1-2

アユートは目の前の光景を見て呟く。そこにいたのは巨大なロボットであった。全身を鈍色の装甲で覆われており、その大きさは3メートル程だろうか。

  アユートは冷静に分析を始める。


「(あれはMDでしょうか)」


  だがこのようなMDをアユートは見たことがない。MDは殆どが人型であったし、見た目も人間に限りなく近く作られていた。

  が、この機体はその特徴とは尽く掛け離れている。


「(であれば別の……?)」


  アユートの頭の中に様々な可能性が浮かんでくる。そして、アユートは一つの可能性に辿り着いた。

  新しい兵器なのではないか。


  アユートはその考えに至ったと同時に、すぐさまその場から離れる。そして、先ほどまで自分が立っていた場所を見た。

  そこには既に巨大な拳が振り下ろされており、大きな穴が空いている。

  轟音が鳴り響く。砂煙が立ち上り、アユートはそれを振り払うように腕を振る。


「(通信が繋がらない。電波妨害でしょうか)」


アユートは一度距離を取りつつ状況を分析する。

  アユートは近距離戦を得意としている。いつもなら出来る限り距離を詰めて戦うのだが、今回は分からないことが多すぎるのだ。


  これだけ派手にやっているのなら他の誰かも気づいているだろう。

  だが、直接連絡が取れない状況で、憶測でものを言うのは少しリスキーである。それに、相手にはまだ他にも仲間がいるかもしれないのだ。

  アユートは思考する。どう動くべきか。


「なんて考えていても仕方ありませんね」


  アユートは大きく息を吐き出すと、相手の懐へと飛び込んだ。そして、思い切り殴りつける。が、相手は微動だにしない。


「硬い」


 アユートは一旦後ろに下がる。そして、もう一度攻撃を仕掛ける。今度は足に狙いを定め、蹴りを放った。

  が、やはり効かない。逆に、アユートの脚に響きが伝わる。


「どうなってるんですか、これ」


  アユートの攻撃は確実に当たっていたはずなのだ。それなのに全くと言っていいほどダメージを与えられていない。

  アユートは困惑しながらも再び攻撃を仕掛けた。

  何度も、何度も。が、全て無駄に終わる。どれだけ殴っても、蹴ってみても、何も変わらない。

そうしている間に相手が動いた。ゆっくりと腕を振り上げる。


「ッ!」


  アユートは咄嵯に横へ飛んだ。その直後、凄まじい音と共に地面が大きく揺れる。


「ぐぅ……」


  アユートは地面に倒れ込みながらも、すぐに起き上がる。


「一体なんですか」


  アユートは悪態をつくと、相手を睨みつけた。


「……」


アユートは目の前の機体を見つめる。それはまるで鉄の塊だった。鈍色に光り、ゴツゴツとしたシルエット。頭部には二つの目のようなパーツがあるだけで他には何もない。


「(動きませんか)」


  アユートはいつでも動けるように身構えつつも、相手の様子を伺う。

  が、相手は動かない。


「こちらCMD-BBB2。CMD-BBB1、聞こえていますか」


  ヴァファンクーロに通信で呼びかけるもやはり返事は無い。


「困りました」


  アユートは小さくため息を吐くと、目の前の敵に視線を向ける。敵は微動だにせず、ただじっとこちらを見ていた。


「動かないのならば、こちらから仕掛けるまでです」


  アユートはちょうど腰の部分にぶら下げているホルダーから2本の棒を取り出した。


「ロスト・ゼスト起動」


  次の瞬間、棒は青色に輝き変形を始める。やがて剣へと形を変える。アユートは剣を両手に一本ずつ握りしめる。そして、そのまま勢いよく走り出した。

  アユートは剣を構えながら敵機に向かって突き進む。が、敵機は全く動きを見せなかった。


「……」


  アユートは疑問を抱くもスピードを落とすことはない。その距離はどんどん縮まっていく。あともう少しで攻撃が届くというところで、突然、敵が動き始めた。


「っ!?」


  アユートは反射的に後ろに飛び退く。が、遅かったようだ。

  鈍色の右腕が振り下ろされる。その攻撃はアユートを掠め、大地に直撃した。

  轟音が鳴り響く。アユートは何とか体勢を立て直すも、顔からは何かが流れ落ちていた。

アユートの頬を伝った雫が顎の先まで垂れ、ポタリと落ちる。そして、それが合図となった。


「……」


  アユートは無言で前に出る。そして、剣を思い切り振った。が、当たらない。

  相手はその巨体からは信じられない素早い身のこなしでアユートの攻撃を避ける。    そして、反撃に転じた。巨大な拳がアユートを襲う。

  アユートは横に飛んでそれをかわす。が、完全に避けきることは出来なかったようで、吹き飛ばされてしまった。


「がぁッ!!」


  アユートは再び地面に叩きつけられる。


「(強い……)」


  アユートはすぐに立ち上がる。が、そこに再び敵の猛攻が襲いかかってきた。

  アユートは必死になって避ける。が、やはり全てを完璧に避けることは出来ない。何度か攻撃を受けてしまう。


「グッ!」


  攻撃を受けた箇所が熱を帯び、エラー音が鳴る。アユートは思わず顔をしかめた。


「(このままでは)」


  アユートの頭の中に敗北の二文字が浮かぶ。だが、ここで諦めてしまえば自分は確実に負けるだろう。


「まだ、私は負けたわけではありません」


  アユートがそう呟いた直後、突如として上空から無数の光の矢が現れた。それらは真っ直ぐに敵へと向かうと、その体を貫いていく。


「……」


  アユートは空を見上げる。そこには一つの人影があった。


「大丈夫か」


  黒い短髪に黒い瞳。だが左目は銀眼をしている男。少なくとも、アユートはこの人物を知らなかった。


「……援護、感謝します。貴方は誰ですか」


  アユートは警戒しながら尋ねる。


「俺はシンズ。この基地に新しく派遣されたCMDだ」


  男は短く答えると、手に持っていた弓を構えた。


「俺が来たからにはもう大丈夫だ。必ず倒してやる」


  そう言う男の表情はとても頼もしく見えた。が、アユートの顔を見た瞬間、男は目を見開いた。


「お、お前っ!」


  シンズがアユートに近づこうとしたその時、 ドォン! と大きな爆発音と共に地面が大きく揺れた。どうやら敵が起き上がったようだ。


「ちっ、しぶとい奴め」


  シンズは舌打ちすると、すぐに弓を構える。そして、弦を引き絞ると三本の矢を同時に放った。放たれた矢は一直線に敵へと向かっていく。

  が、相手は腕を振り上げるとその攻撃を弾く。

  しかし、シンズの方が一枚上手だったようで、敵が腕を下ろした時には次の矢が既に放たれていた。矢は見事に相手の目を捉えた。


「終わりだ」


  ギシ、という音が敵からしたかと思うと、その体はゆっくりと倒れていった。

  それを確認した後、シンズはアユートに向き直る。


「お前、まだ生きてたのか」

「申し訳ございませんが、言っている意味がよく分かりません」

「っ! お前は、忘れたのか!」

「……失礼ですが、私達は初対面でしょう?」


  アユートは困惑したような声を出す。

  それを聞いたシンズの眉間に深いしわが刻まれる。そして、何かを言おうとして口を開いた時、ノイズと共に通信が入った。


『こちらMD-K226。 通信の復旧を確認。各自応答せよ』

『こちらCMD-BBB1。通信を確認』

「こちらCMD-BBB2。通信を確認」

『通信を確認。他に異常はない?』

「こちらで謎の敵機を確認、撃破しました。基地にて報告します」

『了解。お疲れ様、アユート』


  アユートは通信に返事をする。

  その後、シンズとアユートは少しの間だけ沈黙した。が、先に動いたのはアユートの方だった。

  アユートは棒に戻った剣をホルダーに戻すと、基地に戻ろうと歩き出す。


「おい待て!」

「……何でしょうか」


アユートは立ち止まると、振り返らずに言った。


「話は終わっていない」

「報告をしなければならないので、また後でも良いでしょうか」

「ふざけるな! わざわざ助けてやった恩も無視して」

「私達は味方でしょう。であれば、助け合うのは当たり前のこと。恩なんて、戦場には存在しませんよ。ですが、まぁ、ありがとうございました」


  アユートはそれだけ言うと再び歩き出した。

残されたシンズは拳を強く握りしめ、歯ぎしりをする。アユートが去った後も、シンズは一人その場に残っていた。

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この進んだようで廃れた世界に存在する機械人形は未来を夢見ることが出来るのか今はまだ分からない 有頂 天弱 @Exaltation_343

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