第2話
「あ、先生が体育館前に集合って言ってるよ。そろそろ行かなきゃ」
「ああ」
三人が来た道を戻ろうと
突然、強風が吹いた。それと同時に。
詩織が焦がれて止まなかった
──こんな所に人がいたのか。詩織は何の気なしにそのスカートを目で追った。
桜の幹に隠れていたスカートの主が一歩分踏み出し、その姿を表す。
詩織は次第に現されるその姿に思わず息を飲んだ。
そのまま目の前の少女から目を離す事ことができなかった。そして、それは隼人と莉子も同様であった。
……あまりにも美しすぎるのだ。
透明感のある白い肌。少しだけ切れ長で、しかしぱっちりとした猫のような、可愛さと美しさが共存した瞳。ふっくらとしたピンクの唇。
艶やかな肩に掛かるほどの長さの黒髪は風とともに
しなやかな伸びを一つしてみせるその様は人間に擬態している、高貴なペルシャ猫のようだ。
少女は体育館に向かってスタスタと歩き始めた。教員が呼ぶ声が聞こえていたのだろう。
そして、詩織達の存在に気づいてはいるのだろうが、視線を向けることはなく、三人の前を通り過ぎようとする。
「あ……」
なにか話しかけたい。詩織は
──そもそも、女性に自分から話しかけたことなど、ないのだ。……話しかけるべき事柄が全く思い浮かばない。
なす術もなく、目の前から彼女の姿が遠ざかろうとするのを見ていた、その時だった。
「一年生だよね? 一緒に行こ?」
声を掛けたのは莉子だ。
名前すら知らないはずの相手の腕に自分の両腕をスルリと回す。
「私、
その様子を詩織はあっけにとられ、見ているしかなかった。
「
少女は答える。
鈴を転がすような、甘みをおびた高く澄んだ声色を、詩織は少し意外だと思った。
とてつもない美少女だが、どちらかというと大人しく人付き合いが苦手なタイプに見えたのだ。
だが、不躾で大胆極まりない莉子の手を、一ミリも眉をしかめることもなく、柔和な笑顔をたたえている。
笑うと少し幼い印象になるそのギャップに、詩織は心臓を撃ち抜かれた。
「瑠花ちゃんかぁ。素敵な名前だね!」
莉子は瑠花にくっつかんばかりの体勢だ。
これは莉子の癖だった。『可愛い女の子が好き』だと公言している莉子は、女性に対してとにかく優しい。
中学時代は女性に対し、極端に距離感が近い莉子のことをヒソヒソと噂する者も多かった。
そんな異端児扱いを、莉子は持ち合わせた愛嬌と芯の通った強さではね除け、気がつくと彼女の周りには常に人が集まるようになっていた。
なんだか更にパワーアップしている気がする……。
詩織は呆れるような感心するような心境で、目の前の光景を見ていた。
──詩織と莉子と隼人。三人は幼稚園に入る前からの付き合いだ。互いの趣味・思考もよく理解している。
詩織は莉子と隼人、順番に視線を向ける。莉子と隼人も視線を交わし、応じた。
そして、三人は一つの結論にたどり着いた。
──全員、同じタイミングで恋をしたのだ、と。
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