第5話

 詩織は勢いのまま一緒に登校している、にわかに信じらない状況に浮き足立つような甘ったるい感情と、反転してえもいわれぬ不安感を感じていた。

 五秒、十秒……と会話がないまま歩を進める時間。

 ──詩織は瑠花にあっさりとフラれたあの日のことを思い返す。

 一秒すら間を置かずに首を横に振った瑠花に、クラスメート達のその後の同情たるや凄まじいものがあった。

 

「この髪型のまま学校に行くの?」

「本気で走ったら意外と早く着いたから、公園のトイレに寄ってスプレーで固めてこようかな」

 ──その時だった。

 詩織はふわりと後頭部に感触を感じた。

「ひっ…」

 思わず、声が上擦った。後ろを振り向くと詩織の視界いっぱいに瑠花の姿が飛び込んできた。

 ──瑠花は、興味深そうに詩織の髪を触っている。

「……やっぱり、前之園さんもこの髪型の俺のほうがいい?」

「え?」

 詩織の質問に、瑠花は不思議そうに目を開き、聞き返す。

「なんていうか……俺、強くありたいし、周りからも強い人間だと思われたい」

「うん」

「でも、誰も俺が強いことなんて望んでないっていうか……可愛いしか言われたことなくて」

「うん」

「俺は屈強で頼りがいのある強い男に憧れてるけど、俺が憧れてる自分って周りからは必要とされてないんだなって」

 ……なんで好きな子に悩み相談を……。

 詩織は今更ながらに気づき、瞬時に耳が熱くなるのを感じた。

「周り……」

 瑠花は一言、ポツリと呟いた後、不意に詩織の顔を覗き込む。

 そして、なんとも突拍子のない一言を投げ掛けた。

 

「後田くんの髪型のセット、これから私にやらせてくれない?」

「なぜ!?」

 

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