Chapter20 遡ること…

「確保」 

 充が言った。その隣には孝之が立っている。

「……はっ?」

 当然ながら、この状況を俊樹は理解出来ていない。乗車報告もしていないのに、なぜ2人が今、目の前にいるのか。「えっ、うそ、やろ……」

 俊樹は思わず崩れ落ちてしまった。



 遡ることおよそ2時間前。

「あれ、ほんまにウザかったな」

 充と孝之は個人ラインに移って、電話していた。

「ウザイどころか、地元で煽られて無茶苦茶ショックなんやけど」

「まさか、宝塚やとは思わんかったな〜」

「ごめんな、充。てっきり、阪神やと思ってたからさ、見逃してた」

「いいよ、いいよ。誰にだってミスはあるし」

 そして、充は孝之に聞いた。「ところでどうする? あいつ、どうやって捕まえる?」

「もうすぐ、位置情報公開なくなるからな。これから難しくなるよね」

「少なくとも、宝塚に留まることはしなさそうやし、となると阪急で逃げるよな」

「今、どこにいるん?」

 十三やで、充は言った。「俺は尼崎やわ」

「今から、宝塚方面へ行こかなって考えたけど、次来るのは普通やわ」

「普通は宝塚行かへんからな」

 宝塚線の普通電車は、全て雲雀丘花屋敷止まりだ。

「急行待ったとしても、すれ違ったら意味ないし、かと言ってここで待ってても、あいつが大人しく乗り通すとは思えんし……」

 いい作戦がなかなか思い浮かばない。このまま終わってしまうのか。

 だが、その時、

「なぁ」

 口を開いたのは、充の方だった。「さっきさ、孝之、親戚に警察官いるって言ってなかった?」

「えっ? うん。同居してるおじさんが、西宮署で働いてるけど」

「今日って、非番かな?」

「うん、朝、家出た時、庭でラジオ体操してはったで」

 それを聞くと、充は念を押すように孝之に言った。「今からさ、おじさんに電話してくれへん?」

「どういうこと?」

 へへへ、充は笑った。

「今、あいつ、宝塚にいるんやろ? 警察官のおじさんに俊樹のことを尾行してもらって、それであいつの今いる場所を逐一教えてもらおうよ!」

 孝之は思わず、自身の腰を叩いた。「おま、天才かよ!」。友だちの頭の回転の速さにとても驚いた。

「ルールには、人に頼んだらダメなんていう文言なかったしな」

「じゃあ、お願いしていい?」

 オッケー、一旦電話が切れる。

 それから3分後。

「おじさんにオッケーもらったで! しかも、まさかの宝塚駅辺りにいてるみたい」

「ちゃんと特徴言った?」

「あいつの写真、何枚か送ったった」

 それから、孝之のおじさんから、宝塚線の急行の車内俊樹を確認したと連絡があった。それとほぼ同時刻、俊樹からの乗車報告が入った。

「じゃあ、俊樹のことは一旦、おじさんに任せておいて。今から、梅田に向かうから、充、一緒に落ち合おう」



「やっほー」

 朝の時空の広場で、合流した2人。

 孝之が笑っている。

「今、おじさんから新たに連絡来まして。なんと! 千里中央から、こちらへ向かって来てるとのことです!」

 2人で拍手をあげる。「18時11分発のなかもず行きやわ。あと、切符買うところを見たらしいけど、梅田まで買ったみたい」

「梅田着く時には、30分になってるな。梅田で降りたところで確保は出来ひんな」

「じゃあ、新大阪行こうや」

「さんせ〜!」

 ということで、2人はJR改札の中に入り、普通の高槻行きで新大阪へ向かった。

 充と孝之が頭の中で思い浮かべているのは、俊樹が絶望する顔。宝塚での恨みはとても深かった。

 新大阪に到着し、御堂筋線へ乗り換えた。

「来たで」

 なかもず行きのご到着。俊樹は完全に油断している。

 2人は一番後ろの車両へ向かった。



 梅田で3人は降りた。

 俊樹は死んだような目をしている。本当に逮捕された犯罪者のようだ。

「ねぇねぇ、俊樹くん。今、どんな気持ち〜?」

 ここで孝之の渾身の煽りが炸裂した。「残念でしたぁ〜! フォォ! きもちぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「さすがに、ほんまに警察導入するのはなしやろ!」

 俊樹はとても悔しそうだ。

「おじさん、ありがとう」

「なんかよう分からんけど、楽しそうやからよかったわ」

 孝之のおじさんは先に帰ると言う。3人に手を振ると、さっさと退散して行った。

「まじかぁ……。勝った思たのに。最悪や〜!!」

「お前の負けです。というか、俺の地元に行って挑発して来た時点でもう負けてましたよ」

「どんなけ、あの時の煽りを根に持ってんねん! てか、今、捕まってしまったから、あの時の煽り、無茶苦茶恥ずかしいんやけど」 

「まぁでも、ほんまにお前、策士すぎるから手強かったわ」

 と、充が言った。「こんなに振り回されるとは思いもしてへんかった」

「それはそう。無茶苦茶振り回された」

 ラインの通知音が鳴った。


ゲームマスター『午後の部、終了』


ゲームマスター『俊樹君が確保されたので、鬼チームの勝利です!』


 長かった午後の部が終了した。

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