第6話
瑠花は公園のベンチに詩織を座らせ、その髪を両手で優しくかき分けている。
「頭を撫でてもらうのって気持ちいい?」
詩織は恋い焦がれる相手にそんな風に聞かれたものだから、消え入りそうな声で「……はい」と頷くことしか出来なかった。
──詩織が戸惑いを隠せるわけもなかった。
こんな距離感で接触されては誰だって勘違いするだろう。
いや、と詩織は拳を握りしめる。
「……俺ってフラれたんだよな……」
詩織がほとんど無意識に呟く。
そう、詩織はハッキリと瑠花にフラれているのだ。
──その時、ふと詩織の髪をかき上げていた瑠花の手が止まった。
「──付き合う?」
「……え?」
「付き合おう」
◇
……付き合ってしまった……。
詩織は内側から叩かれ続ける心音に呼吸もままならず、耳まで真っ赤に染まった肌を元に戻す術も知らなかった。
それにしたって──、あの時の告白をあっさりと断りながらも今度は瑠花からの『付き合おう』の言葉。
一体、彼女にどんな心境の変化があったのだろうか。詩織の困惑をよそに穏やかな微笑みを浮かべながら詩織に尋ねる。
「さっき走ってきたって言っていたけど……お
「
聞いたは良いものの、やはりこの辺りの出身ではないのだろう、瑠花から返ってきたのは気のない返事だった。
「ふーん……」
「ははっ、
「……うん……」
「
「1時間!? 毎日、走って登校してるの!?」
目をまん丸く見開きながら聞き返した瑠花。今まで彼女のことを、どことなく浮世離れした遠い存在のように感じていた詩織は、ようやく「……うん……」と頷きながら、思いがけず垣間見えた彼女の少し無邪気さを見つけた気がして心を沸き立たせた。
──その時だった。
「ヒィッ……」
詩織と瑠花の耳に、甲高い声色の悲鳴が聞こえた。
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