上橋菜穂子作品を彷彿とさせるファンタジー文学

 作者様がこの作品をどこにカテゴライズしているのか、私は知りません。先入観なしに読んで思ったのは、「文学」である、ということ。

 広大な草原の美しさ。枯れ行く水を守ろうとするために動き回る登場人物。その設定だけでも心掻き立てられる。彼らの行動から見て取れるゆっくりとした感情の動き。たしかにもどかしい。けれど、それが本来の人間の心だと私は思う。他人に対する「愛」や「感情」は生まれた時から備わっているものではない。それを見せられ、感じとり、自分で学んでいく主人公たちの心を観察し、分析し、適切な言葉で表現していく作者様の筆力。ところどころにちりばめられた真理をつく言葉に、ページをめくる手が止まるほど。

 この先、タイトル通り、魔導士同士の恋愛感情を突き詰めていくのか、それとも、恋愛に乗せた、「水」を守るための人々の葛藤を主軸にしていくのか。

 どちらに進んでいくとしても、この作者様なら表面上の登場人物の動きに惑わされることなく、その下にある思い、心理、などをいかんなく表現してくれることと思います。

 文学にしては軽めの文章ながら、描いている内容や言葉は心を突いてきます。

 続きが楽しみな小説のうちの一つです。

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