②本の読めない僕が毎日図書館でしている幸せなこと

代官坂のぞむ

第1話 プロット

◯タイトル

②本の読めない僕が毎日図書館でしている幸せなこと


◯ログライン

読字障害ディスレクシアで文章を読むことができない少年が、若い図書館司書の先生に朗読してもらう快感に溺れ、二人の関係から抜け出せなくなる。


◯参考作品

 小説ではありませんが、読字障害ディスレクシアについては、以下の資料を参照しています。


一般社団法人 日本ディスレクシア協会

ディスレクシアとは

https://jdyslexia.com/information/dyslexia.html


NPO法人エッジ

FAQ

https://www.npo-edge.jp/educate/faq/


◯世界観

いまどき厳しい校則を持つ私立高校、陽向が丘ひなたがおか高校が舞台。

アルバイト禁止、髪染め禁止、男女交際禁止。部活は全員参加だが、マンガ研究会や軽音楽研究会は学校に許可されていないので、アンダーグラウンドの非正規なサークルとして活動している。



◯主要キャラクター


中井 水人なかい みなと

・陽向が丘高校一年生。

・身長165センチ。痩せ型。あまり身なりにはこだわらないので、ボサボサ頭。

・学習障害(LD)の一種の読字障害ディスレクシアで、長い文章を読むのが困難。耳で聴けば理解できるし知性は高い。だが、コンプレックスから他人と関わるのが苦手なので、クラスでは、すぐに噛み付く「ヤマネコ」とあだ名を付けられている。

・二宮リオに朗読サポートをしてもらうことで、依存関係になっていく。

・一方で、危機を切り抜ける中で、同級生を助け、関わりを持つことができるように成長していく。

・イラストを描くのが好きで、スキル販売サイト「ココカラ」でイラスト制作のバイトをこっそりしている。

・美術大学二年生の姉、七海ななみがいる。


「リオさんの声が好きだ。リオさんが読んでくれると、なんでもスッと頭に入って来るんだ」

「うるさい。好きでやってることに口出しするな」

「なんでこんなひどいことを書くんだ。僕が何をしたっていうんだ。ただイラストを描いて喜んでもらっていただけじゃないか」



二宮にのみやリオ

・陽向が丘高校の図書館司書。大学を卒業して就職二年目。

・身長162センチ。黒髪ロング。学校では黒いスーツを着ていて、細身で着痩せして見えるが、実はDカップ。

・秀才が集まる進学校で、自分は必要とされているのか疑問に思っていたところで水人に頼られ、彼の役に立てることに喜びを感じる。しかし彼に頼られる関係を守ろうとするあまり、次第に行動がエスカレートしていく。

・学校ではコンタクトをしているが、家では銀縁メガネ。

・文学好きで、優しく包み込むようなお姉様タイプ。


「読むのはつらいけど、聴いて理解することはできるんだ。……なら、私が読んであげればいいってこと? そうすれば理解できるんでしょ?」

「水人君に必要なことは、全部私が読んであげるから、安心して」

「私たち、依存なんてしてない! あなたなんかに、水人君の幸せを奪う権利は無い!」



平塚 由依ひらつか ゆい

・水人の幼馴染の同級生。

・身長155センチ。小柄で胸も小さめ。少し天然パーマ気味で肩までかかる髪を、ポニーテールにまとめたり、そのまま下ろしたり自由にしているが、前髪は命。ギャルに憧れていて本当は金髪に染めたいが、校則が厳しいので学期中は我慢している。

・根は真面目で、正しくないと思うと厳しく当たるクセがある。

・水人に対してはツンデレ気味な対応をすることが多いが、クラスの中で孤立していることを、ずっと気にかけている。

・二宮と水人の異常な関係に気づき、やめさせようと試みる。


「水人ー! どうせヒマでしょ。遊んであげるから放課後デートしよー!」

「ちょっと! あんたら、なんで水人をグループディスカッションに入れないの? 仲間はずれにすんじゃないよ」

「あんた達、二人ともおかしいよ! 自分達がおかしいことに気がつかないの?」

「いい加減、目を覚ませー! あんたの人生は、あんたが自分で判断して決めていかないといけないの! いつまでも二宮先生に頼っているわけにはいかないの!」


松田 蒼空まつだ そら

・水人のクラスの陽キャグループのリーダー。学級委員をやっている。

・身長176センチ。サッカー部でツーブロックのさっぱりした髪型。

・ウェイ系のノリだが、面倒見はいい。


綾瀬 文月あやせ ふづき

・陽向が丘高校の国語科教員。水人のクラスの担任。女性。

・身長158センチ。セミロングヘアで、授業中は後ろでピンで止めている。

・三十〜四十代だが正確な年齢は不明。誕生日が七月なので、名前が文月という話をよくしている。


藤野 弥生ふじの やよい

・陽向が丘高校の英語科教員。生活指導担当。女性。

・身長160センチ。黒縁メガネ。太り気味。ショートヘアを後ろで束ねている。

・おそらく四十代後半。

・厳しく校則遵守を指導するので、生徒に嫌われている。




◯物語構成


 全体で4章構成。各章4シーンの全16シーンを想定。1シーン5000〜8000字程度。各章あらすじは以下の通り。


1章:二宮リオが中井水人の読字障害を知り、図書館で教科書を朗読して録音させるサポートを始める。水人に頼られ、彼の役に立てることに喜びを感じる二宮。読めないことを言い訳にせず、成績でトップを目指すことと、イラストの仕事もきちんとすることを二人の内緒の目標にする。一方で、メールやメッセージも全て読み上げることで二宮は水人の全ての人間関係に関わるようになる。


2章:二宮と水人は次第に親密になり、ついに先生と生徒の限界を越える。一方で、二宮は、水人に送られてくるメールやメッセージの中の一部を、あえて読み上げずに削除するようになる。幼馴染の平塚由依が二人の関係に気づき、介入し始める。


3章:平塚の工作で、水人は二宮の行動に疑念を持ち一旦は共依存関係から出ようとするが、生のメールの文字の暴力に打ちのめされて戻ってしまう。逆に、二宮と水人の関係の中に同じ立場で割り込んでいく平塚。

 関わりのあった同級生が、放課後制服のままカラオケに行っていたことが学校に通報され、素行が悪い水人は、無実であるにも関わらず生活指導の教師に目を付けられる。


4章:水人のアイデアで、クラスで口裏を合わせて先生にサプライズを仕掛け、カラオケはその準備だったと芝居を打ち、先生を丸め込む。これに乗じて、二宮との関係が明らかになるのを避けながら、水人の疑いも晴らす。成長しクラスに馴染む水人。

 水人のサポートを巡って、意地の張り合いをする二宮と平塚のファイナルイメージ。



各章ごとの詳細プロットは、以下の通り。()で注記した以外は水人の一人称視点。


0 プロローグ

 中井 水人なかい みなと二宮にのみやリオの二人は図書館の資料準備室にこもっている。文字が溢れる環境で水人はめまいを覚えるが、二宮が正面に座り「私以外の物は、目に入れなくていい」と語る。水人のスマホで録音しながら、二宮が詩集の音読を始めると、水人は包み込まれるような幸福感と二宮にキスしたい衝動を感じる。


1章

・シーン1

 五月のある日。水人は「ココカラ」で受注したアナログ水彩イラストのオーダーで、納品した購入者から描き直しのクレームを受ける。授業は面白くないのでサボり、一から描き直すことになったイラストを学校の図書館の隅で描いているところを、図書館司書の二宮に見つかる。

 二宮はその絵を絶賛し、絵を描きなおしている理由を尋ねる。購入者からのメールを見せられて、トラブルになった原因は水人が文章を読み損ねていることだと気づいて、対応をアドバイスする。

 事情を聞かれた水人は、小学校六年生の時に読字障害ディスレクシアと診断されたこと。ディスレクシア治療の一環として描いたイラストを、大学生の姉の七海にほめられたこと。そこからスキル販売サイト「ココカラ」に登録してくれたので、イラスト制作のアルバイトを始めたことを説明する。

「高校を卒業できるかどうかもわからないから、得意な技能で独り立ちできるようにしておけ」と七海に言われていることに感心し、黙認することにする二宮。

「校則でアルバイトは禁止だけど、そういう事情があるなら見逃してあげる。でも、図書館以外で、他の先生に見つかったら守ってあげられないわよ」


・シーン2

 担任の綾瀬先生の国語の授業。月の異名の話から、自分の名前が文月ふづきなのは、七月十五日が誕生日だからという話をする。自分から誕生日アピールするかね、と内心でバカにする水人。

 教室にいても同級生と関わりを持たず「ヤマネコ」と呼ばれている水人。水人がグループワークに入れてもらえないでいるのを見て、同級生の平塚 由依ひらつか ゆいが周りを注意するが、話がこじれて水人と平塚の間で口論になり、水人は教室を出て行ってしまう。


・シーン3

 再び授業をサボって図書館に来てイラストを仕上げていた水人は、二宮に声をかけられて、他の生徒がいない資料準備室で話をする。

 ディスレクシアのことを調べた二宮は、水人が、文章を読むのは困難だが、聴けば理解できることを確認する。勉強の補助のために、放課後に教科書を朗読して録音させることと、アルバイトは禁止なので内緒だが、イラストのオーダーメールやメッセージも朗読してあげることを提案する。そのかわり、授業時間中はちゃんと教室にいて、図書館に来るのは放課後だけにすることを約束させる。

 水人から、ペン画は描き直しが大変なのでデジタルイラストに挑戦したいと相談を受けた二宮は、中古のiPadとApple Penなら数万円で揃うことを示す。

 読めないことを言い訳にせず、成績でトップを目指すことと、イラストの売上でiPadを買うことを二人の内緒の目標にする。中古品のサイトを検索しながら将来の夢を語る幸せな時間。



・シーン4

 翌日、担任の綾瀬先生に、授業をサボって教室を抜け出したことを叱られる水人。二宮との約束を思い出し、もう抜け出したりしないと誓う。

 放課後、資料準備室に水人と二宮の二人でこもり、教科書の朗読を始める。各教科の教科書を一章ずつ二宮が読み上げ、水人のスマホで録音していく。姉の七海が大学進学前で家にいたころは、読み上げて録音してくれた参考書で勉強していた水人は、久しぶりの感覚に喜ぶ。二宮も水人の役に立っていることに喜びを感じる。

 「ココカラ」のトラブルも、二宮のアドバイスに従って解決し、次のオーダーメールを二宮が朗読して、イメージを語り合いながらイラストのアイデアをふくらませていく二人。

 水人は、個人用のLineのメッセージも横で読み上げてほしいと二宮に依頼する。最近クラスでグループLineを立ち上げたので、その連絡メッセージがたくさん入って来ていた。二宮は、個人的なメッセージを読むことに少し躊躇するが引き受ける。


2章

・シーン5

 放課後、平塚が水人を遊びに行こうと誘うが断られる。最近、急に付き合いが悪くなったとなじる平塚に、水人は「好きにさせろ」と言い返して口論になる。水人が立ち去った後、寂しがって落ち込む平塚。表に出しているギャルっぽい口調と、内面の繊細な乙女心のギャップ描写。

 資料準備室で朗読の後、なぜ二宮が教員ではなく司書として学校に就職したのか、水人は尋ねる。二宮は、人を指導したり、先生と呼ばれるのは苦手で、ただ好きな本に囲まれて、本好きの人と一緒に時間を過ごしたいだけだからと説明する。

「なら、二宮先生じゃなくて、リオさんて呼んだ方がいいの?」

「正直、その方がしっくりくるかな。他の人がいない時は、そう呼んでくれてもいいよ」

「じゃあ、僕のことも中井君じゃなくて、水人って呼んで」

「生意気。呼び捨てはさすがにやりすぎだから、水人君にしてあげる」

 いつものメッセージ朗読の時間。水人の個人アカウント宛に、クラスの女子生徒からメッセージが来ていたが、二宮は読み上げずに削除する。

「これは、水人君のためにならないメッセージだから削除。大丈夫。やっかみで書いてる悪口だから、気にしない気にしない」


・シーン6

 六月の梅雨入り。教室で、松田を中心とした陽キャグループが、仲間を集めてカラオケに行こうと企画を立てて、新たに少人数の遊びグループLineを作る。平塚は、クラスで孤立している水人を心配して、リーダーの松田に水人を遊びグループLineに入れてもよいか尋ねる。取り巻きが「ヤマネコはやめとけ」と反対する中、松田は快諾し、わざわざ水人の近くまで行って声をかける。しかしツレない対応をする水人。

 放課後。いつものように図書館の資料準備室にいる水人と二宮。一年生の教科書は全て録音し終わったので、朗読はもう終わりだねと言う二宮に、図書館の本を朗読してほしいと依頼する水人。かつて姉の七海に読んでもらっていた本を思い出す。

「それならオーディオブックっていうのがあるけど」

「違うんだ。僕は、録音がほしいんじゃない。僕は、リオさんが好きな本を、リオさんが読んでいる声で聴きたい」

 二宮は大学生の時に好きだった恋愛小説を選び朗読する。キスシーンの描写があり、照れた二宮が読むのをやめると、水人は続きを読んでほしいとせがむ。読み続けると、性行為を暗示するシーンとなり二宮は本を閉じる。

「こんなストーリーだったかなあ。昔読んで感動したのに、すっかり忘れてた。教育上よろしくないから、ここまで」

「リオさんは先生じゃないんだろ。教育じゃなくて、僕もリオさんと一緒に時間を過ごす本好きの人になりたいだけだから」

 再び本を開き、官能的なシーンを含む一章を最後まで読み終えて、真っ赤になっている二宮。どうしようもない衝動に駆られ、水人は二宮を抱きしめてキスする。

 驚く二宮を見て冷静になり、飛び退いて謝る水人に、「いいの。でもこれ以上はダメ」と優しく微笑む二宮。


・シーン7

 朝、水人が教室に行くと平塚が近づいてきて、松田の遊びグループLineに送られて来たメッセージを読んだかと聞かれる。昨日二宮に読んでもらったメッセージには無かったので「知らない」と答えると、放課後カラオケに行く企画があるので、水人が行くなら行こうと思っていたけど、知らないならいいやと言いながら平塚は去る。

 気まずい思いを抱えながら図書館に行く水人。二宮は気にしていない風で、一人しかいない図書委員の生徒が親の転勤で転校してしまうので、図書委員になってくれないかと誘う。しかし水人は、本のタイトルを読むのも大変から無理だと断る。

 いつものようにスマホを渡すと、二宮がオーダーメールや個人宛のLineのメッセージを、ちょくちょく削除しながら朗読していることに気づく水人。何を削除したのか尋ねると、「水人君に必要なことは、全部私が読んであげるから、安心して」とにこやかに答える。二宮の異常性をほのめかす描写。

 少し引っかかりながらも、朗読される声に浸って、気にしないことにする水人。


・シーン8(三人称視点)

 水人の後をつけてきて二人の様子を廊下で伺う平塚。水人が先に図書館を出るのを待ち、一人になった二宮を捕まえて行動を問いただす。

「部活でも委員会活動でもないのに、女性教員と男子生徒が二人きりで狭い部屋にこもってるって問題でしょ!」

「何も問題ないわ。ディスレクシアの中井君の勉強には、補助が必要なの。教育者として『合理的な配慮』をしているだけよ」

 平塚は、教科書や本の朗読については納得するが、メールやメッセージも読み上げていると言われたことには、プライバシーの侵害ではないかと驚き、やめるように言う。逆鱗に触れられたように怒る二宮。

「中井君は読めないだけで、豊かな才能があるの。私はそれを花開かせる手伝いをしているだけだから、邪魔しないで。あなたに、彼のチャンスや能力を潰す権利はないわ!」

「あんた、おかしいでしょ! 自分がおかしいことに気がつかないの?」

 喧嘩別れになる。


3章

・シーン9

 平塚から、昨日送ったメッセージを見たかと聞かれるが、水人には朗読された覚えがなく、スマホにメッセージも残っていない。平塚から、二宮の異常性を訴えられるが聞く耳を持たない水人。

 目の前で「明日の放課後、遊びに行こう」というメッセージを送り、「今日、二宮先生がこのメッセージを削除したら信じてくれるか」と迫る平塚。そんなことはあるはずがないと言い切る水人。しかし放課後、二宮は、平塚の送ったメッセージは読まず、戻されたスマホを見ると消されていた。

 慄然とする水人。


・シーン10

 翌朝、前日制服のままカラオケに行った松田たちのグループが、地元の卒業生の大人に注意されたと話している。「どこでOBが見てるか、わかんないよな」

 水人は平塚に昨日の結果を報告する。平塚は、スマホには読み上げ機能がついているから、誰かに朗読してもらわなくても聞くことはできる。実際に来ているメッセージを自分で聞いてみろと言う。

 放課後、体調が悪いから帰ると電話で二宮に連絡し、平塚と一緒に駅近くのファーストフード店に行く水人。制服で立ち寄っているとOBに注意されないかとドキドキする二人。平塚は、水人のスマホに読み上げ機能を設定し、二人で片方ずつイヤホンをしてLineのメッセージを聞き始める。

 イヤホンから流れて来るのは、いつも二宮に読んでもらっている連絡事項よりずっと多い、同級生の悪口や愚痴、無意味な絵文字。聴いているうちにイライラし始める水人。次にメールの読み上げを聞き始めると、支払請求を装ったSPAMメールやココカラに書き込まれた水人への誹謗中傷メッセージの転送が続き、一々反応しそうになる水人を必死に止める平塚。次第に言葉の暴力に打ちのめされてくる水人。

「こんな無駄で攻撃的な文章を聞き続けるのはつらいし、時間の無駄じゃないか。それに機械の音声は嫌いだ」

「なんでこんなひどいことを書いてくるんだ。僕が何をしたっていうんだ。ただイラストを描いて喜んでもらっていただけじゃないか」

「いつもの優しくて温かい二宮先生の声で、本当に必要なメッセージだけを聞きたい。たとえ他の女子からのメッセージが削除されていたとしても、僕は二宮先生がいてくれればそれだけでいい」

「ごめん。せっかく教えてくれたけど、僕は耐えられない。僕には、やっぱり二宮先生が必要だし、二宮先生がいてくれるだけでいいから。先生の元に帰るよ」

 立ち去る水人と、後ろ姿を見送り、泣きながら何かを決意する平塚。


・シーン11

 翌日の放課後、図書館の資料準備室に水人が入ると、昨日の体調不良は治ったのかと心配しながら暖かく迎える二宮。いつものように本の朗読を始めるが、落ち着かない水人。

 メッセージを読み上げるためにスマホを二宮に渡す時に、少しためらい、ぎこちなくなる水人と、それを不審に思う二宮。

 突然、扉を開けて平塚が入って来る。

「平塚さん?! 何で入ってこられたの?」

「まったく、図書館の入口に鍵かけるなんて。職員室まで合鍵取りに行かなきゃなんなかったじゃん。面倒なことしないでよ!」

「邪魔しないで。部外者が来るところじゃないわ」

「残念でした。あたしもここにいる権利があるもんね! 今日から図書委員になったから」

「あなたが?」

「そう。今までやってた子が転校して空席になるんでしょ。担任の先生に申し込んだから。あたしも水人の『合理的な配慮』に参加する! あんた一人に任せておいたら、水人はどんどんダメになっていくから」

 女同士の意地の張り合い。平塚も、朗読くらいできると主張して本を読むが、読み間違えたり難しい漢字が読めなかったりして、二宮に馬鹿にされる。一方で平塚は、自分のスマホと水人のスマホを並べて、二宮が勝手にグループメッセージを削除していることを突きつけ、監視が必要と主張する。最後は二宮が妥協し、朗読は二宮がするが、メッセージやメールは、削除するかどうか平塚もチェックすることになる。


・シーン12(前半三人称視点)

 制服のままカラオケに行った生徒の件が、地元の卒業生から学校に通報される。一年生ということしかわからないので、生活指導の藤野先生は、各クラスの担任と一緒に、誰がカラオケ店に行ったのかを特定するために生徒のヒアリングを始める。

 学級委員として最初にヒアリングされた松田は、藤野先生と担任の綾瀬先生の意図を察し、カラオケに行ったメンバーが特定されると停学など罰を受けかねないので、みんなで黙っていようと遊びLineグループにメッセージを送る。

 (ここから一人称視点)

 昼休みに姉の七海から、納品したイラストの入金があったので水人の銀行口座に振り込んだと連絡があり、中古のiPadをオーダーする水人。目標の一つを達成し二宮に報告したくてワクワクしていると、呼び出しがかかる。

 藤野先生と綾瀬先生のヒアリングは、最初はディスレクシアの状況確認から始まるが、次第に、授業をサボって抜け出していたことを非難され、部活に属していないことから放課後は何をしているかと尋問される。放課後、よからぬ所に寄り道しているのが後から発覚したら厳罰だが、誰と行っていたか、いま白状すれば許すと言われるが、何のことだかわからないと突っぱねる。二宮に迷惑がかかることを懸念し、図書館に通っていることは何も言わない。疑いを募らせる教師たち。

 放課後の資料準備室で、二宮が、水人のスマホに届いていた松田の「カラオケの件は、みんな黙っていよう」というメッセージを読み上げたので、ようやくヒアリングの意図を理解する水人。平塚は、他の教師には黙っていてほしいと二宮に土下座して頼み込む。

「なんでだよ。これで先生達が探している連中がはっきりすれば、もう僕のことは詮索されないで済むんだろ。あいつらがどうなったって、知ったことじゃない」

「何言ってんのよ! 仲間はずれにされていたあんたを、あえてグループに入れてくれたのは松田だよ?! 周りの連中は、ヤマネコなんて入れるなって反対してたのを押し切って。それが、あんたのスマホからバレて罰を受けたら、なんて言われる? ヤマネコなんかグループに入れたからだって。松田がバカだったって。それじゃあんたを薦めたあたしの立場も無いし。松田に申し訳ないじゃん」

 床に座り込んだまま泣き出す平塚。悩む二宮。

「わかったよ。リオさんが僕のスマホのメッセージをチェックしているのも不自然だし。そこを説明してると、僕が『ココカラ』でバイトしていることがバレてしまうかもしれないし。リオさん。やっぱり他の先生には言わない方がいいかも」

 黙っていることを約束する二宮。

 図書館でのメッセージチェックのことを知られないようにしながら、どう嫌疑を晴らすか悩む水人と平塚。



4章

・シーン13

 数日後の昼休みに、藤野先生と綾瀬先生に再び呼び出され、突然図書館通いの件について尋問される。

 松田の口止めによりグループの誰も白状しないので、カラオケに行った生徒の特定は進んでいない替わりに、水人が、毎日閉館した後の図書館に入り浸っているとの情報が入っていた。藤野先生は、文章が読めないはずの水人が、なぜ図書館に、しかも閉館後に行っているのか不審に思い、厳しく追及する。

 二宮に迷惑をかけてはいけないとシラを切り続ける水人。しかし、とうとう逃げきれず、二宮が帰った後にこっそり平塚と二人でいると言ってしまう。男女交際禁止の校則に違反している疑いがあると激昂する藤野先生から、今度は平塚と二人で呼び出すと申し渡される。


・シーン14

 ヒアリングから解放されると、すぐに平塚を連れて資料準備室に行き、謝る水人。

「ちょっと、ちょっと! そりゃ水人を助けるためだったら、いくらでも怒られてあげるけど、全然助かってないじゃない! しかも、水人と存分にイチャイチャしてから怒られるなら差し引きプラスだけど、まだ手もつないでないし、何にもしてないのに男女交際禁止で怒られるって、あたし、すっごい損してない?」

「平塚さんと二人でいたなんて、変な言い訳しなくても、私が水人君の勉強を手伝っていると言えばよかったのに」

「いや……リオさんと二人きりなんて言うと、先生と生徒の間で何をって疑われると思って。リオさんには迷惑をかけられないから」

「ねえねえ! この人には迷惑かけられないけど、あたしにはかけてもいいって、どゆこと?」

「ああ、平塚相手なら何にもないって堂々としていられるから」

「なんか、すっごい悔しいんですけど!」

 カラオケ事件の生徒探しと、自分の図書館通い疑惑の両方を解決するアイデアを考える三人。そう言えば、綾瀬先生って文月で七月生まれという話があったなと思い出す。十五日って明日じゃないか?

「いいこと思いついた。平塚。松田宛にメッセージ送ってほしいんだけど。あと検索してほしいことがある」

「いいよ。何?」


・シーン15

 七月十五日の放課後、学級委員の松田からの連絡で、掃除の後、一旦職員室に帰っていた綾瀬先生を呼び戻す。教室に入ると、壁一面に飾り付けをして、黒板に大きく「誕生日おめでとうございます!」の文字と特大似顔絵イラストのカラーコピー。クラス全員で、ハッピーバースデーを合唱して、平塚から小さなケーキを渡す。教室の後ろのドアから二宮もこっそりのぞいている。

「実は、先生の誕生日をサプライズでお祝いしたくて、クラスの有志で準備してたんです。学校でやるとバレてしまうので、カラオケのパーティールームを使って飾りを作ったり、歌の練習していたんですけど、校則違反だったのはその通りです。聞き取りの時、本当のことを言えなくてごめんなさい」

 真っ赤な嘘でもっともらしく謝る松田に、目を潤ませる綾瀬。

「そうだったの。校則違反は良くないけど、ありがとう。藤野先生には、寛大な措置にしてもらえるように頼んでおくわ」

「あと、この企画を立ててくれたのは、中井君と平塚さんなんです。二人でいろいろなアイデアを出してくれたので。あのイラストも中井君が描いたんですよ」

 涙をこぼして喜ぶ綾瀬。

「ありがとう。昨日は、二人のことを誤解して、ひどいことを言ってしまってごめんなさい」

「いや、こっちも黙ってやっていたので、しかたないですよ」

 あまりに純粋に感動している様子を見て、だんだん後ろめたくなってくる水人。こんなにちょろいとは思わなかった。

「中井君は、文章を読むのが苦手なのを克服するために、みんなには内緒で毎日図書館で朗読を聞いて勉強しているんです。自分も、それをフォローしています」と涙ながらに説明する平塚。さらに感動した綾瀬先生にしっかり手を握られて、激励される水人。

「中井君は、ハンディを負っているのにそれを乗り越えて、頑張っているのよね。先生も全力でサポートするから、必要なことはなんでも言って。大丈夫。藤野先生には、しっかり説明してあげるから心配しないで」

 感激した綾瀬先生が、イラストを持って職員室に戻った後で、松田は水人に握り拳を向ける。

「ヤマネコのおかげで、みんな助かったよ。サンキュー。すごい借りができたな」

「いや、大したことはしてないから」

 握り拳を返し、コツンとぶつける水人。


・シーン16

 図書館の資料準備室で、水人、二宮、平塚の三人が、散らかった紙屑やビニール袋を片付けている。半日で教室の飾り付けを作り切った後始末。

 平塚は、自分もメール削除の監視だけでなく、水人に朗読サポートすると宣言し、二宮と意地の張り合いになる。

「これからも、水人君には私だけが必要だし、私にとっては、水人君に奉仕するのがこの学校にいる唯一の意味なの。あなたが入り込む隙間は無いから」

「ふざけるなー! あたしだって水人の役に立てるわよ。どっちがより水人君の役に立つか競争だからね!」

「あのー、次のメール読んでもらっていいかな? そろそろクライアントから連絡があるはずなんだけど」

(完)



・2巻以降の展開

 夏休みになると、毎日図書館で会うことができなくなるので、どうするか相談する三人。二宮は、自分が一人暮らししているマンションに来ることを提案する。ただし、平塚は来ないでいいと言うので喧嘩になる。

 一方、姉の七海が帰省してきて、イラストの指導をしながら水人を甘やかす。実は極度のブラコンだった。

 頻繁に出かける水人を不審に思う七海と、七海に嫉妬する二宮の関係を軸に展開する夏休み編。






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