第29話 二行式神

 セイラの家を後にし、ミコと一夜は家路についていた。


 ミコは、美琴に力の使い方を教えてもらって以来、考えていた事があった。


 


「二葉を憑依させる!? 」


「ああ、二葉は私が呼び出した式神だ。上手くいけば、一緒に戦い、力の相乗効果が望めると思っているんだけど」


「それはそうかも知れませんが…」




 以前一夜に言われた事だけど、もし失敗した場合、乗っ取られてしまう、もしくは、二葉を消してしまう可能性があると。


 二葉の場合、前者はまずあり得ないと想像できる。


 二葉はミコにとても感謝してくれていて、自身の魂は『ミコに預けた』とまで、言ってくれたのだ。


 そんな二葉が、ミコの体を乗っ取ろうとする事など、考えられない。


 一緒に戦える事を喜んでくれる予感さえしている。


 そして、後者なのだがーー、




「美琴さんは、式神の使い方がとても上手かったらしい。弱い式神の力を取り込んで、その力を上手く使う事が出来た。違う? 」


「それはそうですけど…」


「一夜にも、二葉にコツとか教えてやって欲しいんだ。協力して欲しいんだけど? 」


「…」




 なにが気に入らないのか、一夜は不機嫌な顔になり、そっぽを向いてしまう。


 ミコが乗っ取られはしないかと、心配をしているのだろうか。


 そう考えていると、




「ミコ様の体に、他の者が入るなんて、考えられません。考えただけで気持ちが悪い! 」


「へ!? そんな事? 」


「そんな事とは何ですか? 私は、今ミコ様に触れる事さえ出来ないのに、あまつさえあの弱小式神を取り入れようなど! 」


「美琴さんだって、そうやって能力を得ていたはずだよね? 」


「それとこれとは別です。美琴様は、私と出会う前からそうやって来たので、拒否反応は少ないのです」




(そう言われてもなぁ…)




 ミコも、一夜を憑依させて戦えば、最強だろうとは思ってはいる。


 しかし、ミコの体が一夜を受け付けないのだから仕方がない。


 


「じゃあ、一夜は、みすみす強くなれる可能性を捨てるのか? 」


「そ、それは…」


「私は絶対に勝ちたい。セイラも、カズマも、協力してくれる皆んなを守りたし、強くなりたい。もちろん、一夜の事も」




 ミコは、真剣な顔をして、一夜の目を見る。


 一夜は観念したように目を閉じる。


 そして、『わかりました』と、静かに呟くのだった。












「何度言ったら分かるんですか? ミコ様の力を借りて、自分の能力を上昇させ、そのままミコ様の手に力を流すのです」




 帰ってすぐに二葉に話したら、役に立てる事が嬉しいと、二つ返事で了承してくれたのだ。


 と言うことで、善は急げと、夕食後に神社の裏に集合していた。




 二葉はすんなりとミコの体に入る事が出来たのだが、力の取り入れと、発散は、なかなか難しいらしい。




「ミコ様、やはりこの弱小式神には難しいのでは無いですか? 」




 嬉しそうに、一夜が話しかける。




(もう少し、もう少しだけ僕にチャンスを下さい)




 ミコの頭の中に、直接二葉の声が響く。




「大丈夫だよ、二葉。最初からなんでも出来る人なんか居ないんだ。ゆっくりやろう」




 ミコは再び右掌を上に向ける。


 掌が熱くなり、二葉からの力が流れて来るのを感じる。




「力を止めずに、そのまま受け流すのです」




 一夜の言葉を聞き、二葉は更に力を高めようとする。


 しかし、その途中で急に力が消える。




「またですか…。おかしいですね、今回は結構良いところまで行ったように感じたのですが」


「私もそう思ったんだけど…なんでだろう、急に力が消滅する感じがするんだ」




 ミコは紙人形を取り出し、二葉を外に出してあげる。


 一夜は二葉に問いかける。




「二葉、お前は何をイメージしながら力を流している? 」


「はい、僕の能力は火なので、炎をイメージしながら、ミコ様の手に力を流しています」


「そのイメージで間違いは無いと思うけど…」




 一夜は少し悩んだ後に、二葉に向かい合う。




「二葉、目を瞑って、流れる水をイメージしてみなさい」




 二葉は言われた通りにする。




「そのイメージを持ったまま、手に玉を丸めるようなイメージをしてみなさい」


「んんん〜! 」




 二葉は呻きながら、眉間に皺を寄せる。


 すると、みるみる二葉の手の上に水球が作られていく。




「ウワァァ」




 バシャ!




 呻き声と共に、驚いた二葉は尻餅を付き、そのまま水を被ってしまった。




「一夜、これは…? 」


「なかなか珍しい式神みたいですね」


「どういう事ですか? 僕は水なんか使った事ないのに…」


「火をイメージしたのに、『流す』という私の言葉に、水をイメージしてしまい、打ち消していたんですね」




 一夜は、まじまじと二葉の顔を見ながら、『こんな弱小が』と、呟いている。


 二葉は、コソコソと逃げるようにミコの後ろに身を隠す。


 舌打ちをしながら二葉を睨み付ける一夜。


 


(仲良くしようよ…)




 ミコはため息を一つ付いて、一夜に問いかける。 




「で、何が珍しいんだ? 」


「式神というのは、そもそも単純な命令に従うしか出来ないものです。それよりも少し意思の強いものは、自我が目覚め、もっと強いものになると、能力を得る事が出来ます。しかし、それでも普通は、火の能力と水の能力、二行も持ち合わせることはありません。ミコ様の力を得ることで、新しい能力に目覚めたのか、最初から能力を持っていたのに、火のイメージが強すぎたのか…。とにかく、美琴様の式神にも居なかった、珍しい式神って事になりますね」


「僕が…」




 二葉は嬉しそうな顔をしながらミコの顔を見上げる。




「ミコ様、僕、役に立てる式神になれるかもしれません! 」


「うん、ありがとう、二葉」




 ミコは二葉に、微笑みかけながら頭を撫でる。




「珍しいってだけです。強い力が操り、戦えなければ意味がありませんし、自分で力を打ち消してしまっては、役に立たないでしょう」




 一夜の言葉に、泣きそうな顔をしながら固まる二葉。




「一夜、子供にまで毒づく事ないだろ? 」


「いいえ、ミコ様。そいつは子供ではありません。式神なのです。主人の役に立つ事こそ式神の役目」




 一夜は視線を二葉に向ける。




「強く、おなりなさい」




 一夜の言葉に、真剣な顔をして、うなづく二葉。




「はい、必ず! 」




 何かを決心したようなその言葉には、強い意志が宿っていた。

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