異世界転移イケオジ受肉三人衆~TSって普通美少年ちゃうんか~

藤 都斗(旧藤原都斗)

いちんちめー。

 



『ねーねー! テレビ画面みっつ並べてゲームしたい!』


 どちゃくそ明るい声がイヤホンから響く。パーティリーダーでムードメーカーなドラゴさんだ。

『タンク』と呼ばれる、モンスターを引き付けながら戦うポジションが得意な人で、凄くまわりが見えている割に、方向音痴で天然という濃い人である。

 オフ会で会った時はボーイッシュで可愛い女の子だった。

 ゲームのアバターは龍人族オス。筋肉がごつくてデカい体格なのに腰が細く見えるせいでなんか妙な色気が可愛いという美味しい種族である。


 彼女はそんなアバターを自分の好みにモデリングして、微妙に可愛いモーションで動かす。

 種族基本モーションが荒いのでギャップ萌えがやばい。


「おっ、いいすねぇそれ、夢すねぇ」


 それに同調するのはアタシだ。自他ともに認めるテキトー人間、ただし仲間に言わせればめっちゃユルいのに妙に要領良くて運がいい人、永見結莉弥28歳。ゲーム内ネームは、ユーリャ・ナーガ。とある企業の事務職員。

 ゲームの中では遠距離物理攻撃職を中心に、色んな職業のレベルをカンストさせている。

 アバターは猫獣人オス。モーションがちょいちょい猫なので何やっても可愛い種族である。

 吟遊詩人がしたかったのでめちゃくちゃチャラく見えるようにモデリングした。


『楽しそうで良いね』


 優しい声でそう言ったのはパーティのヒーラー担当、ハーツさんだ。ヒーラーなのに何故か前戦に出て敵や魔物をシバくので、完全な殴りヒーラーである。よくお腹すいたーと言っているので食いしん坊なのかもしれない。

 オフ会で会った時は優しそうでほんわかした大人のお姉さんだった。


 アバターはエルフオス。綺麗な顔した割にモーションがどちゃくそ偉そうなのが特徴の種族である。

 彼女はそれを童顔お兄さんにモデリングしていた。


『決まりだね! んじゃあ、ユーリャさんちがちょうど中間地点に家あるし、広いし、コンセント多いからユーリャさんちでやろ!』


 さすがはドラゴさん、家を三回言っている。これが天然か……。


「アタシんちかー、いいすよー」


 答えながらそんなことを思う。

 画面の中のアタシのアバターが、うんうんと頷きながらグッと親指を立てた。このモーション猫耳がピコピコして可愛いんだよなぁ。


『え、いいのユーリャさん』

「いいすよいいすよー、こーいうことは楽しくて好きー」

『やったー! じゃあハーツさんと一緒にお邪魔するね!』

『すみませんがお伺いします』


 そんなやり取りで決まった、ゲーム内のフレンドとのちょっとした集まりが、なんか知らんけどやばい事になった。



「うせやん」



 目の前に広がる、ものすげー森。

 キシャーとか鳴く植物や、あびゃびゃびゃびゃとか変な鳴き声のブサイクな鳥らしき生物が視界の端を飛んでいく。

 あとついでに自分の声がさっきまでと全然違うことにも気づいたが、それはこの際置いておくとして。

 それよりもやばいのが、目の前の石の上で土下座する、なんか光ってる小さい存在である。


『ほんっっっとーに!!! もうしわけ!!! ありませんでしたァァァァァァ!!!』


 次の瞬間、男とも女とも取れない声が頭の中に響き渡った。


 なんかこのパターンどっかで見たな?

 よくあるファンタジー小説で似たようなやつ見た気がするな?


「それより先に状況説明聞いていいすかね?」

『はいっ! ここはですね! あなた方の言うファンタジー異世界と思って頂いて構いません!』

「まじかー」


 ファンタジー異世界かー。まじかー。出来ればゲームの世界が良かったなー。


『剣と魔法のファンタジー異世界です! 本当に申し訳ごさいませんでした!!!』

「いや、なんでそんな謝ってんすか」

『わたくしの手違いで!!! 皆様をこの世界に飛ばしてしまったからです!!!』

「……みなさま……って、もしかして、あの二人も来てるってこと?」

『はいっ! 本当に申し訳ないことで、あなたがたはあの時の姿で召喚されてしまいました!!!』


 あー、それで声が低いのか。つーか二人の姿見えないけどどっかで寝てんのか……ん? まてよ?


「あの時の姿っていうと……」

『はい! 皆様が楽しそうにはしゃいでいたあの姿です!!!』

「鏡ある?」

『……はい』


 どこからともなく、空中から現れた鏡を躊躇いなく覗き込んだ。


「わーお」


 思わずそんな声が漏れたのは、見覚えがあるけど見覚えのない顔がそこに映っていたからだ。


 毛先をゆるく三つ編みにした、水色の柔らかそうな長髪と、ひょっこり生えた同じ色の猫耳。猫のような大きな目。その下には赤い、隈取りみたいな紋様が一筋。そして浅黒い褐色の肌。


 年齢は若く見たら38、逆で見て42くらいだろうか。


 全体的な印象として、チャラい。


「まじかー、これがアタシかー」


 鏡の中の、妙に綺麗な顔したチャラい上に猫耳のおっさんが困ったように笑う。

 一人称の『アタシ』という発音が『あたし』という女の子特有のものじゃなく、胡散臭いおっさんが使ってるものにしか聞こえない。

 いや、普段からそんな感じだったから違和感は無いんだけど、むしろこれ似合いすぎじゃないだろうか。

 うん、いいなこれ。

 よーし違和感少ないしこのままで行こう。イメージはルパン三世、またはBLE○CHの帽子の人だ。名前は忘れた。


 なお、この姿は本来の姿ではない。

 アタシの知ってる人物というかソレであるなら、20歳前後くらいであるはずだ。だってそう設定してたし。


「これってさー、外見変更薬で遊んでた時の、アバターの姿……ですよね?」

『はい……、全て……全ては、わたくしが悪いのです……!!!』


 そう叫んで泣きながら弁明してきた小さいのが言うには、外見変更薬で外見年齢だけおっさんに変えたアバター達の外見に、一目惚れというか、それに似た何かをしてしまったらしい。

 それだけなら良かったものの、何を思ったかこの小さいのは、近くでそれを見たいとアバター達の外見を再現しようとデータを引っこ抜こうとして、何を間違ったのか中の人であるアタシ達まで引っこ抜いて連れて来てしまったそうな。


「いや、データ取られたら困るんですけどー?」

『すぐにコピーして戻す予定だったんです……! だけど手元が狂ってあなた方ごと……、本当に申し訳ごさいません……!』


 あー、なるほどー。


「でもなんでおっさんの姿のままなんです?」

『……間違って引っこ抜いたあなた方の魂がその肉体に定着してしまったので、変えることが出来なくなったんです……外見変えたら多分死にます』

「あらまー」


 死ぬのはちょっとやだね。


『本当に申し訳ごさいません……。皆様、本来は女性の方ですのに、意図せずTS……性転換させてしまうことに……』

「やー、長い人生そういうこともありますさー」

『ないですよ普通!?』


 間発入れずにツッコまれたんですけどウケるー。


「そーは言っても、なっちゃったらしゃーねーでしょうよ」

『そうなんですけど……!』

「まあ正直、現実感全然ねーんすわコレ」

『あー……そっか、そうですよね……すみません……』


 なんかめちゃくちゃ沈んだ声が頭に響いて、なんていうか、うん、まあいいやめんどい。


「そんだけ謝るってことは、もしかせんでも帰れねー感じすか?」

『はい……、魂はこちらに来た時点でこちらの帰属となってしまうのです……』

「あらまー」


 よくあるパターンだねそれも。


『なので、あなた方がこちらで不自由なく生きられるように全力でサポートさせていただきます!!!』

「やったー」


 めっちゃご都合主義展開してんじゃん、上手く行けばこのままスローライフじゃん、やったー。いきなり『あなた方には殺し合いをしてもらいます』とかいうデスゲーム始まらなかった良かったー。


『……あの、怒らないんですか?』

「帰れねーんなら開き直るしかねーべや」

『いや、たしかにそうなんですが……』


 恐る恐る、そして怪訝そうに尋ねてくる小さいのに向けて腕を組んで目を瞑り、軽く唸ってみせた。


「んー、まー……そりゃー思うところはありますよ?」

『だったらなぜ……?』

「やっぱ現実感無さすぎるんすよ」

『あー……』


 なんでそんな納得されてしまったのか分からんが、まあいいや。


「とりま、一回全裸になっていい?」

『え』


 好奇心のままの言動は、物の見事にこの場を凍り付かせたのだった。


 

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