第27話 作戦会議

「ミコ様! 」




 最初に聞こえたのは、一夜の声だった。


 ミコは声の方を振り向き、後ろ手に組む。




「ただいま! 」




 ズキズキと痛む手を隠しながら、元気よく挨拶をする。


 三人は、ミコの元気そうな姿に一安心したらしく、ほっと肩を撫で下ろす。


 


 しかし、人形がまだ数体残っていたらしく、ミコの頭上に飛び上がり、襲い来る。




「ミコ様、伏せて!! 」




 一夜の声を聞き、ミコは頭を下げる。


 その瞬間ーー、




 ザクザクザクザクっ!




 見上げると、異形とかした一夜の腕が、人形達を串刺しにしていた。




(蠍の尾!? )




 串刺しにされた人形達は、綿が飛び散り、ひび割れ、力無く干された洗濯物のようにぶら下がっている。


 ミコは、昔から人形遊びには興味など無かったのだが、小さい女の子が見たら、泣いてしまいそうである。


 しかし、腕を蠍の尾に変えるとは、便利そうな能力だ。


 素手で殴り倒すしか無い自分にとっては、とても羨ましい。




「なんとか、終わったようですね」




 一夜の一言に、ミコも立ち上がり、頷く。


 セイラは、ミコに近づいてーー、




「いっ! 」


「見せて下さい」




 セイラに乱暴に捕まれた手は、メリケンサックの痕と、火傷でひどい有様だった。


 いくら格闘技が強かろうが巫女の力があろうが、身体はだたの人間。


 殴った手の方が痛いというやつだ。


 メリケンサックは拳に食い込むし、火もグローブにしたとは言え、コンロの上に手を翳していたような状態なのである。


 平気なほうがおかしい。


 ミコ自身もこんな副作用があるとは、考えもしなかったのだ。




ミコの手を見た全員が顔をしかめる。




(気持ち悪いもの見せちゃったな)




 そう考えながら、ミコはサッと手を後ろに隠す。




「大丈夫、気を手に回せば、怪我の治りも早いから! 」


「ダメです。治療させて下さい。痕が残ったらどうするんですか? 」


「大丈夫だって、大した事ないから…」


「いいえ! 私がもっと、ちゃんとミコさんの事を見ていれば、こんな事には…」


「でも、保健室でこんな怪我診てもらえないよ? 」


「私の家、すぐ近くなので行きましょう」




 何度か断ったのだが、セイラの意志は固いらしい。


 ミコを呆気なく、結界内に囚われてしまった、自責の念もあるのだろうか。


 半ば強引にセイラの家に行く事が決まってしまった。


 しかしーー、




「何で、カズマまでついて来るんだ? 」




 一夜は帰り道がどうせ一緒になるし、先程、襲われた事もあって、先に帰れと言っても帰らないだろう。


 だけど、カズマはもう帰っても問題無いと思うのだが。




「うるせぇ。怪我してる奴の心配したら悪いのかよ」


「この手は問題無いよ。自分のミスだし」


「…」




 どうやら帰る気はないらしく、無言でついて来る。




「好きな子を大変な目に遭わせてしまった、ただの負い目ですよ。無視して行きましょう」


「なっ!! 誰が、そんな奴! 」




 セイラの言葉に、顔を赤くしながら反論するカズマ。




「そうだよ、セイラ。カズマはただ、幼馴染として心配してくれてるだけだから」


「そうですよね。幼馴染ですよね」




 ミコの言葉に、を強調する一夜。


 


(文章切る場所間違ってるけど…)




 カズマは少し不貞腐れた顔をしていたが、心配をしてくれる事に関しては、素直に感謝をするミコだった。


 








『おおおお〜』




 ミコとカズマは、声を揃えて驚いた。


 セイラの家はとても大きく、神社を営んでいる自身の家と比べてもとても広かった。


 美しいローズガーデンに大きな噴水、カリフォルニアの街並みを思わせる建物は、庭の景色とよく調和していた。


 


「古い家で申し訳ないのですが…」




 そう言うと、セイラは扉を開けて、ミコ達を招き入れる。


 確かに、家自体は古いのだが、よく手入れがされていて、その古さが逆に味を感じさせている。




(お嬢様だったんだなぁ…)




「セイラ〜! おかえり〜! 」


「…ただいま帰りました」




 三十代後半の、小綺麗な格好をした男性が話しかけて来た。


 そっけなく返すセイラは、その男性と目を合わせる事もなく、ミコ達を客間に案内しようとする。




「もしかして、ミコちゃんかい? 」


「あ、はい…お邪魔します」




 初対面だと思うのだが、男性はミコの事を知っているようだった。




「やっぱり! そうだったか。うんうん、セイラの話通り、可愛くて、芯の強そうなお嬢さんだ」


「お父様! やめて下さい! 」


「いやいや、父さんはミコちゃんに、いつかお礼を言おうと思っていたんだ」


「もう、いいですから! 」




 セイラは、ミコの腕を引っ張り、客間に連れて行く。




「えっと、お父さんいいの? 」


「良いんです。それよりも治療を始めましょう」




 セイラは、初老の女性にお茶の準備をするようにお願いし、救急箱を持って戻ってきた。


 セイラの治療で、手の痛みは和らぎ、包帯もきれいに巻いてくれた。




「すごい、看護師みたいだね! 」


「え、ええ…ありがとうございます」


「こちらこそ、ありがとう! 」




 セイラは顔を赤くしながら、目を逸らし、嬉しそうに微笑む。


 ミコは、準備してもらったお茶を頂きながら、改めて客間を見渡す。


 客間も、大きな皮のソファーとテーブル、シャンデリアと、壁際には暖炉があり、どれも価値の高そうなものだったが、決して華美ではなく、品の良い部屋だった。


 先程からカズマは、借りて来た猫のように大人しくなっている。


 緊張しているのか、お茶を飲む手もぎこちない。


 


(金持ちっているんだなぁ)




 そう思っていると、セイラが話しかけて来た。




「今日の敵なんですけど…人形を使って襲わせたって事でいいんでしょうか? 」


「うん、あいつらは拒絶の結界の中に入ってきたし、邪気は何も感じなかった。人形を操っていたって考えるのが自然だと思う」


「昨夜、神社に現れた者も、その一種でしょう。何者かが操り、最後には自爆させたようですね」


「昨日も何かあったのですね?」 


 


 一夜の言葉に、セイラは驚いたように問う。


 


「敵はすでに、この結界に侵入出来る方法を知っているって事なんだろうか?」


「間違い無いでしょう。美琴様の時も、そうだったので」




 ミコの疑問に答えるセイラ。




「じゃあ、拒絶の結界って、そこの式神避けって事か? 」




 カズマは、特に何も考えず言ったのだろうが、その言葉にミコは口を噤むしかない。


 いつもなら、嫌味で応戦する一夜だが、その事実が本当にショックだったらしく、あからさまにガックリと肩を落としている。


 この結界は、ミコの意志とは関係なく張られていて、とても便利なはずなのだが、すでに弱点を知られている以上、今の所はタダの一夜避けになっている。


 しかし、もし邪気のある、敵本体が襲って来た場合は別だ。


 その時はきっと役に立ってくれるはずなのだが。




「ミコ様に、人形が効かないと分かれば、本体が襲ってくる可能性は高いです! 」




 一夜は、結界が自分避けの物だと思いたくないのか、力強くそう言いきる。


 


「そしたら、こっちも迎え撃つ準備が必要と思うけど…。一夜、もしかして、何か大事な事を言い忘れてない? 」




 一夜の目を真剣に見る。


 いつも通りに見える一夜だが、何故か、ミコには隠し事をしているように見えた。


 すると、一夜は少し微笑み、観念したように、




「ミコ様には敵いませんね」




 そう言いなが、敵の情報について話し始めるのだった。

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