第8話 幼なじみの転生は気付けない(8) SIDE マリー

SIDE マリー


 どうやら私は公爵令嬢というやつらしい。

 自室だけで、転生前に住んでいたアパートの数倍はあるし、調度品もやたらと豪華だ。

 着ているものも、西洋ファンタジーとは思えないほど、肌触りのよい布である。

 この感じ、下着は全部シルクだよね。


 公爵というのがどれほどなのかはわからないけど……たしか5つある爵位の中で、一番偉かったはず。

 ちょっとバカっぽい認識だけど、とにかくすごいということだ。


 もしかして、ちょっと贅沢できちゃったりする?

 パーティーでイケメン達に言い寄られたりとか?


 ……想像してみたが、あんまり楽しくないなあ。

 ケンがいないんだもんね……。

 どうせ転生するなら、ケンのことを忘れさせてくれれば良かったのに……。


 私は思わずため息をついてしまう。


「申し訳ありません! 何か粗相がありましたでしょうか!?」


 すると、私を部屋まで案内してくれた侍女が、その場にひれ伏した。

 肩がぷるぷる震えている。


 え? なに? ため息ついただけだよ?

 しかもちょっとだけだよ?

 イヤミっぽくこれみよがしになんてしてないよ?


「なんでもないから気にしないで」

「いえ! 私のような下賤の者には想像もつかない無作法があったちに違いありません! でもどうか命だけは! 命だけは!」


 いやいやいや、どんだけ怯えるん? 


「ほんとになんでもないから、気にしないで。立ってちょうだい」

「は……はい……」


 恐る恐る立ち上がる侍女の顔は恐怖で引きつっている。

 全然信じてないわこれ。


「もういいから、下がって」


 下がらせるのってあってるよね?

 ずっと部屋にいる係の人じゃないよね?

 作法がわからないのはこっちだっての。


「し、失礼いたします」

「ちょっとまって」

「はい?」

「ご苦労さま」

「ひっ……あぁぁ……御世話になりました……」


 悲鳴まであげなくても!?

 ちょっとねぎらって、ポイントを稼いでみようと思っただけなのに逆効果だった!


「首って意味じゃないから! 引き続き働いてちょうだい」

「は? はいぃ……」


 侍女は恐怖と疑問と愛想笑いが入り混じった複雑な表情をしたまま、後ろ歩きで部屋を出ていった。

 私はクマか何かかな?


 マリーって人、どんだけやらかしてたの!?

 これってもしかしなくても、やっぱり悪役令嬢ってやつだよねえ!?

 転生していきなり暗殺とかされないよね!? ね!?


 私は一人、広い自室で頭を抱えるのだった。


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