていた。
その後ダンサーがテーブルを廻ってくる。
ダンサーである花のあざを持つキャストは、ミミックという源氏名であった。
「貴方たちでしょう、アタシのこと嗅ぎ回っているの」
「いや~~、これには女の涙より深い訳があるんだ」
疾風が茶化すように宥めれば、ミミックは目を細めた。
「いいわあ? お兄さん方イイ男だから、話聞いてあげる。アタシと半分同じ匂いもするし」
「半分……そうか、サキュバスってこと判っているんだ」
「そうよお、気付いたのはいつ頃だったかしら。多分中学にあがる前くらいだったはず。すごい素敵な男の先生がいて、放課後ちょっと盛り上がっちゃったのよ。色んな意味で、うふふ」
「犯罪的い」
「んまっ、それが蜜なんじゃないの。それでそのとき尻尾が一瞬でたのよね」
存は神妙になるミミックへ、うんうんと頷いてから本題を切り出した。
「親が君を探している」
「いやよお、今更親なんて要らない。否定されてもいやだもの」
否定されやすい今の形(みみっく)であることは想像はついた疾風は、人間の世界に疎くても察する。
沢山の苦労を経た末の答ならば存だって納得するだろうと疾風は感じて、帰ろうと提案するつもりだった。しかし存は即納得はしなかった。仕事上というわけでもなさそうで、様子を見守って考え込む様子を疾風は見つめた。
「すぐには返事は求めないつもりだ。またくるから考えて置いてくれ」
「ちょっとお、要らないって」
「人は矛盾して生きる。言葉の正反対が本当の意味だったりするもんだ。おれは、なんとなく。おまえは母親と会いたいんじゃないかと感じる」
存の言葉に疾風とミミックはぽかんとしていると、存は疾風をつつき一緒に呑んでから帰宅することとなった。
帰り道のタクシー内で、疾風は存に問い詰めた。タクシーは外のネオン街をきらきらと素早く流していく。暗闇の中で、ぼんやりとした存の顔をまじまじと疾風はタクシー内だというのに器用に胡座を組んで見つめた。存は疾風の足が邪魔で胡乱げに見やってきた。
「言葉の正反対だなんてそんなことあるのか」
「素直な人などいないっていうのが、オレの持論だ。人は対人で話していると真逆のことを話す、本音をそのまま顕わにするなんてあり得ない」
「じゃあ存もか。存も、ほんとは……」
生きたかったんじゃないか、と告げようとした口元を、存は人差し指で制して。じっと上目で睨み付ける。
「ただ、よっぽどじゃないと。相手には言っちゃいけないぞ」
存の瞳は絶望している。絶望しているけれど、もしかして。と、少しだけ疾風は期待し始めた。
(お前が生きてくれるなら、何だって構わない……幸せな姿が、見たいんだ。せめて悪魔に渡るまでの間)
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