最終話 別れの挨拶、学園の外へ

「じゃあ俺たちも、借り物返して帰ろうか」

「そうだね」

「寮の部屋、掃除しないとな」


 立つ鳥跡を濁さず。俺たちは寮の部屋、校舎の机、委員会の部屋の床を掃除して、カードキーや制服をまとめて返却した。そして久しぶりに私服に袖を通したら理事長室に行く。


「失礼します、挨拶に参りました」

「失礼します」


 相変わらず優雅に腰掛けている理事長。香ばしくて美味しそうな匂いがするから、さっきまで夕飯を食べていたのだろう。


「よくきてくれた。とうとう帰るのかい」

「ええ、理事長にお別れを言いに来ましたよ」

「カード、ありがとうございました」


 友人がお礼をいう。


「そうだ、カードキーお返しします。豊富な予算を出していただいて、助かりました」


 ブラックカードキーを両手で持って理事長に返す。ここへ来たとき、理事長が自分のお金をいくらか入れてくれたカードキーだ。結局最後までお金には困らなかった。


「生徒会の問題だけ解決してもらうつもりが、魔法の原因まで解決してくれてありがとう。異世界人を見つけてくれたんだって?」

「ええ、先程元の世界へ帰っていきました。成り行きだったので事後報告になってしまいすみません」

「いやいや、構いませんよ。あなた達に任せているからね。本当に助かった。代金は期日までに必ず口座に振り込んでおくから。振り込んだら連絡を入れよう」

「よろしくお願いいたします。それでは最後になりますが、本当にありがとうございました。失礼いたします。また何かありましたら、いつでも我々にご連絡ください」

「俺たちが解決しますからね」


 校舎から出ると、すぐ外で生徒会長と会計、双子に、友人の親衛隊、そして風紀委員長ともうひとり風紀委員、そして爽やか君が待ち受けていた。


「え、皆さんどうして」

「もしかして、お見送りに来てくれたの?」


 俺と友人は驚いて玄関前で立ち止まる。


「最後に見送りたいと思ってな。オレ様直々に来てやったぞ」


 生徒会長は相変わらず偉そうだけど、変わったのは風紀委員長と一緒に居ても喧嘩しないところだ。


「俺は風紀の見回りのついでに通りかかっただけだ」


 風紀委員長は俺の顔をガン見しながら言った。相変わらずの顔の怖さ。


「わざわざこの時間にここを見回るように委員長が決めたんだよ」


 一緒に居た風紀委員がこっそり耳打ちしてくれた。


「こほん。まあ、それはさておいて。この学園が変わることができたのは、お前のおかげだ。本当に感謝している。次の学校でも頑張れよ」


 風紀委員長と握手を交わす。


「寂しいよー」


 チャラ男会計が友人にベタベタとボディタッチしている。あんまり触るんじゃない。


「ほんとに俺が副会長になっちゃったよー」

「次の学校でも元気でね」


 双子が名残惜しそうにしている。俺と同じ学年の双子の片方が、友人の代わりに次の副会長に選ばれたらしい。友人との別れが惜しいのか、それとも副会長に成りたくないだけか。

 友人の親衛隊たちは泣きすぎて喋れていない。化粧が崩れるのもいとわず大泣きしている。本当に友人のことを尊敬していたんだな。


「そんでお前は授業受けろよ。今授業時間だろ」


 俺は爽やかくんに言ってやる。


「サボってきた」


 よく風紀委員長がいるのにそんなこと言えたな。しかし風紀委員長も今だけは見逃してくれるらしい。爽やかくんは他にもなにか言いたそうな、複雑な顔をしていた。いつもよりおとなしい。俺は爽やかくんに友人としての抱擁をして背中を叩く。


「野球、頑張れよ。お前と過ごした学校生活、すげぇ楽しかった」

「うおお、俺も楽しかったよお!」

「ははは」


 男泣きする爽やか君を、俺は宥める。


「皆さん、本当にお世話になりました」

「お世話になりました」


 深くお辞儀をして、俺たちは正門から出た。そしてこっそり裏門まで歩いて、車で山を降りた。高校生が車を乗り回すところを見られるのは、ほんの少しマズイからな。


 学園を出てから、俺たちは元の生活に戻っていった。友人は新たにバイト先を見つけたようだ。今度は配達のバイトらしい。すっかり体を動かす気になったようで、後ろで髪をちょこんと結んでスクーターに足をかけた姿が送られてきたときは驚いた。


 俺は相変わらず、自宅から各方面と連絡を取り合って子供のオンラインお悩み相談室を運営している。新たに皆でキャンプに行ったり散歩したりして、学校や家庭に居場所がなくて困っている人たちが悩みを共有できるような、健全な方法で少し気を紛らわせられるような場所を提供できればと、水面下で動いているところだ。


 学園の健康的な生活に慣れてしまった俺と友人は、二人して健康体になってしまった。この前友人の家に遊びに行って話したときには、あいつも俺と同じで夜は早く寝るようになったし、朝も早く起きれるようになって、朝からご飯をしっかり食べられるようになったという。肉体年齢が若くなったようだと笑いあった。


 これからも子どもたちのトラブルを解決するうちにとんでもない大きな問題に巻き込まれることがあるだろう。そのときは、昔はこの目で異世界人を見てきたんだという大きな気持で挑もうと思う。すっかり魔法の力は抜けて俺たちは普通の人に戻ってしまった。


 改めて友人に告白するという決意は、忙しさで有耶無耶になってしまったが、恋人同然のやり取りをするようになった。お出かけはデートになったし、友人の家に遊びに行くのはおうちデートといった雰囲気だ。しっかり告白し直すのは、冬くらいにしようか。クリスマスのイルミネーションの前が良いと思っているんだ。その頃には俺の仕事も一段落ついているだろう。


 もうすぐ秋が訪れる。そろそろ、三年生は進学に向けて本格的にがんばっていくところだろう。あの学園の生徒たちをたまに、俺は思い出すのだった。

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