第8話 ゴブリン討伐
俺たちが目指すは街道から外れた場所にある小さな森。
そこの中心にある大きな一本杉を目指す。
ちなみにどうやってその杉に目を付けたかといえば、それは森の妖精フィーナの手柄。
彼女は手近にあった草花に手を添えると地域の情報を収集する。
「この辺に大きな樹木はありませんか?」
花々さえ鼻の下を伸ばしながら、
「それならばそこの森の中心にある一本杉がいいよ」
と教えてくれる。
フィーナは「ありがとう」と礼を言うと、その場所を俺に教えてくれた、というわけだ。
街道から半日ほど歩くので、魔物と遭遇する可能性は高まるが、俺たち夫婦は最強カップル、どのような魔物も恐れるに足らずだった。
事実、途中で襲い掛かってきた一角兎も返り討ちにする。
突進してくる一角兎を颯爽とかわすと、むんずと首根っこを掴んで首をぽっきり。
「こうやってしめると肉質が柔らかいまま保存できるんだよな」
ちなみに一角兎は一〇〇年前に行われた人気魔物ランキングぶっちぎりの一位だった。
弱い!
どこにでもいる!
美味い!
の三拍子が揃った魔物だからだ。凶暴なわりに草食性で肉も臭くないのが最高だともっぱらの評判だった。
もっともエルフを始め、菜食主義の冒険者の評判は悪いが。
基本、見た目は可愛いので狩ることを嫌うものも多い。
ちなみに我が妻は可愛いものが大好きであるが、自然の摂理はわきまえていた。弱肉強食は世界の理、肉食文化を否定することはない。ただし、肉を食べたあとは入念に歯磨きしないとキスしてくれないが。
ぽっきりと骨を折った一角兎の肉をいぶして保存すると、そのまま旅を続ける。
さて、半日ほどで到着する行程だが、俺とフィーナの旅を影から見つめるものの姿が。
そのものたちの存在にはすぐ気がついたが、あえて無視をする。
ちなみに俺たちを見張っているのは、先ほどの人だかりにいた大工たちだった。
おそらくではあるが、自分たちの仕事を取られると思い込んでいるのだろう。
もしかしたら邪魔しようとしているのかも知れない。
気持ちは分かる。
橋の工事は莫大な金が動くのに、それをぽっとでの俺に取られるのは悔しいのだろう。
面子を潰されたという気持ちもあるのかもしれない。
その気持ちは重々分かっているので、この時点では反撃しないが。
ともかく、俺たちは様子を見ながら森に向かった。
森に入る。
街道脇の森は思ったよりも深い。
少し入っただけで日差しが遮られるほど木が密集していた。
「へえ、意外と木々が残っているな」
「はい。街道の側なのにあまり開発されていません」
「だな。これだけ人里に近いならば木こりがいっぱいいそうなものだが」
耳を澄ますが、木こりが木を切る音は一切ない。
フィーナがとんがり耳をピンとさせるが、郭公(かっこう)の泣く音だけが響き渡っているらしい。
「人間がいないってのは妙だな」
「魔物が多い森なのかもしれませんね」
「たしかに」
そのように結論を纏めると、後方から、
「う、うわぁああ!」
という声が聞こえてきた。
振り返ると、そこにいたのは大工たちに斬り掛かっている小さな鬼だった。
黒曜石やさびた剣によって斬られる大工たち、彼らは恐怖に顔を青ざめさせている。
「——レナス、こいつらは」
「ああ、雑魚モンスターの定番だな。一〇〇年後でもしっかり生き残っているのな」
見ればそこにいたのは定番の魔物、ゴブリンだった。
魔王の眷属の中でも最下級に位置するが、最も面倒くさい連中でもある。とても旺盛な繁殖力を誇っており、数を頼りに人間の軍隊を圧倒することさえある。
一体一体はたいして強くないが、とても狡賢く、強欲だ。
人里に現れては家畜や人間の子供などを攫うことでも知られている。
小さな緑色の悪魔は「きしゃー!」と俺たちに牙を見せる。
生まれてから一度も洗ったことがないだろう牙は、とても汚く、醜かった。
彼らは俺たちを取り囲んでいた大工たちを逆に取り囲むと、一斉に斬りかかっていた。
「なるほど、どうやら俺たちはゴブリンの巣穴に入ってしまったらしいな」
「大工の方々は巻き込まれてしまったのですね」
「ああ。しかし、同情には値しないな」
俺たちを取り囲んでいたということは、俺たちを襲撃する予定だったのだろう。大工なのに武力によって物事の解決を図ろうとした当然の末路だった。
しかし、我が妻フィーナの慈愛は聖女級だ。自分たちを害そうとしていたものたちにさえ慈悲をかける。
「レナス、お願いです。どうか大工の皆さんを救ってあげてください」
「そういうと思っていたよ。しかし、やつらは君にすけべ心を抱いてたようなやつだぜ」
見ればズボンが半分ずり落ちてるやつもいる。男の俺だけ始末して、女性の尊厳を踏みにじろうとしていたやつもいるようだ。
「未遂です。それにわたしはどのような場合でも貞操を守ります。わたしを抱きしめることができるのはレナスだけ」
事実、彼女はすけべ心を出して襲いかかってきた男どもを全員のした実績がある。
彼女の怒りが頂点に達すれば各種精霊王を召喚し、街ひとつ破壊してしまうことさえできるのだ。
広範囲に被害を出せるという意味では、ある意味、俺より優れているのが精霊使いの妻であった。
俺はそんな妻が大好きなので、彼女の勧めに従う。
「慈悲を見せるのは一回だけだぞ」
大工たちに告げると、剣を抜く。
すらり、と剣を抜くが、抜いたのはただの数打ちのロングソードだった。
魔王討伐の際は聖剣を装備していたが、聖剣は行方不明になっていた。フィーナの話によればいつの間にか所在不明になったそうな。
まあ、魔王戦前に手に入れた剣なのでそこまで愛着はないのでいいが。
そのようなことを思いながら、一閃加える。
刹那の速度で高速の剣閃が飛ぶ。
俺の一太刀によってゴブリンは縦半分に一刀両断される。
「ぎ、ぎぃ!」
あまりの速度にゴブリンたちは顔色を蒼くさせる。緑色から蒼に変わっていく様は爽快であるが、いまだゴブリンの数は多い。やつらの士気は萎えない。
「いいだろう。ゴブリンと戦うなんて一〇〇年と数ヶ月ぶりだが、この一〇〇年で少しは進化したのか、試してやる」
そのように挑発すると襲い掛かるゴブリンを一匹一匹、または一太刀で複数匹、斬り殺していった。
一五匹ほど切り裂くと、ゴブリンたちは逃げ出す。
一匹逃げ出せば、あとは蜘蛛の子を散らすようであった。
こうして俺は久しぶりのゴブリン戦に完全勝利した。
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