第6話 コミュ障お届け

 セーバースイーツ配達員ロシェ。黒髪ロングで日本刀を腰に差し、いつもクールで無口な彼女には隠された秘密があった。


(今日こそはみんなと

 仲良くお喋りしたいな……)


「あ、ロシェさん。

 おはようございます! 」


「……おはよう」


 シュカと挨拶したロシェは無表情のまま心の中で荒ぶっていた。 


(おいっ! この根暗っ!

 お前の口は飯食うため

 だけに付いてんのかって! )


 そこへいつものようにマナとアプリが出勤してきた。


「あれ? 今日はロシェ早いね?」


「別に……いつもと同じ……」


(目が覚めて早く起きたって言えば

 良いでしょ!? なんでそんな

 言い方するの!? バカなの!? )


「おはロシェ〜! ねぇ見て見て!

 これこの前拾った石なんだけど!

 これマナに似てると思わない!? 」


「ど、どこがよ……」


「……そう。良かったわね」


(確かにマナっぽい! って

 言ったらマナ気を悪くするかも

 しれないし! これはどう答えたら

 良いのか分かんないよ!? )


 ロシェは一通り仲間と挨拶を交わすと、バイクの元へ向かい一人で整備を始めた。


(はぁ……。な、なんで私は

 いつもこうなんだろ……)


 ロシェは無口でクールな訳ではなかった。ただコミュ障なだけだったのだ…。本当は年相応にみんなと仲良くお喋りしたい普通の女の子なのだった。


(みんな優しいし、私はいつも

 こんななのに、毎日

 話し掛けてくれるし、

 笑顔を向けてくれる……)


(私は彼女たちに救われてる……。

 みんなに感謝の気持ちを伝えたい。

 みんなに楽しく毎日を過ごして

 もらいたい……)


 営業開始からしばらくして、一本の通信が入った。シュカが応対している。


「……はい。……はい。

 あの岬にあるお家ですか。

 はい、分かりました。すぐに

 お届けいたします。はい。

 では、失礼いたします」


(注文が来たんだ……。

 コミュ障の私は少しでも

 みんなの役に立たなきゃ……! )


「……私が行く」


「ロシェさん行ってくれますか?

 いつもやる気満々ですね……」


「別に……。仕事だから」


(あぁ〜もうやめて!

 お願いだからシュカに

 そんな言い方しないで!!

 ごめんなさいシュカ!! )


 心の中のロシェは涙目で無表情のロシェに説教していた。


 商品を荷台に積むと、ロシェは出発の準備を整える。そこへアプリがふらっと近寄ってきた。


「ロシェロシェ! この石、

 あなたにあげる!

 なんかこれ持ってると、

 ご利益がある気がするのよね! 」


「……ありがとう」


 アプリはマナに似てると言っていた石をロシェに手渡した。テンション低くお礼を言うロシェだったが、アプリは満足そうに頷いていた。


(確かに。なんだかご利益ありそう)


 ロシェは微笑みながら、その石を大事にポケットにしまった。バイクに跨がると目的地に向け出発した。


(岬にあるお家……。あっちね)


 通信機に残された残留思念から、依頼主の位置を特定する。


(私のこの無愛想……。

 身内だけならまだ良いけど……。

 いや、全然良くはないけど……)


(お客様への接客では

 致命的だわ……。

 いつもそれが一番心配で

 気が重いのよね……)


 ロシェは溜め息をつくと、不安でいっぱいな気持ちをなんとか抑えて、目的地へと急ぐのだった。


 岬に着いたロシェは辺りを見回す。視界の先に一軒の小さな家があるのが見えた。


「はぁ……はぁ……」


 ロシェは家の前で顔色を悪くしながら、荒い呼吸を整えようと奮闘していた。


(ど、どうしよう……!

 お客様に話し掛けるの

 き、緊張するよぉ……!

 だ、誰か助けてぇ〜……! )


 心の中のロシェはへなちょこな顔で涙を零しながら狼狽えていた。


「あ、そ、そうだ……」


 ロシェは何かを思い出し、ポケットの中からゴソゴソと何かを取り出した。


「マナ様、マナ様……。

 どうか私をお助けください……」


 アプリに手渡されたマナに似ている石を握り締め、石から力を貰おうとしていた……。まるで何かの宗教のような異様な雰囲気を纏っていた。


「あ、あの……。私の家の前で

 何やってるんですか……? 」


 そこには依頼主の女性が立っていた。石に話し掛けるロシェに完全に困惑していた。


「ふ、ふぇ……!? 」


 恥ずかしい姿を見られてしまい、普段はクールで無表情の表ロシェも、へなちょこ涙目フェイスになってしまっていた……。


「あぁ……セーバースイーツの

 配達員の方でしたか……。

 失礼しました……」


 女性は家のドアを開け、スイーツを受け取ろうとしていた。ロシェは家の奥の物が目に入り、つい気にしている素振りを見せてしまった。


「あ、私、画家なんですよ……。

 そんな有名じゃないですが……。

 エミル・ヨクミタルと言います」


「え……!? 」


 テンションの低いロシェも思わず飛び上がった。ロシェは芸術が好きでよく美術館に足を運んでいる。そんな彼女のお気に入りの画家がエミルだったのだ。


(あ、あのエミルがこんなところに!?

 あ、あの憧れのエミルが……!? )


(どうしよう……。

 は、話し掛けたい……。

 お近付きになりたい……)


「……あの、どうかしましたか? 」


「……いえ、別に」


(別にじゃないでしょっ!?

 馬鹿なの!? 馬鹿ロシェ!!

 いくじなし!! おたんこなす!! )


 心の中のロシェが自分を罵倒しながら、ロシェは後ろ髪をひかれながらフラフラとバイクへ戻った。


「なんか面白い配達員だったわね……」


 エミルはスイーツを受け取り、家の中へ戻っていった。


「さて、もうひと頑張り……。

 キリの良いところまで描いたら

 このスイーツで休憩しましょう」


 エミルは絵の続きを描き始める。この世の物と思えない幻想的な景色が描かれていた。……そんなエミルの元に、不穏な影が忍び寄っていた。


「はぁ……」


 バイクに跨がり店へ戻るロシェは意気消沈していた。大好きな憧れの人を前にしても無愛想な態度を取ってしまったのだ。ロシェは過去一番と言っても過言ではないほど落ち込んでいた。


(これは引きずる……。

 ショックでもう何も

 考えられない……)


 ロシェの心の中とは裏腹に、爽やかな潮風を浴びながらバイクは海沿いを突き進んでいた。

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