第23話 少女との援交

 援助交際は十八歳以下の少女と関係があった場合に処罰される。

 彼女の顔は童顔だが、大人びた身体はしているので、その言葉をすぐに信じるわけにはいかない。


「でも信じられないなぁ」

「じゃあ証拠を見せるね」


 彼女はバックから取り出した学生証を見せた。誕生日を確認すると確かに問題はない。もしあと半年ほど前だとしたら危なかった。


 彼女の年齢が十八歳だと分かったら、冴木は急に気が楽になってきた。

 しかし、すぐ行為に及ぶわけでは無いのに何故か安心していた。おそらく彼の心の中でそういう期待感があるのかもしれない。


 今まで妻以外の女性とセックスをしなかった訳ではないが、そういうチャンスが最近はあまりなかった。


 公務員と言う仕事柄、あまり目立つことはできない。しかし、彼女が十八歳となれば互いに自由恋愛ということであり、後は妻にバレなければいい。


「どう?」

「うん、たしかに?」

「でも、なぜわたしと?」

「おじさんは優しいし、一度こうしてみたかったの」

「君は始めてなの?  こういう経験はないのかな」

「うん、友達はみんなそういうの知っているし。わたしは奥手だからまだなの」


 仕事ではきっちりと処理しなければ気が済まない木訥ぼくとつな感じがする冴木だが、プライベートでは少し訳が違うようである。

 最近は妻と接していないし、男としてのストレスがどうやら溜まっているようだ。


「わかった。どのくらい払えば良い?」

「あたし、そういうのよく知らないけれど、友達はこの間は一万五千円貰ったっていってたかな」


「なるほど、それは後でね」

「うん、それでいいわ。この間三千円貰ったし、信頼しているから」

「おやおや、へんな信頼だね。ではラーメンを食べたら行こうか」

「うん」


 こうして妻と娘がいるという男は、まだ十八歳という少女を連れて駅へ戻り、タクシーに乗り込んで郊外のラブホテルへ向かっていった。


 思わぬ展開に冴木は心がときめいていた。

 最近はテレビなどで援助交際などのニュースを聞いて知ってはいたが、自分には関係が無い世界だと思っていた。


 今それが現実になっている。実際に今彼の横には少女がいる。あまりに展開が早すぎて自分は彼女に騙されているのではないかと思った。しかしそれでも良い。そんな時間を少しでも楽しめれば良いと思った。


 思わず冴木は横のれいなを見た、彼女は自分を見て微笑んでいる。(とても可愛い……)嘘でなければこの後で彼女を抱けると思うと彼の股間の物はいつになく固くなっていた。


 れいなの手を握り、それをズボンの上から触らせた。意外なことに彼女の手は震えており、タクシーの中ではただ黙って目を瞑っていた。


 れいなは心の中で思っていた。(きょう、わたしは処女を捨てるのね。少し恐いけれど。でもその相手がこの優しいおじさんで良かった……やっとみんなと同じになれる)


 その部屋の照明は少し暗くしてあり、ラブホテルとは思えないほど落ち着いていた。冴木がこういうホテルを利用するのは久しぶりだった。何年か前にクラブのホステスと来たことはある。あの時はケバケバしい部屋だったが、いまこの部屋は落ち着いている。


 れいなは自分から冴木を誘っておきながら、身体は緊張で震えていた。彼女の年齢にしては性体験が未経験なのは珍しい方かもしれない。

 彼女の友達で、すでに経験している女の子は多かった。およそ彼女たちが経験した相手は、学校の先輩や大学生達らしいが、れいなは若い彼等には興味が無かった。


 優しい大人に奪って欲しいというのは友達からの情報で、若い男は稚拙ちせつであり、上手じゃないということを聞いていたからだ。


「さあ、服を脱いでごらん、わたしが脱がせてあげようか? ここにお金は置いておくからね」


 冴木はすでに裸になってベッドの中に横たわっていた。テーブルの上には二万円が置いてある、彼は奮発したのだろう。


「うん。でも恥ずかしいからおじさん見ないで、後ろを向いていて。服を脱いだらそこにいくから」

「わかった」


 冴木は、れいなのような少女を抱くのは初めてであり、胸は高鳴っている。大の大人が少女を……といっても十八歳だが、しかしこれは恋愛であると割り切るしかない。


 その心に罪悪感が無いわけでは無いが、今はそのタブーを破るときでもある。こういうチャンスはおそらくそんなには巡ってこないだろう。れいなを見ながら冴木は心の中で葛藤かっとうをしていた。


 れいなはベッドにいる冴木に背を向けながら服を脱いでいる。冴木はれいなに言われて彼女に背を向けていた。しかし彼は部屋に備え付けの鏡に映るれいなの裸身をこっそりと見ていた。

 妻とは違う、若く眩しいような白い裸を見ていると、まるで夢の中にいるようだった。


 薄いベージュ色をした淡い灯りは彼女の裸身のシルエットを映し出している。その身体は若く弾けそうだった。

 柔らかい身体で恥毛は薄く、桃のような乳房は胸の前で揺れている。れいなはそっとテーブルの上の金をバックの中に入れ、脱ぎ終えた服を丁寧にたたみ、ソファに置くと冴木の待つベッドに滑り込んできた。


「おまたせ……」

 その声は誘ったときの声に比べ小さく身体は震えていた。冴木は、れいなは少しばかり大人ぶってはいるが、これが素直な彼女だと思うと嬉しくなる。


「こわくないからね」

「うん、ありがとう」れいなは、冴木の頬にキスをした。

「ありがとう。やっときたね、子猫ちゃん」

「うん……二万円もくれたのね、良いの?」

「ああ、いいさ。わたしの気持ちだから取っておきなさい」

「ありがと、おじさん。本当に優しいのね」


 そう言ってれいなは冴木に抱きついてきた、その身体は少し震えている。その肩を抱き冴木は優しく撫でる。その肌は艶々しており、彼の手は彫刻を撫でるようにれいなの肩から背中にゆっくりと回っていく。


「おじさんの手、暖かい……」

「そうかい」

「うん……」


 しばらく沈黙が続いていたが、冴木の手は少女の前の部分に移動し、柔らかな乳房を羽根のように撫でていた。その手の動きに反応し、れいなの息が次第に熱くなる。

「気持ちいい……」

「そうかい」


 そこからさらに彼の手がれいなの秘部をまさぐっていると、彼女は猫のような甘えた声を出し、濡れ始めてきた。しばらく愛撫が続いていたが、頃合いをみながら冴木が言った。


「入れるからね」

「うん」

 枕元にあるコンドームを装着した冴木は、ゆっくりれいなの中に入っていった。

(いた……痛い……)

「始めてなんだね」

「そうなの……優しくね」

「わかってる。誰でも始めはそうだし、すぐに慣れるから」

「わかったわ」


 少しずつ入ってくるのを感じながら、れいなは冴木に密着し、抱きついていた。冴木の腰は慎重にゆっくりと波のように彼女と合体し揺れ動いている。

 その愛のひとときは部屋の中で緩やかに流れ、れいなの身体の痛みは少しずつ遠のき、そして消えていった。


(あ、あっ!)と呻き、感極まって冴木は彼女の中に精を吐き出した。れいなはその反応を確実に身体の中で感じていた。

(こ、これが、セックスなのね……)


 なぜか理由の付かない感動が自分を包みこむと、れいなの目からは熱い涙が溢れていた。お互いの胸の鼓動を感じながらしばらく二人は抱き合っていた。しばらくしてれいなは、


「おじさん。痛くなかったよ」

「そうかい。それはよかった……」

 冴木は、れいなの柔らかな乳房に汗に濡れた顔を埋めていた。しばらくしてれいなは思いがけないことを言った。


「あの、おじさん」

「うん、なにかな?」

 二人は抱き合いながらお互いを見つめていた。


「これからも、れいなに逢ってくれる?」

「えっ?」

「いや?」

「いや、そんなことはないさ。れいなはそれで良いのかい。学校だってあるでしょ」


「うん、授業が終わってからだって良いし、週末なら友達の家に行くって言えば大丈夫だから。それよりおじさんは、大丈夫?」


 れいなはすっかり冴木に慣れていた。人は身体を合わせれば、人間の本質が分かるのだろう。そこには愛と信頼という新たなるものが生まれたからかもしれない。


「そうだね。仕事が忙しくない日なら、夕方逢えるかな」


「じゃあ、れいなとおじさんの都合が良い日にしよ。それとね、お金はれいなからは欲しいっていわないから、おじさんがくれるときでいいよ。無くなったら逢えないし……」


「あはは、れいなは優しいね。わかった。そうする」

「わーい、決まりだ! れいな嬉しいな」


 こうして、援交から始まった、愛の繋がりはどうやら成立したようである。

 この数ヶ月後に決まった冴木の転勤の次期までこの愛は繋がっていた。そのときの別れを二人は経験しなければならなかったのだが。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る