第32話 愛し合う二人

 真一郎を身体の中に受け入れた房江は真綿のように柔らかく、強く締め付け、それに合わせるように真一郎はゆっくりと腰を突き動かしていた。


 やがて堪えきれなくなった二人は絶頂を迎えようとしていた。

 お互いの裸体はからまりながら密着し、汗にまみれていた。


「あぁ、いくよ……房江」

「は、はぁ、はい」


 真一郎の唇は房江の唇と重なり、お互いの心の芯まで吸い込むように舌を吸い合っていた。ぴたりと重なった二人の下腹部はさらに激しく揺れ合い、迫り来る快感を感じて快楽の階段を登っていった。


 そのとき房江の子宮の奥のひだは真一郎が突き上げ、ほとばしりを感じながら、幾度も律動を止めずに果てつきるまでうごめいていた。


(あぁ……逝きます!)


 狭い部屋の中で声を押し殺しながら、それを堪えきれずに甲高い声を出してついに房江は乳房を揺らしながら痙攣けいれんし、そして果てた。

 彼女の顔は汗にまみれながらその余韻に浸っている。その房江の子宮の中は真一郎の精液で溢れ、その瞬間に二人の愛の結晶が宿ったのかも知れない。


 激しい嵐が過ぎ去った後で、天井からぶら下がっている裸電球を見つめている真一郎は房江の肩を抱いて言った。


「後悔はしていない?」

「もちろんです」


 房江は嬉しそうな顔をして真一郎を見つめていた。そのときの彼女の顔は誰よりも美しいと真一郎は思った。


 この日の行為は、ときどき真一郎が房江のアパートを訪れるときに再現されることになる。


それは二人が若いころの遠く過ぎ去った過去の話だったが、その結果が思いもよらないことになるとは今は誰も知るよしも無い。


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