Mission02 アニソンイベントを守れ!
第18話「ウサギたちは地道に活動する」
”ラビッツの暴れっぷりは痛快だったけどさぁ。あの後
とばっちりだってラビッツを少し恨んだよ”
ランカスター市内の中学生(匿名)のインタビューより
「おお、やってるやってる」
スパイトフル=ユウキ・ナツメは、ぱちぱちと音を立てる眼下の焚火を見下ろした。
ここは木造の小学校。屋上のように気の利いたものは無いから、足元は急勾配の屋根瓦だ。サイレンはさして気にした風でもないし、自分もそうだ。
「薪を火にくべれば暖を取ることが出来る。でも本を火にくべたら、皆凍え死ぬ。火の起こし方は本に書いてあるんだから」
言葉こそ冷笑だが、態度ほど無情になれない。口調もスパイトフルの荒々しい言葉遣いではなく、ユウキ・ナツメの穏やかなものだった。
こちらの自分が本来のものだが、いつか
校庭では大きな焚き木がもうもうと火を上げ、すすり泣きの児童たちが本を放り込んでゆく。
中には嫌がって暴れる子供もいるが、男の教師が2人がかりで羽交い絞めにし、本を取り上げて投げ込んだ。
「酷い事するわね」
サイレンの言葉は、ラビッツとしてではなく人として発したものだろう。当然の感想だ。
その当然が当然でいられなくなりつつある。それが今の共和国だ。
「先生も人間だからね。大勢の子供に言う事を聞かせて支配する。麻薬みたいに気持ちいいんだろうさ。
抵抗した
目の前の光景が現実である以上。
『こちら撮影班、準備完了。いつでもいけるわよぉ』
マウサーキャットからの報告を受けて、ユウキはポーチから巨大な薬莢を取り出す。太い葉巻サイズの特注品だ。中に込められた
「じゃあ、今日は
サイレンが苦言する。いたずらっ子を叱るように
もちろん、こんなところで全力を出す気は無い。
「ああ、分かってるよ
直ぐに魔法を発動させる。撃発音と共に、脳裏に特別製のスチーム・ギアから情報が届く。
『【
最低出力で放たれたそれは、意志を持つように焚き木に吸い込まれ、禍々しい
何が起きたか分からないまま、呆然と見上げる子供たちに、怪盗の頭目は高らかに宣言した。
「さあ子供たち! ブレイブ・ラビッツのお出ましだ!」
眼下の子供たちからわあっと歓声が起こる。
【
最小出力で魔法を発動して、校庭に飛び降りる。
「いけないなァ。先生が子供をいじめちゃあ」
先ほどまで強圧的だった教師たちは、借りてきた猫のように立ち尽くしている。
彼らが悪い教師だとは思わない、無抵抗なものを叩きのめす免罪符にあてられて、攻撃性が表に出ただけ。普段は良い先生もいただろうし、そうでない者もいただろう。
だから、良い先生に戻ってもらおう。冷や水を浴びせて。
「ええと、貴方が教頭先生かな?」
一番高齢の教師に目を付け、ぴょんと跳び上がって目の前に着地した。
「こ、校長だ」
わざわざ訂正してくるが、こちらとしてはどうでもいい。
「オーケー校長先生、教えてくれねぇかな? 漫画を燃やしてどんな良いことがある?」
校長は何も答えない。
プロの検閲官を向こうに回して圧倒して見せたスパイトフルである。彼がその気になれば、喉笛を砕くことなど造作もない。やったところで何の得もないが。
「沈黙は金ってわけかい。じゃあ、良いものを見せてやるよ」
振り返ったスパイトフルは、サイレンに合図をする。
彼女は頷いて、声を張り上げた。
「良い子のみんな、指さしてみて! 貴方の好きな先生は?」
子供たちは伏し目がちにサイレンを見つめ、動くことは無い。
何人かがパラパラと思い思いの教師を指さす。
「ありがとう。もうひとつだけ教えて。あなたの好き
子供たちは今度も戸惑うように黙り込んだ。
やがて、遠慮がちにお互いに目配せしつつ、教師を指さしてゆく。その数は、前の質問よりもはるかに多かった。
それが何を意味するか気づいたらしい。さっきまで震えていた若い女教師がわっと泣き出した。
他の教師たちも、悄然と立ち尽くしている。
彼らは気づいたのだ。自分たちが燃やしたものが、漫画だけではなかった事を。
「……分かって頂けて嬉しいよ」
スパイトフルは右手を振ってお辞儀し、状況が呑み込めない子供たちに向き直る。
「少年少女諸君!」
幼い視線がスパイトフルに集まる。
ここで、政治の話をすることは簡単だ。だが、それはブレイブ・ラビッツの主義に反する。
自分達の武器は、
だから、彼は右手の義手を振り上げ、握り拳を掲げた。
「
勇敢であってくれ。
大人が、先生が、何を言おうと君たちの心は君たちのものだ。
君たちを縛ろうとする得体のしれない何かに抗ってくれ。
そして選んでくれ。幸せを。
たとえ、その気持ちが何百回踏みにじられようと。
そんな想いは伝わっていないだろう。
だけど、何かを感じてくれた。その筈だ。
だから、もうそれ以上は余計な言葉だ。
勇敢なるウサギたちが虚空へ飛び去る
後には「警察を呼べっ!」と騒ぐ校長と、それに一切の未練もなく、拳を振り上げて見送る少年少女たちが残された。
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