いちんちめそのにー。

 



 全裸になることは“だめです”の一点張りで諦めさせられたので、とりあえず色んなものの確認をすることにした。


『なんで今下着の中を確認してるんですか』

「ホントに生えてるとかウケるー」

『ウケないで』


 股間にナマコみたいなのとゴールデンボールが二個と水色のが生えてるんですけどウケるー。


「でさー、あとドラゴさんとハーツさんが来てんすよね?」

『わたくしの話聞く気ないんですね』

「まあまあそー言わずに」

『仕方ないですね……はい、そうです』


 めっちゃ仕方なさそー。ウケるー。いやウケてる場合じゃないんだけどねぇ。

 そういうわけなので、ふざけずに気になることを尋ねることにした。


「あの二人どこ?」


 来てるんだよね、おっさんの姿で。


『……それが……あの……申し上げにくいんですが……はぐれました』

「え」


 詳しく聞けば、どうやら焦り過ぎた結果、自分でも何がどうなってこうなったのかは分からないが、気づいた時には三人がバラバラの場所に転移してしまったそうだ。あらまぁ。


『で、でも大丈夫です! あなた方はあのゲームでいうパーティを組んだフレンドの状態なので、パーティチャットや、あとフレンドチャット、フレンド間メールを使えますし、なによりマップ機能もそのままです!』


 意気揚々と言われたので、確認の為に“あの画面出ろー”と念じてみると、たしかに、あの慣れ親しんだゲームほぼそのままのコンテンツメニュー画面を空中に出す事が出来た。どこかで見たファンタジー小説と同じならきっと自分にしか見えないんだろうな。と思いつつ、内容確認を開始する。

 今後本当に使うか分からんようなキャラクターの装備や状態などの確認が出来る、いわゆるステータス画面や、今連絡を取ることの出来るフレンドが表示されたフレンド画面。

 それから、これも使うか分からん今組んでいるパーティメンバーの体力などが分かる簡易画面。

 これを見る限り二人とも元気そうである。


 そして肝心のメール機能とマップ機能だが、たしかにゲームで使っていたそのままだ。


 来たことのない場所だから地形距離感その他もろもろが真っ白ではあるが、パーティメンバーがどこらへんに居るかは、親切な青い点がマップ上で教えてくれていた。


「あー……」

『一応、理由やその他もろもろをメールで送ってますし、すぐに合流出来ますよ!』


 うん、すーごい至れり尽くせりなんだけどねー。


「んー……多分無理かなー」

『なぜっ!?』


 なぜというか、まぁ。


「あの二人、方向音痴なんすわ」

『えっ』

「ドラゴさんは天然で方向音痴、ハーツさんはマイペースで方向音痴。ほんでどっちも誰かに言われなきゃメール機能すら気づかないタイプ」

『詰んでるっ!?』


 普通は大丈夫だと思うよねー。でもそれが当てはまらないのがあの二人なのである。

 まず画面が出ることに気づくかなあの二人。気づかないだろうなー。メニュー画面に気づけたとしてもマップ機能に至っては気づけるかすら分からない。

 正直アタシも言われなきゃ気づかなかった。


「詰んでるねー」

『ど、ど、どうしたら……』

「二人の居場所分かってんならアタシんとこ来たみたいにやったらいんじゃねーすか」

『それは……あなたを起点にしてしまったので無理ですが、声を飛ばすことは出来ます』

「んじゃあ、それで」

『分かりました、そうします』


 いやー、まじ便利だなこの小さいの。

 つーか今更だけど、コイツなんなんだろ。


 白く光る、透明な、妖精とか精霊とか、なんかそんな風に見えるけど小さいせいで性別も顔立ちも分からん。体長5cmくらいしかないんじゃないのコイツ。まぁ、どうでもいいんだけど。


「ところで、魂抜けた元の体ってどーなってんです?」

『あ、ご安心ください、こちらの魂をまるごとコピーして突っ込んできましたので、あちらの人間関係にはなんの影響もないはずです』

「なるほど」


 そりゃつまり明後日の仕事もゲームの続きも勝手にやってくれるってわけか。仕事はともかくゲームは自分でやりたいんだが、そこんとこなんとかならんのかなゲームしたい。


『しかし、輪廻出来る魂が三つも突然世界移動してしまったので、あちらの神様とこちらの神様にこっぴどく怒られまして……』

「ほんほん」

『神としての地位と名前を剥奪の上、あなた方のサポートを任された次第です……』

「あっはっは」


 ざまぁ。


『笑いごとじゃないんですよ!?』


 アタシにとっちゃ笑いごと以外のなんでもない。正直コイツの事情とかどうでもいいしね。

 それでもまだ何か言いたそうな雰囲気だったから耳を傾けることにした。


 どうせ自分がどれだけショックだったかとかの恨み節を聞かされると思っていたのだが、しかしソイツは予想外の内容を口走り始めた。


『わたくしはさておき、あなた方はゲームの能力そのままにこんなファンタジーな異世界に来ちゃったんですから!』


 ドヤ顔で言うことがそれなのかコイツ。

 いや、待て、それより。


「……そのままなんすか?」

『あ、いえ、厳密に言うと完全にそのままではないです』

「ふむ」


 どっちやねん。


『例えばあなたは吟遊詩人でしたよね?』

「まぁ、ゲームの職業ですがね」

『でも他にも弓術や銃火器など、遠距離物理攻撃を得意としてましたよね』

「そーね」


 真剣な話のようだし、一応聞く体勢を、と腕を組む。しっかし腕長いな。足もだけど。


『なので、その肉体は遠距離物理攻撃特化であり、魔法や大剣、盾役などは出来ません』

「なるほどー」


 つまりアタシに出来るのは攻撃補助と仲間の補助、それから遠距離からの狙撃と援護射撃、あとは気配察知とかか。便利じゃん。


『つまり、あなた方パーティのそれぞれの役割そのまま、異世界に転移した形になります……』

「ほーん」


 他にも何が出来るか確認したいところだけど、さぁどうしようかな。と思ったその時、急に小さいのが怒り始めた。


『なんであなたそんなにユルいんですか!!!』

「いやだから全く現実感ねーんですわ」

『だとしてもユルすぎます!』


 怒られても困るっていうか、なんていうか。


「焦ったり、怒ったり、そーゆーの性に合わねぇんすよアタシ」

『はぁ……! もう、もうなんなんですか……!』


 不意に、小さいのが頭を抱えてうずくまった。


「ん?」

『一人称が“アタシ”で!? ユルくて笑顔が胡散臭い猫耳のチャラいイケオジとか!!! 卑怯にも程があるでしょ萌え殺す気か!?』


 なんだかよく分からない魂の叫びを聞いた気がした。


「いきなり何の話すか……こわ……」

『鏡! 鏡見てください! ほら!』

「……あー、なるほど」


 もう一回差し出された鏡を改めて見て、思う。

 たしかにこんなおっさんがそんな感じだったら卑怯かもしれない。

 え、アタシすごいイケオジじゃね?


『それで! ほかになにか質問ないんですか? 全部答えますよ』

「質問……あー、そうだ」

『はい! なんでしょう!』


 顎に手をあてて、軽く悩んでいるジェスチャーが無駄に様になっている気がするが、それは今はどうでもいい。

 とても重要で、すごく気にしておかなきゃいけないことを思い出したからだ。


「……アタシらが本当のアタシらで、偽物じゃないっていう証明出来るんです?」


 小さいのを睨む。お前は信頼出来ないのだと鈍感な奴でも分かるように、眉間にシワさえ寄せながら睨みつける。


『!!!』

「……どしたんすか」

『い、いきなり真剣な顔で、すごくかっこいい顔しないでください……萌え死にます……』

「は?」


 どうしようコイツあかんかもしれん。


『ゲフンゲフン! えっと、本物である証拠でしたね』


 それで誤魔化されると思ってんのかなぁ。

 じとーっと見ているのにも関わらず、小さいのはどこか誇らしげに語り始めた。


『簡単です。魂の強さが違います』

「ほう?」


 魂の強さとな。


『例えば、神の権限で一つの命を生み出したとして、世界の輪廻を巡る魂が宿っていない命はすぐに消えます』

「それってつまり残して来た元の体は……」


『あぁ、いずれはどこかで朽ちるでしょうね。でもそれにはあちらの時間で三十年以上はかかりますのでご安心ください』

「安心していいのか微妙なんすけど」


『そのままのあなた方なので、ちゃんとお仕事もするでしょうし、親孝行もすると思いますよ?』

「……あー、うん、そう思ってんならそれでいいすわ」


 言いたいことは色々あるし、そういう問題じゃないんだけど、そこはまあ考え方の違いというやつなんだろう。


 正直、この小さいのの言葉を全部そのまま信じるほど素直な人間じゃない。

 口ではどうとでも言えるし、アタシらの精神に何かしてないとも言いきれない。

 信用、信頼、そういうものはすぐに出来るものじゃないからだ。


 まぁ、わざわざ助けてくれるって言ってるんだから利用するだけしてやろう。あとの二人が本当に来てるのかも疑わしいし、もし来てたとしてもあの二人はきっと何も疑わないだろうから、アタシだけでも全てを疑いながら行くとしよう。


 こうなった原因は神じゃなくて、悪魔とかそういうのの可能性もあるしな。


 さぁて、どれが嘘でどれが本当だろうね?



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