乾いた世界に息づく生身。存在の臭いと陰影。人の業の意味。

毒を含んだ霧の立つ世界、シェルターの中で暮らす人々の物語です。
主人公は、過去の遺産である写真をもとに、依頼者の望み通りの絵を描くことを生業とする青年。彼が一人の子供に出会うところから物語が動き始めます。

本作、背景世界の描写精度がとにかく凄いの一言です。
立ちこめる臭いや生理現象、空気感や光のシルエット。万物の描写が、乾いた世界の中の暮らしに実感を与えてくれています。
5000字と少々のシンプルな短編ではありますが、中に息づく濃密な感情のうねりを感じます。それを生み出しているのはまちがいなく、「生の臭い」ともいうべき鮮烈な手触りではないかと思います。

※※ 以下は純粋にレビュー者の妄想です ※※
「AIが生成した2枚の画像をモチーフに短編を書く」企画の応募作であることを考え合わせると、「写真をもとに絵を描く」主人公の生業は、AIによる画像生成のメタファーかもしれません。
主人公の業とAIの業が、作業としては同質のものであると考えた場合……「人間が『それ』を行うことの意味」が、あらためて立ち上ってくるのかもしれません。

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