第59話 終幕


 何年ぶりの顔合わせかと問われ、指折り数えようとした。だが、そんな私の努力を嘲笑うかのように、地天馬は「ま、そんなことはどうでもいいか」と自身の言葉を打ち消した。

 奥歯を噛み締め、何を言ってやろうかと脳みそをフル回転させる。しかし、言葉が出ぬ内に、地天馬はまた言った。

「こちらは弁護士の海藤かいどうさんだ。今、海藤さんの抱えている案件――強盗事件なんだが、君の従兄弟が共犯として関与している可能性が浮上した。立ち回り先の心当たりがあれば、正直に答えてもらいたい」

「……」

 やはり、そんな用事か。私は分かっていたが、落胆した。地天馬鋭との知恵比べをしたかったのだが。あのときのような不意打ちではなく、きちんと準備万端整えて、真っ向勝負で。けれども叶わぬ夢らしい。知らぬ間に、ため息をついていた。

「含むところはあるだろうが、模範囚としてやっていると聞いた。ここは素直に話してくれないかな」

 名探偵が促してくる。

 私は今一度、小さなため息をついてから、ある提案をしてみようと思い付いた。

「私の立場で言い出せるものではないのだろうが、一つ条件を出したい」

「受け入れられるかどうか分からないが、聞こう」

「地天馬さん、あなたの相棒は今もお元気か。あのワトソン役のフルネームを教えてくれ。教えてくれたら、お返しに従兄弟の行きそうな場所を話すよ」


 終わり

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私の出逢った名探偵 小石原淳 @koIshiara-Jun

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