第三章
第35話 新たな式神
ミコは、一連の事件の後、親父に頼み、神道の修行を初めていた。
普段は、雑で適当なミコだが、頭が良く、感覚には優れていて、今まではそれで何とか乗り切ってきたわけだが…。
やはり、知っていると知らないとでは、技も術も応用の利き方が全然違う。
本来ならば、親父に頼ることはしたくは無い。
しかし、教科書を読むよりも、知っている人に教えを乞う事が、一番の学習の近道なのである。
「いってきます! 」
朝の修行を終え、迎えに来てくれたカズマとセイラと共に学校へと向かう。
「ミコさん、修行の調子はいかがですか? 」
ロリカワ少女の、セイラが話しかけてくる。
「うん、まあまあかなぁ? 頭では色々と理解が出来てきたよ。ただ、咄嗟の時にすぐに使えるように、体にも叩き込んでおくようにしないとね」
「手合わせなら付き合ってやるぞ? 」
「ありがと、カズマ。たぶん、そのうち頼むと思うけど。近々、山籠りの修行に行かなきゃいけないんだ。うちの神社の本流にあたる大社が、『楠木山』って所の頂上にあるらしい。そこで、自分と向き合う修行をしないといけないんだって」
やはり、巫女たるもの、精神的な物が一番最初に問題になるらしい。
心が弱ければ、悪霊に巣食われ、気持ちで負ければ術だって弱くなる。
美琴の気持ちに二度ほど触れて、気が付いた事がある。
気高く、崇高で、ブレない心を持っているという事だ。
ミコは今までは、自分の心も体も強く、誰にも負けないと自負していた。
しかし、最近のミコはブレブレで、悩みまくりなのである。
自分と向き合う修行に行ったところで、本当に美琴のようになれるのか、とても不安なのである。
(おばあちゃんになるまで、出来なかったらどうしよう…)
ヨボヨボのミコが、術を使い戦う所を想像してしまい、首を横に振る。
そんなミコを、カズマとセイラは不思議そうに見つめるのであった。
放課後、最近は、カズマとセイラもミコの神社に寄り、自主練をしている。
セイラは、体力には自信がないらしく、カズマに、空手の指導を受けている。
ミコは、『無理をする必要は無い』と、セイラに言ったのだが、どうしてもミコの役に立ちたいと、自らカズマにお願いして指導を受け始めたのだ。
カズマはカズマで、自分の術を磨きつつ、一夜の動向を気にしている様だった。
カズマは、ミコの同い年の幼馴染だが、どうやら一夜とは馬が合わないらしい。
一夜はミコの最初の式神で、超が付くほどの美青年だが、忌々しい生まれからなのか、美しい魂の転生先であるミコに、非常に執着しているのだ。
カズマは、一夜がミコと美琴を重ねて見ている事が、気に入らないと言っていた。
当たり前だけど、幼馴染のカズマは、ミコをミコとして見てくれている。
そんな当たり前な事が、とても嬉しかった。
「ただい…ま…」
神社の鳥居を潜ると、そこには着物を着た、七、八歳くらいの女の子が立ってきた。
黒髪を肩で切り揃えた髪の毛には、花を型どった簪を刺し、無気力な目元と、小さな唇は、儚げな印象を与えていた。
(あれ? 今日って七五三だっけ? )
着物を着た女の子など、神社で行うイベント位でしか見ることは無かったからだ。
「あ…あの…」
「ミコさん、下がって」
セイラは、庇うようにミコの前に出る。
カズマもセイラに釣られる様にミコの前に出る。
よく気配を探ってみると、霊的な感じがする。
いつの間にか、気配を察知した一夜も家から出てきていた。
少女の正面にはミコ達、後ろには一夜が立っている。
先日、子供のような見た目の十二神将に狙われた事があり、見た目が子供であろうと、油断するわけにはいかないのだ。
こちらの警戒心とは裏腹に、少女は事もなげに話を始める。
「突然すみません。私は随分昔からこの辺りを漂っている浮遊霊なのですが…」
「浮遊霊? その浮遊霊が、この神社に何か御用ですか? 」
既に、臨戦態勢で、目を細めて少女を睨みつける一夜。
しかし、ミコはその浮遊霊からは、邪気などは何も感じられなかった。
それだけでは無く、少女からは親近感さえ感じていた。
そのせいか、一夜の過剰な警戒心をとても大袈裟だと思えていたのだ。
「はい。実は最近この神社からとても清らかな霊力を感じるようになりまして。ここに来れば、お清めしてもらえるかと」
「お清め、して欲しいの? 」
この子は分かっているのだろうか。
お清めしてしまえば、少女は居なくなってしまうという事なのだが。
「もうこの世に思い残す事が無いのなら、お清めしてあげるけど、浮遊霊で漂ってるって事は、何か思い残す事があるんじゃ無いの? 」
「はい、多分思い残すことはあったんだと思うんですが…それが何なのか、思い出せずに長い時を過ごしてきました。人間だった時の記憶も無く、誰にも気が付いてもらえず、あまりにも孤独な時間を過ごしてきました。だからもう、十分だと思って…」
この少女が、どれほどの長い時を孤独に耐えてきたのか。
心残りを忘れてしまう程の長い時を一人で過ごして来たという事なのか。
彼女の無気力な目は、その孤独を受け止めきれなくなったからなのだろうか。
「寂しかったのか? 」
ミコの質問に、少女は目を伏せ、うなづく。
(参ったなぁ…)
ミコは、こんな子にとても弱いのだ。
話を聞いてしまった以上、このまま放っておく事も出来ないし、出来れば、この世に未練のない状況で清められて欲しいと思っている。
きっと、一夜も皆んなも反対するんだろうな。
ミコは、止める皆んなの声を聞かず、少女に近づく。
少女の頭にそっと手を乗せると、
「私の式神になる? 」
そう話しかけていた。
少女は不思議そうな顔をして、首を傾げる。
周りでは皆、驚愕した顔をしていた。
まあ、それは当然だろう。
危機感が足りないと、そう言われても仕方が無い。
しかし、ミコに、今のこの子を寂しい気持ちのまま、お清めする事なんて出来なかった。
それに、少女の頭に触れた時に、やはり悪意や、操られている様な感じもしなかった。
「困っている子、そのまま放って置けないでしょ?」
甘えた様な困り顔で、ミコが全員の顔を見ると、皆、呆れたような顔をして溜息を吐くのだった。
この後、一夜に『ロリコン』だの、『ショタコン』だのと、罵られる事は、理解の上だった。
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