第7話 幼なじみの転生は気付けない(7) SIDE ケイン

◇ ◆ ◇


 魔道士の少女を森に放置するわけにもいかず、とりあえず家に寝かせたオレは冒険者ギルドに来ていた。


「ええっ!? これって……フェンリルを倒したんですか!?」


 ギルドの受付嬢は思わず上げてしまった大声に、慌てて自分の口を塞いだ。


 受付嬢が何度も手元の水晶とオレの顔を見比べる。

 この水晶、魔獣を倒した際に討伐者に付着した魔素を測定するものらしい。

 ギルドからの報酬は、その測定を一つの証拠として支払われるのだ。


「フェンリルっていうのか、あのオオカミ」


 森の入口で少し試すだけのつもりだったので、下調べはあまりしてなかった

 北欧神話に出てくる名前だが、翻訳されているのだろうか。

 それとも、元の世界と何か繋がりがあるのだろうか。


「フェンリルを倒しただって? この小僧が?」「あれだろ、新しい勇者だ」「勇者ったって、召喚されたのついこないだって話だろ」


 周囲がにわかにざわつき始める。


 オレもけっこうレベルアップしたということなのだろうか。


「勇者にしても、能力の伸びかたが異常ですよ。ギルドにある記録の100倍は出てるんじゃないですか!?」


 それは嬉しい情報だ。自分の身を守るためにも、強くなるのは早い方がいい。


 少しあたたかくなった懐にほくほくしながら街を歩いていると、目の前で幼女がすっころんだ。

 転生前の荒んだオレなら無視していただろう。なにより、幼女に手なんかかしたら、通報されかねない世の中だったからな。


「大丈夫か?」


 オレが幼女を起こしてやると、幼女は一本前歯の抜けたちょっと面白い笑顔で、「ありがとう!」と元気にお礼を言った。

 うーむ、親切をすると気持ちいいね。


「すみません。こら、離れちゃダメって言ったでしょ!」


 幼女は、急いで駆け寄ってきた母親に叱られるも、まったくしょげることはない。


「このお兄ちゃんが助けてくれたから大丈夫! ありがとう優しいお兄ちゃん! マリー様とは大ちがい!」


 幼女がそう言うと、母親の顔が真っ青になった。


「マリー様じゃなくて、近所のマリアちゃんよね? 言い間違いよね? ね?」

「えー? ちが――」

「はい、言い間違いでしたー! みなさーん、ただの言い間違いですよー!」


 母親はなりふりかまわず、周囲に向かって叫んだ。


 『マリー様』とは、オレが召喚された部屋にいた美少女の名だ。

 街で聞いた話によると領主の一人娘、つまり伯爵令嬢らしい。

 年はオレのこの体と同じくらいの10代後半。


「あー忙しい忙しい! さあ帰るわよ!」


 母親は幼女をひっぱって、賑わう露天の向こう側へと消えて行った。


 マリー様ってそんなにヤバいのか?

 もしかして世にいう悪役令嬢ってやつ?


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