お泊り会2

 僕がこの世界の作者だから、なんでも知ってる訳ではない。漫画もライトノベルもスポットライトを浴びる事ができるのは、いつもメインキャラクター達だ。




 だから、僕は梓の内面を知らなかった。勿論…言い訳なんてするつもりはない。だけど…知らない上で、悔しいかな…。こんなにも梓は魅力的な子だったんだ…。




 心の中でそんなことを思っていると…梓は、まだ恐る恐るではあるものの、お母さんお手製クッキーを両手で取り、口に運んでいる。




「美味しい?」

「うん!!梓は、こんなに甘くて美味しいのを食べた事がないよ!!」

 ——なんか…ごめんなさい!!




「それならよかった。僕も、このクッキー好きなんだ。どんどん食べていってね」




 僕が、梓に笑顔を見せながら告げた瞬間——





 ピンポーン




 …

 ……

 …………



 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン





「犬でも待てるのに…玲緒奈かよーちゃんか分かんないけど、お説教しなきゃっ!!」


「あ、あはは…」


 僕は、玄関の方から大量のインターホンの音が届き出したのと同時に、階段を降りて…玄関の方へと向かう。


 ——玲緒奈かよーちゃんか


 少しだけ浮ついた気持ちになりながら、右手をドアノブに当てて、開けると——


 黒色のシルクハットの帽子を被り、目元にはサングラスを掛け、スリムな全身をスーツで包んだマフ⚪︎アと呼んでも差し支えなさそうな男性がいた。


 その姿が見えた瞬間——


 バタンッ


 僕は両手で光よりも早く扉を閉じた。


 ——スペインファミリアのキャラクターが僕の漫画の世界に来ちゃったのかなぁ…あれれー


 心の中で、現実逃避をしていると——


 ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン…


 先程のインターホンが鳴り響いた…。止まる気配がなかった事に加えて、ダイニングにいたお母さんが、こちらに来そうになっていたので、仕方なく扉を開ける。




「全く…君が僕の愛娘を誑かした黄泉穂花君だね…?ふむ…容姿端麗な君をこの世界から消すのは残念だが…」




 その言葉と同時に僕の額へ…銃口が向けられる。




 先程まで、汗一つ出していなかったのに、僕の全身から、汗が出ているのを感じる。

 現実では一瞬の出来事なのに…体感の時間は永遠に続くかのようだった。




 そんな生き地獄を打ち破ってくれたのは、僕の太陽だった。




「パパ!!あたしの穂花にそんなことしないで!!もー嫌い!!穂花をいじめるパパとなんか二度と口聞かない!!」

 ——タ、タイム!!その人、お父さんなの!?よーちゃんのお父さんをマフィアにした覚えないんですけど…若手の娘思いの実業家に設定にしていたはず…だ。




「よーたん…ダメだ。この女は、よーたん以外にも、他の女を作った。それはもはや有罪ギルティ。即刻、排除すべきなんだよ。分かって欲しいんだ」

 ——で、できれば、額に銃口を押し付けながら流暢に話さないでいただけると、助かりま…




「………最後に言い訳だけを聞こうか」

「えーと…そ、そうですね。その件に関しては海よりも深く山よりも高い事情がありましてね…?」

「聞こえないなぁ…?」

 ——な、なにこの怖いキャラクター!!!知らない!!




「パパ…あたしの未来の嫁になんてことすんのよ!!怯えてるじゃない!!そんなことするパパの家に帰るのなんて絶対に嫌だから!!決めた!!あたし、ここに住む!!だからぁ…穂花、あたしと結婚しよ?」





 どさくさに紛れて…よーちゃんが僕に近寄り上目遣いをしながら…え、瞼を閉じて…こ、これはそ、そのき、き、キスしたいって事でい、い、いいのかな?




『主は恋愛経験の何一つもなさそうなのじゃ』

 ——お供物一つ減らす!!

『ぬぉぉ!?なんで妾にだけ辛辣!?なのじゃ?』




 情けないアフロディーテの声が聞こえた気がするが、当事者の僕にとってはそれどころではないっ!!




「あぁん!?うちの玲緒奈を誑かしたアマがいるっちゅーからきてみれば、浮気か?アマ…もちろん、この落とし前はたこうつくでぇ?」

 ——な、なんで…………このタイミングで月夜家当主と玲緒奈がそれぞれ、黒色と桜色の着物を羽織りながら僕の玄関まで来るのかな…?




 なにより、このお泊まり会に二人のお父さんが来るなんて聞いてないし、双方の親がヤ⚪︎ザとマフ⚪︎アになってるなんて聞いてないよ…。




 きっと、二人の父親が無理矢理、愛娘であるよーちゃんと玲緒奈についてきたのは、彼女達の親に向ける冷たい視線を見れば、わかるんだけどね。





「はぁ…!?なんですか。いい歳にもなってうちの娘を脅しおってからに…てめぇら、覚悟できてんだろな!?」

 ——今度は誰!?って思い、声のする方向へ視線を向けたら…普段の言葉遣いとは全く異なる——僕のお母さんだった…。なぜか…阿修羅を完璧に従えて、レディースの総長みたいになってるぅ!!





 それと同時に…僕の一生懸命考えたキャラクター設定が、全て崩れていく…。




 最早、親同士でメンチを切らしており、僕とよーちゃんと玲緒奈は、無視されるようになったので、その隙に僕は二人を自室へと招いて避難…ではなく、改めて、お泊まり会を開始した。




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