セーバースイーツ 〜魔導バイクと妖精アプリの力で、瘴気が蔓延る異世界でスイーツをお届け!〜

ざとういち

第1話 特攻お届け

 何もないだだっ広い荒野。バイクを吹かす音が響く。バイクに跨るのはひとりの少女。


「アプリ! 目的地を教えて! 」


「すいません。聞き取れませんでした」


「ちょっと! 真面目にやってよ! 」


「まあまあ、小粋なジョークで

 場を和ませようとしただけよ」


 少女は、薄っぺらい板状のタブレットのような物の中に潜んでいる妖精と会話をしている。妖精は体を霊体のような状態へ変化させていた。


 妖精の名はアプリ。少女の姿をしているが、人間の手のひらに乗るくらいのサイズしかない。アプリはペラペラと今回の“依頼”の内容を振り返る。


「今回のご注文は、荒野を抜けた

 遥か先にある、ポツンとした

 一軒家にお住まいのおじいさん」


「おじいさんはフィジカル溢れる人で、

 ずっと自然の中で暮らしている

 らしいんだけど、離れて住む

 お孫さんがたまには甘い物でも

 差し入れてあげたいとのこと」


 それを聞いたバイクに跨がる少女は俯きながら呟く。


「魔界から溢れ出す瘴気……。

 これのせいで家族と会えない人が

 たくさんいるんだよね……」


 この世界はある日突然、魔界と呼ばれる邪悪なエネルギーで満ちている世界と繋がってしまい、そこから瘴気が溢れてしまった。


 瘴気の影響は高齢の人ほど受けやすい。瘴気を纏った状態で接触してしまうと、人から人へと伝染する恐れがあるのだ。


「そこであたしら

 セーバースイーツの

 出番って訳よ! 」


「魔法の力で動く

 魔導バイク。そして、

 超優秀なサポーターである

 このあたし、アプリが! 」


「世界中の人々に

 スイーツと笑顔を

 お届けするのである! 」


 アプリがドヤ顔で胸を張っている。少女がなんであなたが威張ってるの…? と突っ込んでいた。


「運転するのは私なんだけど……」


「そうそう、このポンコツで

 いつも頼りないマナは、

 あたしのサポート力の

 おかげで届けられるのよね」


「好き勝手言いやがってぇ〜……」


 でも確かにそうだという自覚があり、それ以上マナと呼ばれた少女は反論出来なかった。


「んじゃ、いつも通り

 案内してやるから、

 ちゃっちゃとバイク

 走らせなさい」


「はいはい……」


 そう言うとアプリはタブレットの中で地図を広げ、現在地を指差す。マナは、ハンドルの中央に固定したタブレットに映る地図を逐一確認しながら、バイクを走らせるのであった。


「ほんと何もない場所だね……。

 アプリの案内がなかったら

 一瞬で迷ってしまう……」


「あたしの命を感知する能力、

 これさえあれば迷うなんて

 ありえないからね! 」


「依頼人と近しい人なら

 命を辿れちゃうのよ〜。

 何故なら優秀だから〜」


「優秀な人は自分でそんな

 優秀優秀言わないと

 思うんですけど……」


「うぐっ……! 」


 マナとアプリはボケとツッコミのようなやり取りをしながら、目的地へとひた走る。


 マナが地図に気を取られていると、道の途中に落ちていた大きな石をタイヤで踏んづけてしまった。


「うわっ!? 」


 バイクは高く飛び上がる。アプリは勢いでタブレットから飛び出しそうになりながら、必死で掴まり踏ん張っていた。


 バイクは勢いよく着地する。ガクン。とマナの体は前のめりに揺れる。踏ん張り虚しくタブレットの外へ飛び出してしまったアプリは、時間差でタブレットの中に着地した。


「いでっ!? ちょ、ちょっと!

 マナあんた気を付けなさいよ! 」


「ご、ごめんごめ……ハッ!! 」


 マナは慌ててバイクから降りると、後ろに積んである荷物を確認した。


「あぁ〜……良かった……。

 注文の品物は無事だった……」


「全くも〜ほんとに鈍臭いんだか……」


「ら……」


 アプリは突然太鼓を首から下げ、口には笛を咥え始めた。


「緊急事態発生! 緊急事態発生!

 マナちゃん! 急いでバイクを

 発進させてください! 」


 アプリはそう叫ぶと、太鼓を叩きながら笛を吹く。そのけたたましい音にマナは怯んだ。


「ちょ、ちょっと何!? 」


「いいから早くバイク

 走らせなさいって言ってんのよ!! 」


 アプリは涙目になりながら叫ぶ。マナは咄嗟に後ろを振り返った。


 そこにはマナの数倍はある巨大なサソリが佇んでいた。


「ひっ……!! 」


「ひゃあああああああっ!? 」


 猛スピードでバイクを走らせるマナ。巨大サソリはそれを見ると、同じく猛スピードで追い掛けてきた。


「ちょ、ちょっとアプリ!?

 なんなのこの化け物サソリ!? 」


「たぶん瘴気を浴びて

 こうなっちゃったんだと思う! 」


「そ、そんな……!! 」


 サソリは尻尾の毒針を掲げ、マナへと狙いを定めている。


「マナ!! 危ない!! 」


「くっ……!! 」


 マナは咄嗟にバイクのブレーキを握る。急停止したマナに狙いを定められなくなり、サソリは空振りしていた。


 マナはサソリとは逆方向に走り出し、なんとかサソリの追跡を振り切ろうとする。だが、サソリは執拗にマナのバイクを追い掛け続けていた。


「このサソリ無視してやりたいわ!

 虫だけに! なんつって! 」


「そんなこと言ってる場合じゃ

 ないでしょ!? アプリ、サソリを

 追い払う方法はないの!? 」


「追い払うのは無理!

 ……仕方ないわねっ!! 」


 アプリはタブレットから飛び出しサソリを挑発する。


「オラオラこの虫野郎!!

 調子乗ってんじゃねぇぞコラ!! 」


 サソリのヘイトが自分へ向かうのを確認すると、アプリは全速力でマナとは反対方向に飛びながら逃げ始めた。


「アプリ……!? 」


「あたしがなんとかこいつを

 撒いて来るから……!!

 あんたは出来るだけ遠くまで

 走りなさい……!!

 命を辿って後で追い付く……!! 」


「……〜〜っ!! 」


 マナはアプリが心配でたまらなくなるが、アプリのことを信じ、バイクを走らせた。


「鬼さんこちら!

 手の鳴る方へってね! 」


 アプリは軽快に飛び回りサソリを引き付け続ける。サソリに表情は無いが、怒っている様子だった。


 アプリに狙いを定めて尻尾を何度も突き出す。


「うひゃあっ!? ひえぇっ!! 」


 尻尾の連撃をなんとかギリギリでかわし、サソリを引き離そうと賢明に飛び回る。


「はぁ……はぁ……っ!!

 くそっ……しつこいわね……!! 」


 なかなか引き離せず、アプリの体力が限界を迎えそうになっていた。そこへ再び尻尾の毒針攻撃がアプリを襲った…!


「し、しまっ……!! 」


 集中力が切れ、尻尾が直撃しそうになるアプリ……!


「アプリっ!! 」


 バイクをフルスロットルで走らせ、マナが間一髪アプリをタブレットへ回収する。


「戻って来ちゃったの……!?

 どうすんのよ……! あんたまた

 追い掛けられちゃうわよ……!? 」


「だ、だって、アプリが

 心配だったから……!! 」


「……ほんとしょうがない子ね」


 アプリは嬉しいような呆れているような複雑な心境で微笑んでいた。


「こうなったらもうこのサソリ

 殺っちまいましょう!! 」


「でもさっき追い払うのは

 無理だって……! 」


「“追い払う”のはね……! 」


「あたしが魔導バイクの中に入る!

 そしてあたしの魔力を上乗せして

 出力を引き上げるから! 」


「そうしたら突っ込め!! 」


「無茶苦茶だ……。

 ……でも、乗った!! 」


 アプリが魔導バイクの中へ侵入する。そして動力源の魔力エンジンに自らの力を上乗せした。


 マナが勢いよくエンジンを吹かす。サソリが尻尾を振りかぶろうとする瞬間を狙い、一気に加速する……!


「おりゃあああああっ!! 」


 魔導バイクはオーラのような物に包まれ、勢いよくサソリの体を貫通した……!


「ひえぇっ……! べちゃべちゃだ……! 」


「でも……なんとかなった!

 ありがとうアプリ……! 」


「ま、優秀だからね。

 あたしは当然として、マナも

 マナにしちゃ上出来よ」


「あんまり褒められてる

 気がしない……」


 バイクの中で好き勝手喋った後、アプリは再びタブレットの中へと戻った。


「よし、配達を再開しよう! 」


 マナは再び、目的地のおじいさんの家へとバイクを走らせるのだった。

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