第8話

蜘蛛を屠り終わると、間髪入れずに更に奥から何やら魔物の気配がする。

「残念だったな、お前らのエサは既に全滅だ。ついでに、こいつらも殲滅だ。やれるな?」

「準備運動にゃ、丁度よかったって所だな」

「まだまだ、行けるぜ」

「任せろ、ボイズ」

「舐めるなよ」

ボイズの問いかけに、口々に啖呵を切る冒険者たち。

エリカは、『頼もしい』とキラキラした目で彼らを見ていた。

「エリカ、さっきの調子で強化頼むぞ」

「うん!任せて!」

後から出てきた大量の大型蛇、双頭の蛇、半人半蛇の魔物を相手に、2回戦目の火蓋が切って落とされた。

剣戟と魔法の入り乱れる中、連戦の疲れが見え始める頃になって、最後の半人半蛇が人の上半身と蛇の尻尾に切り分け割れて魔素に還っていった。

「さすがの大量だな。魔核拾い放題。やったぜ」

「お前、元気だな…」

濃い魔素が場を支配する中、誰かの乾いた笑いだけが宙に浮いていた。

「しゃーねぇ、ちょっと休憩だ。警戒は、解くなよ。けがしてるやつ、治しとけよ」

「おっとぉ、ケガは?」

「エリカ、とりあえず、お疲れさん。けがは、ねぇよ。お前は?どっか痛い所とか、ないか?疲れてないか?怖くなかったか?」

「全部、大丈夫。おっとぉは、すぐに子ども扱いする」

「しゃーねぇさ。大事な娘だからな」

大きな手でエリカの頭を撫でるボイズは、エリカの無事な姿にほっとしている様であった。

周りから、生暖かい目で見られていても気にならないらしい。

「エリカは、随分成長していますね。安心して、見ていられますよ」

「そうだな。ハインケルが言うなら、自慢していいぞ?エリカ」

「ありがとう、ハインケルさん。的確な指示のお陰だと思う。私ひとりじゃ、きっと舞い上がってたから」

「言われたことを正確に素早くこなせるということは、戦闘時においては、とても素晴らしいことですよ。これからに、期待してます。この先も、お願いしますね」

「はい!」

「おっとぉ以外に褒められて、随分嬉しそうじゃないか?おっとぉじゃ、物足りないのか?泣くぞ?」

「おっとぉは、いつも褒めてくれるけど、身内なんだもん。ちゃんとした評価とか、甘くならない人に褒められたら、自信がつくの!でも、嬉しくない訳じゃないんだから、ちゃんと褒めて」

「わがままなお姫さまだなぁ」

照れたように下を向くエリカを撫でながら幸せな顔をしているボイズを見ている面々は、皆一様に鳥肌が立っていたとかいないとか。

「そうだ、皆。薬は足りてる?一応、家にあったやつを根こそぎ持ってきたの。必要なら言ってね。ある程度は、数があるから。おっとぉ、袋借りてるよ?いいでしょ?」

「あぁ、構わない。持ってきてくれてありがとな。遠慮せずに言いに来いよ?ちゃんと覚えといて、あとで協会にまとめて請求するから気にすんな」

緊急事態の場合、協会を通さなくても回復薬系と武器防具系については双方の申告に不備がなければ協会が通常価格に1割上乗せで料金を払ってくれる制度がある。

今回は、それを見越して根こそぎ不良在庫気味になっている回復薬を持ってきたエリカのお手柄である。

「すまん。持ってき忘れた毒消しがあれば、いくつか欲しい」

「俺も、麻痺消しだけ用意できなかったんだ。念のために、そこにあれば欲しい」

何人かにいくつかの回復系の薬を渡し、休憩は終わった。

更にここから奥に入った広場が、ボイズの記憶通りにあれば中継地点にすると決まって一行は歩き出す。



「あったな。蜂まみれだが…」

「殲滅しましょう」

「だな。よし、蜂退治だ。風は、羽を狙え。毒針は、避けろよ」

「「「おぅ」」」

成人男性ほどもある巨大なジャイアントマッドホーネストの渦巻く大群は、更に大きな女王を後ろに隠して守っているように威嚇してくる。

司令塔である女王が倒せれば早いが、進路を阻む大群の相手が先なる。

エリカを含めた風魔法持ちが、各々行動を開始する。

竜巻や風の刃など一斉に打ち放たれた魔法が蜂の羽を切り刻み、ボトボトと地に落としていた。

しかし、団子の様に集まった蜂に守られた女王には届かなかった。

「ちっ」

舌打ちをしながらも、数を減らした蜂を搔い潜り剣士たちが疾走する。

それを援護するように、弓矢と魔法が放たれ、支援魔法が後押しする。

自慢の戦斧を振り回すボイズの前には、他よりも蜂の数が多い。

さすが魔物というべきか、誰が一番強いかを知っているようだった。

ぶんぶんと振るわれる斧、飛び回り隙をついて針を出す蜂。

エリカも前線の強化の合間に、何匹かの羽を風魔法でむしり取っていた。

蜂たちが数を減らし、女王の守りは手薄になった。

好機を見逃すはずも無く、巨体を宙に舞わせたボイズの一閃が女王の片羽を落とした。

飛ぶことが出来なくなって、地に落ちる女王。

混乱したかのように、散る数匹の蜂。

単独で統率の取れた冒険者に敵うはずも無く、蜂の大群は呆気なく全滅となった。

「終わったな。風魔法のお陰で楽できたぜ。お疲れさん」

「おっとぉ、あそこの上に何ある…」

「おぉ、よく見つけたな。ありゃ、巣だ。最高級の蜜と蝋が取れるぜ」

「蜜…食べたい…でも、幼虫居るよね…」

「居るだろうな。エリカとおんなじ位デカいのが」

「気持ち悪い…」

「では、風と熱の魔法で蒸し焼きにしてしまいましょうか?それから、風で切り落としましょう」

「はい。ハインケルさん、熱の魔法って私にも教えて貰えませんか?」

「いいですよ?練習がてら、一緒にやりましょうか?」

「はい!」

そして、無事に切り落とされた巣から取れた上質な蜂蜜で冒険者一行は幸せに気力回復をして、拠点として広場が整備された。

残った蜂蜜と巣は協会に買取して貰った後に、全員での公平分配となる。

唯一エリカだけは、小さな瓶に一杯分だけ厚意で貰うことが出来た。

じっと蜂蜜を見つめる幼気で可愛らしい新人冒険者の瞳には、誰も勝てないという証明である。

「じゃ、もう少し行きたいところだが…こっから先はイマイチわかんねぇから、一旦ここを前線基地とする。とりあえず、偵察部隊と見張り役と休憩するやつに分けるぞ。明日は、偵察の様子を見てまた隊を分けることになるだろう。交代にはなるが、休めるだけ休んどけよ」

「おっとぉ、私、皆の食事の用意するよ。魔力まだ余裕あるし、蜂蜜分は皆にお礼したい」

「そうか?ん~、じゃ、頼むわ」

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