第7話 落ちた橋

 ロペの宿場町で一晩を過ごした俺たちは、翌日、旅を再開する。


 この町に何日か逗留してもよかったが、さしたる名所もない場所なので、先を急いだほうがいいと判断したのだ。


 ゆっくりまったりの旅であるが、俺には寿命がある。


 どうでもいい街で何週間も過ごしていたら、あっという間にじじいになってしまうだろう。


 フィーナは、


「白髪になって、腰が曲がっても愛しております」


 と言ってくれるが、こっちとしては元気なうちに聖地巡礼の旅をしておきたかった。


 というわけで旅再開。


 街道を北上するが、途中、橋の手前に人だかりが出来ていることに気がつく。


「この橋渡るべからず、とでも布告が出てるのでしょうか」


「ならば〝真ん中〟を渡るだけだが、どうやら違うみたいだ」


 そのようなやりとりをしながら人だかりをかき分けると、橋が落ちていた。


 人々の声に耳を傾けると、


「先日の大雨で川が氾濫したらしい」


「ここらへんで唯一の橋なのに」


「直るまで三週間は掛かるぞ」


 とのことだった。


「三週間足止めかな」


 やれやれと妻を見るが、彼女は名うての精霊使い。


「精霊の力を借りればこれくらいの川、ひとっ飛びです」


 と提案してくれる。


「そういえば俺を助けに来てくれたときも風の精霊王ガルーダを使役したみたいだしな」


「はい」


「じゃあ、今回も、と言いたいところだけど、俺はぴかんと電球をともした」


「必殺技でも閃いたのですか?」


「いいや、ビジネスチャンスを閃いた」


「と言いますと?」


「俺たちはばびゅーんと魔法で飛べばいいが、地元の人や旅人は違う。三週間も足止めだ。しかし、俺たちが橋をもっと早く直せば困っている人たちは大喜びだろう」


「たしかに」


「少なくとも船賃くらいは払ってくれるはず。特急料金を乗せた」


「ですね」


「というわけでこの橋を修理するぞ」


 俺はそう言うと、人だかりに宣言する。


「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい」


「なんだ? なんだ?」


 周囲の人々の視線が俺に集まる。


「ここにいますはレナス、それにフィーナという夫婦にござい」


「なんだ、七勇者のふたりと同じ名前じゃないか」


 冷やかしの声が飛んでくるが、適当に返す。


「両親が七勇者を尊敬しているもので、その名を賜りました。――妻はまあ、エルフは石を投げればフィーナに当たると言われております」


「へえ、それでその夫婦がなんのようだ?」


「実は我々はその実力も七勇者級でございまして、この落ちた橋を架け直すことができます」


「なんだって!?」


 驚愕する村人と旅人。


「信じられん。近隣の村人を集めて最速で三週間で仮橋が出来るかってとこなんだぜ」


「我々ならば三日で可能です」


「ほんとかよ!?」


「本当ですよ。しかし、我々は勇者ではない。ボランティアというわけには……」


「無論、橋が直るならば金は払う。常識の範囲内だが」


 一同を代表して偉そうな村長が宣言する。


 村の代表が言うのならば金払いの心配はないだろう。


 俺は妻フィーナと相談すると、指を一〇本突き出す。


「それでは金貨十枚で。近隣の村と急ぐ旅人から徴収すれば余裕のはずです」


「……たしかに格安だ。三週間も橋が使えない経済的な損失を考えれば」


 料金提示に納得した村長は、即座に俺に依頼するが、全面的に信じてくれたわけではないようだ。並行して村人たちにも橋の再建築の準備をさせる。


 こちらとしてもそれで一向に構わなかったので、さっそく、橋を架けるべく、フィーナと一緒に近くの森に向かった。

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